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2016.04.22

修繕費か?資本的支出か?

※2014年10月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

さて、今回は「修繕費か?資本的支出か?」ですが、

平成11年10月15日の裁決を取り上げます。

減価償却資産の修繕をした場合、その支出が修繕費?資本的支出?につき、

税務調査での論点になることがあります。

これに関してですが、資本的支出に該当する金額は

○ その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の

  管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能

  期間を延長させる部分に対応する金額

○ その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の

  管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における

  当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額

となっています。

また、これを踏まえて「資本的支出の例示」を示した基本通達37-10があり、

ここには「業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出

した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すことと

なると認められる部分に対応する金額が資本的支出」とされています。

この中の「例示」の1つに「建物の避難階段の取付け等物理的に付加した

部分に係る金額」が示されていることから、何かしらの物理的に加えられた

物がある修繕の場合、資本的支出であるとの否認指摘を受けがちです。

しかし、法令のどこにも「物理的な付加が加わる=資本的支出」とは書いて

おらず、あくまでも上記2つのいずれかに該当する部分が資本的支出と

なります。

また、修繕費に含まれる費用に関する基本通達37-11もあり、ここには

○ 当該固定資産の通常の維持管理のため

○ 災害等によりき損した固定資産につきその原状を回復するため

に要したと認められる部分の金額は修繕費とされています。

しかし、これらに関する100%の明確な基準がある訳でもなく、

税務調査で争点になることもあります。

これに関する上記裁決ですが、この事案は屋上防水工事のため、水こう配を

増設した雨漏り防止工事につき、更正されたものです(全部取消し)。

ちなみに、更正された金額は3,120,000円です。

工事の具体的工法の意味は専門家でないと分かりませんが、審判所は下記と

判断しています。

○ 認定事実

・ 本件建物については、本件工事の施工前から、屋上ペントハウス内への

  漏水があり、これに伴いペントハウスの床のPタイルがはがれ始め、

  これが順次奥へ進行し始めていた。

・ 本件建物については、本件工事の施工前から、屋上表面の防水モルタル

  が破壌されて防水層が露出し、排水管取付部分の周囲には大きなクラック

  が生じていた。

・ 本件工事は、本件建物の屋上全体に施工されたものであり、既存の防水

  部分を撤去し、新たにモルタルで水こう配をつけて仕上げ、その上に、

  緩衝シート張付け、防水材すり込み塗り、補強材張り、防水材吹き付け

  及び保護塗料吹き付けを施工するアロンコートSQ-KS工法(以下

  「本件工法」という。)を実施したものである。

・ 本件工事は、建築から22年経過して初めて施工された防水工事である。

・ ■■■■■(見田村注:工事施工会社)作成の平成10年1月5日付の

  報告書によれば、本件工法は、公団住宅、公共建物等に広く採用される

  一般的な補修方法であり、特に高価又は特殊なものではないとされている。

・ ■■■■■等が作成した防水保証書によれば、本件工事に係る防水保証

  期間は、平成7年3月1日から10年間とされている。

・ 賃貸料は、平成5年12月1日の値上げ後現在まで改定されておらず、

  本件工事の施工に伴う値上げはされていない。

○ この点、原処分庁は、本件工事は漏水が発生する前に行われた予防的な

  工事である旨主張するが、「時期は明確ではないが、相当以前に一階の

  両サイドの壁から雨水がしみだし、4階も雨漏りがしていたようで、

  屋上を確認したところ、表面のタールのようなものがほとんどはがれ、

  まともな状態ではなかった。その後、1階の天井から水漏れがあって

  じゅうたんがぬれてしまったことがあり、本件工事着工の1年ぐらい前

  から本件工事をするよう申入れをしていた。」旨の■■■■■■の

  担当者の当審判所に対する答述及び当審判所が請求人から提示のあった

  写真資料等を基に本件建物を実地に調査したところによれば、上記の

  事実(最初の2つ)が認められるから、この点に関する原処分庁の主張

  には理由がない。

○ ところで、業務の用に供する固定資産について支出する金額が、修繕費

  に該当するか資本的支出に該当するかの判断については、所得税法施行令

  第181条において、資本的支出とは、修理、改良その他いずれの名義

  をもってするかを問わず、当該資産について支出する金額のうち、その

  支出により、当該資産の取得の時において、当該資産につき通常の管理

  又は修理をするものとした場合に予測される、①当該資産の使用可能

  期間を延長させる部分に対応する金額又は②その支出の時における当該

  資産の価額を増加させる部分に対応する金額(①又は②のいずれにも

  該当する場合には、いずれか多い金額)に該当するものとする旨規定

  されている。

○ 本件工事は、屋上部分に漏水が発生するなどしたことから、屋上全体に

  防水工事を施工したものであるが、一般的に鉄筋コンクリート造等の

  建物は雨漏りがいったん発生すると木造の建物と異なり、雨漏りの経路

  が分かりにくく完全に修理することは困難だといわれており、また本件

  工事が建築から22年経過して初めて施工された防水工事であることを

  考慮すると、請求人が本件工事を屋上全体に施工したことは、本件建物

  の維持管理のためやむを得ない措置であったと認められる。

○ 本件工事は、既存の屋上には水こう配がなかったことから、新たにモル

  タルで最低限の水こう配をつけて仕上げ、その上に本件工法を実施した

  ものであるが、本件工法は、住宅公団、公共建物等の補修工法として

  広く採用される一般的な工法であり、特に高価又は特殊なものである

  とは認められない。

○ 本件工事に係る防水保証期間が10年間であること、本件工事の施工後、

  賃貸料の値上げ改定は行われていないことを総合すれば、本件工事は、

  本件建物の本来の効用を復活又は維持するための工事と認められ、建築

  時に予測された使用可能期間を延長させるもの、又は本件建物の取得時

  の価額を増加させるものとは認められない。

○ 本件工事費は修繕費に該当するとみるのが相当であり、本件工事費が

  資本的支出に該当するとしてなされた平成7年分の更正処分はその全部

  を取り消すべきである。

いかがでしょうか?

一般的なビルは平らな陸屋根になっていることから、一旦雨漏りすると、

その雨漏り箇所が特定しにくいことも事実であり、本件とは違った工法に

より物理的付加を加えた修繕費に関する裁決(平成13年9月20日)でも

金額の多寡とは関係なく、納税者の主張が認められています。

修繕費は金額が大きいだけに、税務調査でもチェックされる項目ですので、

同様の事案で否認指摘を受けた場合には、本裁決をベースに反論して頂け

ればと思います。

 

見田村元宣

 

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