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2016.05.10

不動産購入による節税の失敗例

※2014年11月配信当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

さて、今回は「不動産購入による節税の失敗例」ですが、平成23年7月1日の裁決を取り上げます。

まずは、この事例の状況は下記となっていました。

○ 平成19年7月 被相続人が入院

○ 平成19年8月 被相続人がマンションを2億9,300万円で購入

○ 被相続人には意思能力がなかったにも関わらず、相続人に対する委任状があり、これにより本件マンションを購入

○ 本件マンションを購入した翌日に売却を依頼する一般媒介契約を締結

○ 本件マンションの財産評価基本通達による評価額は約5,800万円 

○ 平成19年11月 相続登記(相続開始日は伏字)

○ 平成20年7月 本件マンションを2億8,500万円で売却

○ 原処分庁は被相続人が相続人に現金2億9,300万円を贈与し、被相続人の名前を借用し、本件マンションを購入したと更正

○ 重加算税も課された

この裁決における争点はいくつかあるのですが、

○ 争点1 本件マンションは相続財産か否か

○ 争点2 仮に本件マンションが相続財産であるとした場合の評価方法

○ 争点3 重加算税賦課決定処分の適否

を取り上げたいと思います。

これに関し、国税不服審判所は下記と判断しました。

○ 争点1

・ 本件被相続人が請求人に対し、本件マンションの購入に関する委任をした

  事実は認められず、本件委任状が作成されているとしても、本件被相続人

  は意思無能力者であったから、当該委任契約は無効である。

・ そうすると、請求人が本件被相続人の代理人として行った本件売買契約は無権代理行為となる。

・ しかしながら、請求人は、本件被相続人の唯一の相続人であるところ、無権代理人である請求人は本人である本件被相続人の資格において無権代理行為の追認拒絶権を行使することは信義則上認められないから、無権代理行為は当然有効となり、本人である本件被相続人が自ら本件売買契約をしたのと同様の法律上の地位を生じることとなる。

・ 本件マンションは、本件相続の相続財産となるから、本件マンションの取得に充当した現金を相続財産であるとする原処分庁の主張は、その前提において誤っているものといわざるを得ない。

・ 原処分庁が、請求人が本件被相続人から贈与を受けたと主張する金員は、すべて本件被相続人名義での本件マンションの購入代金及び仲介手数料等の付帯費用の支払に充てられており、本件被相続人の預金が本件被相続人名義の本件マンションの購入代金等に充てたられたものにすぎないから、本件マンションの購入に当たり、請求人が本件被相続人から相続税法第9条に定める利益を受けた事実はなく、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。

○ 争点2

・ 請求人は、評価基本通達による不動産評価額が実勢価格よりも低く、本件マンションの購入価額と本件マンションの評価額との差額が多額であることを認識しながら、当該差額234,981,776円について、

本件相続税の課税価格を圧縮し相続税の負担を回避するために、■■■■■■、自己の行為の結果を認識するに足る能力を欠いていた本件被相続人の名義を無断で使用し、本件売買契約に及んだものであることは、これを優に認めることができる。

・ このような場合に、評価基本通達に基づき本件マンションを評価することは、相続開始日前後の短期間に一時的に財産の所有形態がマンションであるにすぎない財産について実際の価値とは大きく乖離して過少に財産を評価することとなり、納税者間の実質的な租税負担の平等を害することとなるから、上記の事情は、評価基本通達によらないことが正当として是認されるような特別の事情に該当するというべきである。

・ ①本件被相続人の本件マンション取得時(平成19年8月)と本件相続開始時が近接していること、②本件被相続人の本件マンションの取得時の金額が293,000,000円であること、③請求人から本件マンションを取得した■■が売却を依頼した時点(平成20年7月及び同年8月)の媒介価額は、315,000,000円であること、④本件マンションの近傍における■■■の基準地の価格は、本件相続開始日の前後においてほぼ横ばいであること等を参酌すると、本件相続開始時における本件マンションの時価は、取得価額とほぼ同等と考えられるから、本件マンションは293,000,000円と評価するのが相当である。

○ 争点3

・ 請求人は、相続税の軽減を目的として、本件被相続人の有効な委任がないままに本件被相続人名義の預金を払い戻し、被相続人名義で本件マンションを購入したものである。

      

・ しかしながら、相続税の申告において、請求人の納付すべき税額が過少となったのは、本件マンションの評価基本通達に基づく評価額とその実勢価額に開差があることにより生じたものであり、請求人の上記行為によって直ちに生じたものではない。

・ 上記請求人の行為をもって課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したとまで評価することはできず、請求人に対する重加算税賦課決定処分は、違法であるといわざるを得ない。

相続開始前の不動産購入、相続開始後「即」売却は他の事例(例:リクルートコスモス事件)でも否認されている通り、大きな税務上のリスクを伴います。

タワーマンションによる節税も非常にもてはやされていますが、特に売却のタイミングには気を付けないと、節税を考えた意味がなくなってしまうのです。

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