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2017.06.27

分掌変更と大株主であることの関係(その3)

※2017年3月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「分掌変更と大株主であることの関係(その3)」ですが、

平成24年12月18日の裁決を取り上げます。

この事例は審判所の裁決において、分掌変更が否定され、

役員賞与と判断された事例です。

では、前提条件です。

〇 代表取締役が取締役になった(以下、「A」という)

〇 最終報酬月額〇円に代表取締役としての在職期間15年、

  功績倍率3.0を乗じて役員退職給与を計算した。

〇 代表取締役退任後の給与は3分の1に減額した。

〇 Aは60歳になったことを機に代表取締役を辞任したが、

  健康上の理由等により職務を遂行できないなどの特別な事情はなかった。

〇 Aはオリジナルの〜を完成させ、請求人の主力商品である〜を

  開発した者である。

  
〇 これらの商品は〜として有名であり、当該商品の開発により
  
  請求人の売上げは増大した。

〇 Aは分掌変更後、請求人の工場に月3、4回出社する程度となったが、

  分掌変更後も製造管理に関し、〜製造の技術的な指導(製造ラインの

  機械調整、〜設定や〜期間の判断等)を行っている。

〇 審判所の職員がAと平成24年5月22日に面談した際に

  受領した名刺には「代表取締役 〜」と表記されていた。

〇 請求人の本件各事業年度末(注:4事業年度)の貸借対照表において

  金融機関等からの借入金はなかったが、請求人が〜から3億円の

  借入れを行う際には、平成22年6月の同行の行員との面接に

  Aも参加した。

この前提の基、国税不服審判所は下記と判断しました。

〇 主力商品である「〜」の売上げが業績に大きく関わることからすれば、

  その製造管理(〜製造ラインの機械調整〜設定管理、〜期間の判断等)は

  請求人にとって重要な業務である。

〇 請求人が分掌変更後においてもAに対し、請求人で常勤しているとする

  取締役の〜及び〜の役員給与月額〜を下回るものの月額〜の役員給与を

  支給していることも、請求人における商品の製造管理に関する技術的な

  指導が重要な業務であることの証左と認められる。

〇 Aは請求人の発行済み株式総数の2分の1を超える持株があることから、

  請求人の定時総会等は、Aの出席なくしては開催できず、かえって、

  Aのみでも開催し決議も行えることからしても、Aは、請求人において、

  分掌変更後もなお一定の影響力のある地位を占めていると認められる。

〇 分掌変更後において、給与の額が半分以下になり、また、

  常時勤務していないとしても、請求人にとって不可欠な業務を行い、

  影響力ある地位を占めていると認められるから、Aは、分掌変更により

  実質的に退職したと同様の事情にあるとは認められない。

このように、元代表取締役が2分の1を超える持株を持っていたことも

国税不服審判所は分掌変更を否定する1根拠としたのでした。

しかし、この部分は「分掌変更と大株主であることの関係(その1)」でも解説した通り、

〇 「株主としての立場」と「役員としての地位」は違う次元のもの

〇 株主は議決権を通じて間接的に影響を与え得るにすぎない

というのが正しい結論です(東京地裁、平成20年6月27日)。

しかし、この判決後も「分掌変更と大株主であることの関係(その2)」で解説した長崎地裁判決、

本裁決において「一定数の株主であること」から分掌変更が否定されて

いるのです。

結果、持ち株数のことが今後も問題になる可能性はあるので、

この点が指摘された場合には上記東京地裁判決をベースに

反論していくことが必要なのです。

ちなみに、今回取り上げた裁決は東京地裁(平成28年4月22日)で

判断された事例(残波事件)です。

ここで「おかしい???」と思われた方もいるかもしれませんが、

残波事件は分掌変更につき争われた事例ではなく、

過大役員退職給与について争われて、役員退職給与に関しては

納税者勝訴となった事例です。

なぜ、こうなっているかというと、国税通則法第98条(裁決)第3項に

その理由があります。

3 審査請求が理由がある場合には、国税不服審判所長は、裁決で、

当該審査請求に係る処分の全部若しくは一部を取り消し、

又はこれを変更する。

ただし、審査請求人の不利益に当該処分を変更することはできない。

裁決により「請求人の不利益」に変更することはできないので、

国税不服審判所は「分掌変更アウト」と判断したものの、

「原処分(過大役員退職給与)は適法である」となり、

これが東京地裁で争われたのです。

この部分も併せて覚えておいて頂ければと思います。

 

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