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2016.08.03

消費税の届出書の不提出と宥恕規定

※2015年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

おはようございます。税理士の見田村元宣です。

さて、今回は「消費税の届出書の不提出と宥恕規定」ですが、

平成26年7月11日の裁決を取り上げます。

では、この事案の前提条件です。

○簡易課税制度選択届出書の不提出 

○請求人は提出期限に間に合うように顧問税理士に届出書を郵送

○税理士が急な発熱のため仕事を休み、郵便物を開封できなかった

○届出書が期限までに提出されず、宥恕規定の適用の可否が争点になった

この前提の中、国税不服審判所は下記と判断しました。

○消費税法第37条第1項の規定によれば、事業者は簡易課税制度の適用を

 受けるためには、当該課税期間の初日の前日までに、いわゆる消費税簡易

 課税制度選択届出書を所轄税務署長に提出しなければならないこととなる。

○消費税法第37条第7項の委任を受けた消費税法施行令第57条の2

 第1項は、簡易課税制度の適用を受けようとする事業者が「やむを得ない

 事情」があるため、その適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに

 消費税簡易課税制度選択届出書を提出できなかった場合において、所轄

 税務署長の承認を受けたときは、当該届出書を、当該適用を受けようとする

 課税期間の初日の前日に所轄税務署長に提出したものとみなす旨規定

 している。
      

○消費税法基本通達13-1-5の2は、「やむを得ない事情」の範囲等に

 ついて、①震災、風水害等の天災又は火災その他の人的災害で自己の責任

 によらないものに基因する災害が発生したことにより、届出書の提出が

 できない状態になったと認められる場合、②上記①に定める災害に準ずる

 ような状況又は当該事業者の責めに帰することができない状態にあること

 により、届出書の提出ができない状態になったと認められる場合、

 ③その課税期間の末日前おおむね1月以内に相続があったことにより、

 当該相続に係る相続人が新たに届出書を提出できる個人事業者となった

 場合及び④上記①から③までに準ずる事情がある場合で、税務署長が

 やむを得ないと認めた場合をいうものである旨を定めている。

○消費税簡易課税制度選択届出書は、原則として、その適用を受けようとする

 課税期間の開始前に提出することが必要とされているところ、消費税法

 第37条第7項及び消費税法施行令第57条の2第1項の趣旨は、災害等

 によりその適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに当該届出書

 を提出できなかった場合にまでこの原則を貫くことは事業者に酷すぎること

 となるから、災害やそれに準ずるような状況又は当該事業者の責めに帰する

 ことができない状態があることにより、届出書の提出が課税期間の初日の

 前日までにできない状態になったと認められる場合で、「やむを得ない

 事情」があるものとして所轄税務署長の承認を受けたときは、特に所定の

 期日後の提出を認めた趣旨のものであり、かかる法令の趣旨からして、

 同通達の定めは相当である。

○「やむを得ない事情」は、基本的には天災やそれに準ずるような事情等を

 いうものであって、当該事業者の責めに帰すべき事情についても、これに

 匹敵するような客観的な事情をいい、例えば租税に関する知識不足や誤解等

 の主観や、当該事業者の個人的な事情、届出書の提出を失念した場合などは

 含まれないと解する。

○請求人は、請求人自身は本件初日の前日に間に合うように関与税理士に

 届出書を郵便で送付したのであり、所定の時までに届出書の提出がされ

 なかったのは、当該税理士が急な発熱のため仕事を休んでいて郵便物を

 開封していなかったためであるから、消費税法第37条第7項及び消費税法

 施行令第57条の2第1項でいうやむを得ない事情があるものとして、

 所定の時までに提出したものとみなされるべきであると主張する。

○しかし、請求人は、自らの意思と責任において、■■■■■に関与税理士

 として税務代理等を委任し、本件選択届出書等の提出など、請求人が

 簡易課税制度の適用を受けるための手続をするように依頼した以上、本件

 選択届出書が本件初日の前日までに提出されなかったことについても、

 受任者である税理士の行為は、委任者である請求人の責任の範囲内の行為

 であると解され、消費税法第37条第7項に規定するやむを得ない事情の

 存否については、基本的に当該税理士を基準に判断するべきであるという

 べきである。

○■■■■■は、本件選択届出書を平成24年12月末までに提出する必要

 があることを認識の上、請求人にその旨伝えて、平成24年12月上旬

 に請求人宛に送付しており、請求人が署名押印したものの返送を受けて

 年内に原処分庁に提出する予定であったというのであるから、■■■■■

 自ら、本件選択届出書を原処分庁に平成24年12月末までに提出できる

 よう手配しなければならなかったのである。

○本件上申書、本件陳述書及び■■■■■の答述によれば、■■■■■の

 病状は、平成24年12月20日頃から体調を崩し、同月25日又は

 26日頃から発熱し39度ほどにもなったので、医師の指示に基づき

 感冒薬を服用し、平成25年1月3日頃まで自宅で安静にしていたという

 程度のものであり、自ら行動しなくとも、他人を介して本件選択届出書を

 原処分庁に提出する手配ができないようなものではなく、現に、■■■■■

 の答述によれば、■■■■■■■■には他に税理士がおり、郵便物の到着

 の確認や開封の指示ができたものであって、天災又は自己の責任によらない

 火災などの人的災害が発生したり、これらの災害に準ずるような状況又は

 自己の責めに帰することができない状態にあることにより、届出書の提出

 ができない状態になったといえるような「やむを得ない事情」があったとは

 到底いえない。

結果として、請求人の主張は棄却されました。

なお、「やむを得ない事情」につき、「税法の読み方 判例の見方」(伊藤

義一著、TKC出版)では下記の通りの解説がされていますので、

ご参考までに。

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(4)やむを得ない事情は「事の次第」に重点を置いた表現

「やむを得ない事情」は、「やむを得ない理由」」とほぼ同じ概念であるが、

どちらかといえば、「そのようになった根拠」よりも「そのようになった

事実ないし事の次第」に重点を置いた表現である。例えば、「・・・・・・

確定申告書をその提出期限までに提出した場合(税務署長においてやむを

得ない事情があると認める場合には、当該申告書をその提出期限後に提出した

場合を含む。)・・・・・・」(所得税法71条2項)のように用いられ、

また、過失により租税特別措置法上の特例の適用洩れがあった場合等に

おける宥恕規定等に用いられている。

(5)現実の運用

このような場合に関する現実の職務執行としては、例えば、ある特例規定の

適用要件の履行漏れが、①その納税者にとって初めてのケースで、②全くの

善意であり、かつ、③その適用要件をよく知らなかったことについて本人の

責めに帰するのは酷であると認められるような場合が該当するとされるで

あろうが、あくまでも、その既定の趣旨と納税義務者の置かれている状況

との総合的な判断によるべきである。

これら宥恕すべき理由ないし事情は、通常、まず納税者からその存在に

ついての主張、立証があり、税務署長等がこれを確認して、初めて宥恕規定

が適用されることとなる。
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会計事務所は担当者マターで大半の業務が進むことも多く、病気も含め、

担当者が失念した場合、フォロー体制が取られず、事故につながることも

充分に想定されます。

これを防ぐためには、期限ギリギリにならないようにすることが最も重要

ですが、そうなってしまった場合でも、社内でのフォロー体制を構築して

おくことが重要です。

特に、職員が所長への郵便物を開けるということはできないケースも多い

でしょうから、この辺りの社内体制の構築が必要なのです。

なお、こういう社内体制の構築方法も含め、少し先になりますが、

「消費税の事故を防ぐためのセミナー」を秋に開催しますので、

是非、ご参加ください。

 

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