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2016.02.03

住民票、居住の実態、重加算税

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「住民票、居住の実態、重加算税」です。

居住用財産に関する税務の特例には様々なものがありますが、

これを証明する書類として住民票があり、添付が義務付けられています。

しかし、中には「住民票」と「居住の実態」とが相違している場合もあり、

本来は特例を受けられないにも関わらず、居住の実態がない住所地の住民票を添付し、

受けているケースもあります。

では、このような行為は重加算税の対象になるのでしょうか?

具体的な事例をいくつか挙げてみましょう。

なお、出典はTAINSとなります。

まずは、重加算税の賦課が取り消された事例です。

○ 昭和58年4月28日、裁決

請求人が本件家屋の所在地に住民登録したのは、住宅公団の地元居住者優先

分譲を受けるためであって、本件申告書に添付するために住民登録を移転

させたものでないことが認められ、また、譲渡する前に本件家屋に一時的に

仮住まいしていたので措置法第35条の規定に該当すると信じて、住民票の

写しを添付したことがうかがわれることから、請求人に仮装の意図があった

とは認められず、したがって重加算税を賦課することは相当でない。

(解説)

住民票の異動につき、「住宅公団の地元居住者優先分譲を受けるため」

という他の合理的理由があり、一時的な仮住まいでも特例の適用があると

信じていたので、そこに仮装の意図は無い。

○ 昭和61年5月22日、裁決

請求人が譲渡前1年1か月にわたり断続的に居住し、そこから通勤もして

いた本件家屋は、水道、電気及びガスの消費量が極めて少量であること、

従前、妻子と同居し、引き続き妻子が居住している別の家屋の水道等の

消費量にさしたる変動がないことなどの事実に照らし、本件家屋は請求人の

従たる住居とみるのが相当であり、居住用財産には該当しないから租税特別

措置法第35条の適用はないが、本件家屋が請求人の1年余にわたる生活の

場の一つであつたことは確かであるから、そこに住民登録を移したことを

不自然な行為であるとすることはできず、住民登録の移替えをもつて事実の

隠ぺい又は仮装があつたとすることは相当でない。

(解説)

居住用家屋が2以上ある場合、従たる家屋に住民票を異動していたとしても、

それは隠ぺい、仮装には該当しない。また、どちらの家屋を譲渡するかも

明確に決めてはいなかった。

○ 平成5年5月21日

本件の場合、請求人の親族らが本件家屋に居住し、請求人のみがアパートに

居住した経緯及び請求人の住民票が本件家屋の所在地から移転しなかつた

事情等を考慮すると、当該住民票を添付したことは、必ずしも、租税回避を

目的として事実を隠ぺいしたものであると推認することはできず、また、

請求人の虚偽答弁等のみをもつては、仮装したものであるとはいえないから、

重加算税を賦課することは相当でない。

(解説)

虚偽答弁があったとしても、妻子が残っている住所から本人が居住している

住所に住民票を異動しなかったとしても、特殊事情等を考慮すると、

仮装には該当しない。納税者には様々な「特殊事情」が想定され得るが、

そういう場合に参考とすべき事例。

次に、重加算税の賦課が適法とされた事例です。

○ 平成2年12月27日、裁決

請求人は、本件建物にかつて居住していたとはいえ、6年前から譲渡の時

まで、他人に貸し付けていたにもかかわらず、本件土地建物の所在地に

引き続き住民登録をしていたことを奇貨として、その住民票の写しを

確定申告書に添付し、また、本件建物の2階を請求人が占有使用していた

旨を記載した借主の同意書を申告期限前に作成し、借主からその署名押印を

拒絶されたにもかかわらず、その後の調査の際に、借主以外の者が署名押印

したと認められる借主名の同意書を提出し、居住用財産の譲渡所得の特別

控除の適用を受けようとしたことは、事実の隠ぺい又は仮装の行為に該当

すると認められるから、重加算税の賦課決定をしたことは相当である。

(解説)

虚偽の「借主の同意書」までも作成していたことが隠ぺい、仮装に該当する

とされたが、そこまでの積極的行為がなければ、これらに該当しない、

とされた可能性もある。

○ 平成5年5月21日、裁決

本件資産は、居宅を新築する資金に充てるため、それまで貸家にしていた

ものを売ることとしたが、当該譲渡に係る譲渡所得について租税特別措置法

第35条の規定の適用を受けんがため、住民票上、居住期間を仮装したもの

であり、電気の使用量等から居宅が完成するまでの仮住まいであつたと

認められる。したがつて、本件資産は本件特例に規定する居住用財産に該当

しないことは明らかであり、居住用財産の売却に係る特別控除の適用はできない。

本件資産の賃貸期間を偽つて確定申告をするとともに、本件資産について、

虚偽の居住の為の補修工事をしたこと等の申立てをし、また、実際の居住期間

とは異なる住民登録をした住民票を確定申告書に添付し本件特例を適用した

ことは、通則法第68条第1項の規定に該当し、重加算税の賦課決定は適法である。

(解説)

特段の特殊事情もなく、(上記にはありませんが)居住の用に供するための

補修工事をした、という虚偽の申し立てもあり、実際の居住期間と住民票に

表示された期間に相違があり、重加算税が適法とされた事例。

○ 平成11年3月15日、裁決

請求人が、本件家屋及び長男家族の家財道具の管理等のために、昭和63年

頃から本件家屋を譲渡した直前までにおいて、時折本件家屋に住んでいたこと

を否定することはできないが、①請求人の住所が本件家屋の所在地となって

いるものは、平成7年8月10日から同年9月29日までの住民登録及び

本件売買契約書の請求人の住所のみで、他はすべてS町の家屋の所在地で

あったこと、②本件家屋における水道及び電気の使用量並びに電話の利用

料金は、長男家族が帰省したお盆、正月の時期等はそれなりに使用されて

いたことは認められるが、その他の月のこれらの使用量及び利用料金は僅少

又は使用されていなかった月があること、③本件家屋及びS町の家屋の近隣

住民等の申述からすれば、請求人は、S町の家屋を生活の本拠としていた

ことがうかがえること、④仏壇は、生活の本拠である家屋に置き、先祖を

供養するのが一般的であるが、請求人は、S町の家屋に置いていたことが

認められ、これらを総合すると、請求人は、本件家屋及び長男家族の家財

道具の管理等のために本件家屋を一時的に利用したにすぎず、請求人の生活

の本拠はS町の家屋と認められる。

請求人が住民登録を本件家屋所在地に転居の届出をしたときは、すでに本件

譲渡資産を譲渡する認識をもっていたとみるのが相当であり、請求人が、

本件家屋を真に居住の意思をもって、生活の本拠として居住していたという

事実及び請求人の住民登録の住所を異動しなければならなかった合理的な

理由が認められない以上、この届出は、本件特例の適用を受けるための事実

を仮装するためにあえて届出したものと認められ、この事実に反する住民票

の写しを本件申告書に添付して提出したことは、国税通則法第68条第1項

の課税標準の基礎となるべき事実を仮装し隠ぺいしたことに該当する。

(解説)
上記には記載がないが、本件譲渡資産に係る売買契約書の契約日を、

平成7年8月21日から平成7年9月21日に変えた契約書の写しを作成し、これを

添付して申告していること、さらに、本件家屋は主たる居住の用に供していた

家屋でないにもかかわらず、本件家屋所在地に転居の届出をした上で、その旨

が記載された住民票を添付して申告したことにより、重加算税の賦課が適法と

された。

いかがでしょうか?

このように見てくると、「居住の実態と違う住民票を添付する」という行為

だけで重加算税の対象になることはないことが明白ですが、その判断には

微妙な要素を多分に含んでいることも事実です。

「住民票がそこにあればいい」と考えている納税者も多いと思われるので、

このような相談があった場合には、慎重にその事実関係を確認し、判断する

ことが必要なのです。

少なくとも、他の合理的理由や特殊事情もなく、単に特例の適用を受けるためだけの

実態と相違する住民票の添付は重加算税の対象になる可能性が高いでしょう。

 

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

※2014年5月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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