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2017.08.08

修繕費か?資本的支出か?この分岐点となる考え方(その4)

※2017年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「修繕費か?資本的支出か?この分岐点となる考え方(その4)」

ですが、平成元年10月6日の裁決を取り上げます。

本裁決は「鉄筋コンクリート造り店舗共同住宅の外壁等の補修工事に

要した金員は修繕費に当たる」とされた事例です。

では、この工事の内容です(工事業者の申述)。

〇アパートの外壁は、モルタルスタツコ仕上げのもので、多少防水性のある

 塗装材を用いて吹付化粧をしたものであつた。

〇注入工事は、工事を行う際に、アパート全体について壁面の浮き調査をし、

 必要な部分にこれを行つた。その結果、屋上のペントハウスは全部に、

 ペントハウス以外は外壁及び斜屋根の一部に注入工事を行つた。

〇壁はつり補修工事は、ペントハウスのはり部分と正面の各階ベランダ部分に

ついて行つた。ベランダ部分の工事は、壁面の浮き調査の際にその必要が

発見され、見積書にない工事をしたことになるが、本件補修工事等は

B建設の責任施工で行つたものであるので、多少サービスした面もある。

〇外壁(屋上、ペントハウスも含む。)美装工事は、アパート全体について

行つた。屋上は、床面をはがさず、そのまま床面にウレタン塗装を行つた。

〇外壁(屋上、ペントハウスも含む。)の美装工事には、ハーゲンZH−R工法、

ソフトワンコート、トツプコート、塩化ビニール等を用いたが、これらは

普通の塗装材に比べ上質のものである。材質的には弾性(粘り)のあるもの

であり、防水性も高いものである。

〇このような塗装材を使用したのは、壁面にクラツク(き裂)が生じ、

壁面のはく離が進行していたので、それらの進行を防止する必要が

あつたためであり、普通の塗装材を用いた場合には、はく離の進行は

止まらない。

〇この補修工事については、特別に高い材料を用いて行つたということでは

なく、モルタルスタツコ仕上げの建物の最初の塗り替え塗装のときは、

モルタル自身が風化しているので、大体、今回のような弾性系の材料を

用いて外装を行うのが普通である。

〇モルタルスタツコ仕上げの建物の外壁の塗り替えは、建築後最初のときは

早いほうが良いので大体10年くらいで行うのが普通である。

〇今回の美装工事等で建物の耐久性が良くなつたとはいえるが、

これで15年くらいもつものであるかどうかは分からない。

これを元に国税不服審判所は下記と判断しました。

〇注入工事及び壁はつり補修工事はアパート全体にされたものではなく、

また、サツシ廻りシーリング工事及び塗装工事は建物の通常の維持又は

管理に必要な修繕そのものかその範ちゆうに属するものであるから、

これらに要した費用は修繕費とするのが相当である。

〇外壁天井防水美装工事は、注入工事及び壁はつり補修工事に伴う

その補修面の美装工事であること並びにアパート建築後12年弱経過した

時点における一般的な塗り替え美装工事であつて、塗装材として特別に

上質な材料を用いたものではないことが認められる。

〇したがって、外壁天井防水美装工事によつて、格別、アパート本来の

使用可能期間を延長したり、その価額を増加したりするような要素は

認められないから、この外壁天井防水美装工事は建物の通常の維持

又は管理に属するものとして、これに要した費用は修繕費とするのが

相当である。

〇仮設工事、サツシ・ガラスクリーニング工事及び隣家対策金属工事は、

前記(B)及び(C)の工事に必然的にないしは付随して生ずるものであり、

また、諸経費は本件補修工事等の全体に及ぶものであるから、

これらの費用も修繕費とするのが相当である。

〇以上により、本件補修工事等に係る金額は、その全額を修繕費と

認めるのが相当であるから、見積No.440の補修工事に係る金額※が

修繕費である旨の請求人の主張には理由がある。

※10,700,000円で、内訳は下記。

仮設工事一式 1,742,300円

注入工事一式 1,734,900円

サッシ廻りシーリング工事一式 565,800円

外壁天井防水美装工事一式 5,336,900円

塗装工事一式 281,600円

クリーニング工事一式 285,250円

諸経費一式 753,250円

なお、「TKC税務Q&A」には旧法人税基本通達235に関して、

下記と解説されています。

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このように資本的支出又は修繕費の判定は事実認定によることから

難しいところ、資本的支出と修繕費の区分に関して、

旧法人税基本通達235は、「自己の使用に供する等のため他から

購入した固定資産について支出した金額は修繕費としない。」と定め、

当該支出金額は資本的支出に該当するとしていました(この旧法人税

基本通達235は、昭和44年に「法令に規定されており、

または法令の解釈上疑義がなく、もしくは条理上明らかであるため、

特に通達として定める必要がないと認めたことによるもの」として

廃止されましたが、現在でもその考え方は基本的に同じと考えられます。)。

(参考)

(旧法人税基本通達235)

次に掲げるようなことのために支出した金額は、令第132条の規定を

適用して資本的支出と修繕費の区分計算をしないで、その全額を修繕費と

認めるものとする。

ただし、自己の使用に供する等のため他から購入した固定資産について

支出した金額又は現に使用していなかった資産について新たに

使用するために支出した金額は、修繕費としない。

(1)家屋又は壁の塗替

(2)家屋の床のき損部分の取替

(3)家屋の畳の表替

(4)き損した瓦の取替

(5)き損したガラスの取替又は障子、襖の張替

(6)ベルトの取替

(7)自動車のタイヤの取替

この旧通達は例えば、中古の建物を購入してこれについて修繕を行って

使用する場合の修繕費は、その建物にとっては修繕費であっても、

購入した法人の立場から考えれば、その建物に修繕を行って初めて

事業の用に供しうる建物としての機能を発揮しうるものですから、

資本的支出とすべきと整理したものと解されます。
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本裁決において、国税不服審判所も「資本的支出と修繕費との区分は、

支出金額の多寡によるのではなく、その実質によつて判定することと

解される。」としている通り、金額の多寡は関係ありません。

しかし、多額の修繕費は税務調査においても問題になることが多いので、

この考え方をしっかりと理解しておくことが重要なのです。

 

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