2016.09.21

無申告と重加算税

※2015年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

おはようございます。税理士の見田村元宣です。

さて、今回は「無申告と重加算税」ですが、

平成26年4月17日の裁決を取り上げます。

この事例は

○ 請求人は相続財産を過少に記載したお尋ね書の回答を提出していた

○ 相続税の申告は期限後申告

○ 原処分庁は、請求人が基礎控除額を超える相続財産の存在を認識

  しながら、「相続についてのお尋ね」に一部の財産のみを記載し、

  遺産総額が基礎控除額以下であるから、申告は不要と思っているとして、

  お尋ね書を原処分庁に対して提出したことは、「隠ぺい、仮装と評価

  すべき行為」又は「相続財産を申告しないとの意図を外部からも

  うかがい得る特段の行動」と認められると主張し、重加算税の

  賦課決定をした。

  
この前提の下、国税不服審判所は下記と判断しました。

○ 法令解釈
 
  通則法第68条第2項に規定する重加算税の制度は、納税者が期限内

  申告書を提出しないことについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いて

  いた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することに

  よって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度に

  よる適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 
  したがって、重加算税を課するためには、納税者による期限内申告書の

  提出がされなかったこと(無申告行為)そのものが隠ぺい、仮装に

  当たるというだけでは足りず、無申告行為とは別に、隠ぺい、仮装と

  評価すべき行為が存在し、これに合わせた無申告行為がされたことを

  要するものである。
 
  しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や

  資料の隠ぺい等の積極的な行為が存在したことまで必要であると

  解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を

  申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の

  行動をした上、その意図に基づき期限内申告書を提出しなかった場合

  には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。

○ 認定事実
 
  請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、

  次の事実が認められる。

・ 本件案内文書の記載内容

  本件案内文書には、要旨次の記載があり、本件お尋ね回答書は、

  下記Bのお尋ね書の用紙により記載されている。

  A お亡くなりになった方の遺産の総額が基礎控除額(50,000,000円+

  10,000,000円×法定相続人の数)を超える場合には、亡くなられた日

  の翌日から10か月以内に、相続税の申告と納付が必要となること。

  B お亡くなりになった方の遺産の総額が基礎控除額に満たない場合等、

  相続税申告書を提出する必要がないときは、申告の要否の確認のため、

  同封のお尋ね書に該当事項を記入の上、申告期限までに回答すること。

・ K税務署での申告相談
 
  請求人は、平成24年2月6日から14日までの間に、複数回にわたって

  K税務署に出向き、本件相談担当職員に本件相続に係る相続税について

  相談をした。

○ 請求人の当審判所に対する答述
 
  請求人は、平成25年8月29日、当審判所に対して、要旨次のとおり

  答述した。

・ 平成24年2月6日から14日までの間に、本件相談担当職員から、

  本件相続に係る相続税の法定申告期限が同月○日であることを聞いた。

・ 平成24年2月○日に、本件お尋ね回答書を提出する際に、本件担当職員

  から、基礎控除額が70,000,000円であることを教えてもらった。

・ 本件お尋ね回答書を提出しようと思ったのは、申告をしなければ

  ならないと思ったからで、本件担当職員から提出をしょうようされた

  ものではない。

○ 当てはめ

・ 通則法第68条第2項は「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の

  計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、

  その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに

  納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出

  していたとき」と規定し、重加算税を課するために、無申告行為

  そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに

  合わせた無申告行為がされたことを要する。

・ 原処分庁は、請求人が、第1法定申告期限までに本件相続に係る

  相続税の申告が必要であること及び本件被相続人名義財産の存在を

  認識しながら、本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件

  有価証券44を請求人名義に変更した上、遺産を過少に記載した本件

  お尋ね回答書を提出したことは、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」

  に当たる旨主張する。

 
  A 確かに、請求人が、第1法定申告期限前に、本件預貯金10を請求人の

  自宅の近隣の金融機関において請求人名義の預金に預け替え、本件

  有価証券44を請求人が相続する旨記載した「相続手続依頼書(兼同意書)」

  を郵送したことは認められる。しかし、例えば、請求人が、遠隔地に

  ある金融機関に請求人名義の預金口座を開設し、被相続人名義の預貯金

  をこれに預け替えたり、被相続人名義の預貯金を解約し、他の種類の

  財産にしたりしたというのであれば格別、自己が相続したことを前提に

  金融機関において相続手続をしたり、自己名義の預金に預け替えた

  というだけでは、請求人が、財産を隠ぺいし、又は仮装したなどと

  評価することはできない。

  B 次に、本件お尋ね回答書の提出について検討する。

  本件お尋ね回答書は、K税務署長から送付されたお尋ね書への回答として

  提出されたものである。
 
  お尋ね書は、実務上、課税庁において、一定の基準に基づき、相続税の

  申告が必要と見込まれる者に対して、相続税の申告についての案内文書

  と共に送付されるものである。しかしながら、上記申告の案内がなされた

  としても、遺産の価額が法定相続人の数によって計算される基礎控除額

  の範囲内の場合等もある。課税庁としては、直ちに遺産や相続人の全容

  を知ることはできないから、上記申告の案内がなされたにもかかわらず、

  相続税の申告がされない場合には、それが、申告義務のない場合か

  どうかを確認する手掛かりもない。そこで、お尋ね書を送付し、

  相続人に対し、他の相続人の存在や、被相続人の財産・債務等の情報を

  照会するのである。相続人としては、相続税の納税義務を負わないと

  判断した場合には、上記お尋ね書に対する回答書のみを提出して

  課税庁における確認の用に供し、相続税の納税義務を負うものと判断

  した場合には、相続税の申告書を提出することとなるのである。

  このような本件お尋ね回答書の性質からすれば、請求人において、

  期限内申告書を提出しない場合に、申告を要しないものと考える旨

  記載された本件お尋ね回答書を提出したことは、いわば、相続税の

  申告をすべきことを知りながら、これをしなかったこと(認識ある

  無申告)と同等の行為と評価することができるのであって、無申告行為

  そのものとは別に、「隠ぺい、仮装と評価すべき行為」をしたものと

  認めることはできず、原処分庁の上記主張は採用することができない。

・ もっとも、仮に架空名義の利用や資料の隠ぺい等のように、「隠ぺい、

  仮装」と評価すべき積極的な行為が認められなかったとしても、

  納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、

  その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に

  基づき期限内申告書を提出しなかった場合には、重加算税の賦課要件が

  満たされるものと解されるところ、原処分庁は、請求人が、平成24年

  9月3日に本件調査担当職員に対し、被相続人から相続により取得した

  財産は、基礎控除額を下回っている旨の虚偽の申述を行ったこと、

  同月4日に本件調査担当職員に対し、本件お尋ね回答書に一部の財産

  のみを記載した動機について、税務署に知られたくなかったことである

  旨申述したこと、及びK税務署長に対して、遺産を過少に記載した

  本件お尋ね回答書を提出したことの各事実から、請求人には、本件

  お尋ね回答書提出時において、遺産を申告しない、又は少なくとも

  本件重加算税対象財産を申告しない意図が存在したと認められ、

  請求人が、本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件

  有価証券44を請求人名義に変更した上、遺産を過少に記載した本件

  お尋ね回答書を提出したことは、「遺産を申告しない、又は少なくとも

  本件重加算税対象財産を申告しないとの意図を外部からもうかがい

  得る特段の行動」と認められる旨主張するので、以下検討する。

  A 確かに、請求人は、原処分庁調査時において、基礎控除額を上回る

  遺産の存在を知りながら、これについて申告しないことを意図し、

  本件お尋ね回答書の「申告は不要と思っています。」との印字の下に

  署名して、第1法定申告期限当日に、これをK税務署長に対して提出

  した旨記載された質問てん末書に署名、押印している。

  B しかし、重加算税の賦課要件を満たすためには、当初から無申告の

  意図があったというだけでは足りず、請求人が、本件被相続人名義財産

  について申告をしない意図を外部からもうかがい得る特段の行動を

  したことが必要となる。
 
  本件預貯金10を請求人名義の預金に預け替え、本件有価証券44について

  金融機関に相続手続をして請求人名義に変更したことは、それ自体

  として、請求人の、本件被相続人名義財産を申告しない意図を外部

  からもうかがい得る行動であるとは評価し得ない。

  請求人が、これらの預金について遺産であると知りながら、これらの

  記載のない本件お尋ね回答書を提出したことは認められるが、

  そうであったとしても、本件お尋ね回答書の提出は、認識ある無申告と

  同等の行為と評価することができるから、請求人の当該行為をもって、

  請求人が、無申告行為とは別に、「本件被相続人名義財産について

  申告をしない意図を外部からもうかがい得る特段の行動」をしたなどと

  評価することはできない。
 
  また、お尋ね書に係る運用からすれば、お尋ね書の回答書面は、

  課税庁が、当該相続が申告を要するものであるか否かの判断材料を

  得ることを主な目的として、納税者に対して任意に提出を求める書面

  であると解される。その上で、本件お尋ね回答書の記載内容を見るに、

  確かに、申告を要しない旨の記載があるが、他方で、本件相続に係る

  基礎控除額が70,000,000円である旨記載した上で、金額の分かっている

  預貯金及び宅地として合計53,084,365円等を記載し、さらに、本件

  各不動産について、所在地、地目、地積及び固定資産税評価額の記載

  された書類を添付している。そして、ここに記載された不動産及び

  預貯金の総額は、後に提出された本件申告書によれば141,891,025円

  にも及ぶのである。そうすると、原処分庁として、本件お尋ね回答書

  及びその添付書類を見れば、請求人が、申告義務を有することを

  十分に予想することができたものということができるのである。

  このような本件お尋ね回答書及びその添付書類の記載内容からしても、

  これを提出したことをもって、「本件被相続人名義財産について申告を

  しない意図を外部からもうかがい得る特段の行動」と評価した上で、

  重加算税の賦課要件を満たすものとすることは相当でない。

・ 以上によれば、原処分庁の上記主張はいずれも採用することができず、

  請求人が第1法定申告期限までに本件相続に係る相続税の申告書を

  提出しなかったことについて、通則法第68条第2項に規定する

  重加算税の賦課要件が満たされているとはいえない。

いかがでしょうか?

無申告の場合、重加算税の賦課決定は非常に難しく、少し前の事例で言えば、

脳科学者の茂木健一郎氏が約4億円の申告もれを指摘された事例においても、

重加算税ではなく、無申告加算税が課されています。

当然、茂木氏も申告すれば、納税が発生することは理解していたでしょう。

http://www.j-cast.com/2009/11/11053710.html?p=all

無申告はあるまじき行為ではありますが、結果として、現法制下では、

重加算税の賦課決定が難しいことも事実です。

重加算税がかかれば、延滞税の金額もかなり違ってくるケースもあるので、

無申告事案について重加算税との指摘を受けた場合は上記考え方を主張

していきましょう。

 

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