2015.12.01

更正の決裁は誰?

本ブログで、私が繰り返しお伝えしていることに、
否認指摘されて納得できなければ
「(修正申告しないので)更正してください」
と調査官に主張する、ということがあります。

これは、修正申告と更正の法的な違いはもちろんのこと、
調査官は「更正をしたくない」という実情から、
このように主張することが、税務調査の中で
交渉上有利になるという理由が挙げられます。

では、税務署による調査の中で、実際に更正となると、
調査官は誰の決裁を得る必要があるのでしょうか?

税務署内の「通常の」決裁ルートはこうです。

調査官 → 統括官(合わせて審理の場合も)
→ 副署長 → 署長

これが「更正」となると、

調査官 → 統括官+審理担当
→ 国税局の審理 → 国税局訟務官室
→ 副署長 → 署長

つまり、(修正申告ではなく)更正となると、
税務署内のみならず国税局の決裁までが必要なのです。

担当調査官としては、この決裁の多さに
面倒を感じて更正をしたがらない、というわけです。

現在、私が個別相談を受けている調査事案は、
すべてが年越し事案となっており、
調査の着手から約半年経過しています。

その中で、下記のような事案があります。
(東京の税務署が担当です)

「次の協議日程を電話で決める際に、
調査担当者が「この事案は局の審理に検討して
もらうように考えています」と言いました。
これはどういう意味合いを含んでいるのでしょうか?」

すでに解説した通り、これは更正することを
含んで、その準備をすることも意味しています。

もちろん、国税局にあがればすべてが
更正されるという意味合いではありません。

更正というのは、不服申立てから裁判になることを
にらみながらしなければならない処分です。

だからこそ、国税局の審理・訟務官室まで
通すのですが、最終的に更正するなら
この決裁ルートを通さなければなりません。

なお、国税局(特に訟務官室)がどのような
基準で更正するかしないかを判断するかですが、
ここで参考になる国税の内部資料があります。

東京国税局の訟務官室が「調査に生かす判決情報」
という資料を、管轄税務署に流しています。

※TAINSで見ることができます

その中で、平成17年12月に出された
資料の中に、このような記載があります。

「証拠無くして勝訴なし!」

▼ 学校法人が受領した治験等に起因する金員の課税関係

○ 本件は、Xが製薬会社等の委託に基づいて行う治験等に起因して受領した本件寄附金収入が、収益事業の請負業に係る収益に該当するか否かを主たる争点とし、収益であるとする課税庁の主張が認められた事件である。本判決は、治験等が請負業に該当するとする課税実務上の取扱いと同様の考え方を示した初めての裁判例である。 

▼ 課税訴訟における立証責任の所在

○ 本件は、原処分調査において、証拠資料の収集に対する相手方の調査協力が得られなかったなどの事情があったことから、証拠資料の収集が不十分であった事例でもある。

○ 一般に、課税訴訟における立証責任が課税庁側にあることは論を待たず、たとえ、調査非協力で証拠の収集が困難であっても、速やかに反面調査等の補完調査を行って証拠を可能な限り収集することが必要である。また、調査先が証拠の収集を拒否した場合には、その拒否理由を書面で徴求するか、あるいは、そのてん末について調査報告書を作成するなど争訟を念頭においた証拠の保全が必要である。

○ 本件は、本件寄附金の中には、治験等に係る対価であることを具体的に認めるに足りる証拠がないものがあるとして、証拠不足等のため、更正処分を行った収入金額の約41%が取り消されたものであり、訴訟における証拠の重要性を示した典型的な裁判例といえる。

このように、税務署の調査官レベルでは適当な課税をすることも現場ではよくあるのですが、上に上がれば上がるほど、証拠を積み上げるという細かいことの重要性を求められます。

これがまた、担当調査官が嫌がる
大きな要素でもあるわけなのですが・・・

調査が長期化し、更正を前提として
動き始めた場合は、納税者が有利な証拠を
こちらがいかに積み上げられるかが重要なのです。

 

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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
※2014年2月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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