2016.03.25

推計課税の必要性

※2014年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

以前、見田村税理士が「推計課税の合理性」と題して推計課税で採用された「計算方法が合理的か」どうかで争った裁決を解説しました。

実は推計課税というのは、3つの要素をすべて満たさなければ
課税(処分)できないというのが原則です。

(1)法的要件
(2)必要性
(3)合理性

法的要件を満たしていなければ違法になるのは当然として、
合理性については、上述のブログで論点が書かれていました。
今日のブログでは、(2)に焦点を当てようとするものです。

その前にまず、推計課税の法的要件を確認しておきます。

法人税法131条・所得税法156条から、
推計課税の法的要件は3つあり、すべてを満たす必要があります。

①内国法人(居住者)が対象であること
②更正(決定)する場合にだけできる
③青色申告者にはできない

①はいいとしても、まず②です。
税務調査において、何らかの理由で調査官が
「推計しましょう」と言ってきても、それが不利だと思えば
修正申告に応じる必要はまったくありません。

税務署が更正する場合にのみ推計課税をすることが
できると規定されているからです。

また、青色申告者であれば推計課税はできませんので、
税務署が推計課税による更正をするのであれば、
青色取消の処分が事前に必要になるというわけです。

ですから、推計課税以前の問題として、青色の取消事由に
該当していなければ、推計課税は採用できないということです。

さて、推計課税を適用するには、法的要件を満たしたうえで、
その「必要性」が問われます。例えば、
「推計課税する方が税務調査が早く終わるので適用しましょう」
では、必要性があるとは言えないわけです。

①帳簿書類等が存在しない:故意による破棄以外の可能性もあり
②帳簿書類等の不備:誤記脱漏が多いことなど内容が不正確
③納税者が税務調査に非協力的:帳簿書類等を提示しない

のように、「実額計算によって調査ができない」
ことが必要性(前提要件)となるわけです。

実際のこのような裁決事例があります。

「必要経費を実額により計算することが可能な場合において、
その必要経費を経費率によって推計計算することは許されないとした事例」
(裁決事例集 No.32 – 77頁 昭和61年7月29日裁決)

http://www.kfs.go.jp/service/MP/02/1401000000.html

【要旨】
請求人は、必要経費の計算について、青色申告書以外の
申告書の提出者(いわゆる白色申告者)との権衡上、
実額計算が可能である場合であっても、白色申告者に
適用される経費率による推計計算が有利であると認めるときは、
その選択により、推計計算が許されるべきであると主張するが、
所得税法では、実額計算が原則であり、推計計算は実額計算が
できない場合にやむを得ず許される補完的な計算方法であるから、
実額計算が可能である場合には、推計計算は許されない。
したがって、請求人は、青色申告者であり、事業所得に関する
所定の帳簿書類を備え、継続記録を有しており、事業所得の金額計算
について実額計算が可能であるから、請求人の主張は採用できない。

以上のように、法人税・所得税はあくまでも原則実額計算であり、
推計課税は実額計算できない状況という「必要性」が
問われるわけです。どんな場合でも推計できるわけではありません。

裁決・判決を見ていると、推計課税の計算方法の合理性
(計算方法が不当か、より合理的な推計方法はないのか)を
争ったものが多いのが事実なのですが、税務調査の実務では、
その必要性があるのか検討しなければならないのです。

 

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一切受け付けておりませんのでご留意ください。

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