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2015.10.22

遺産分割の仕方と借地権の贈与

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「遺産分割の仕方と借地権の贈与」ですが、

平成8年6月24日の裁決(全部取消し、TAINSコード:F0-3-028)です。

では、前提条件です。

〇昭和53年10月:請求人の父の相続開始

〇昭和54年4月:遺産分割協議の成立

〇土地は請求人の母が相続、居住用建物は請求人が相続(母と請求人が居住)

〇請求人が母に支払った地代、固定資産税等の詳細は下記の通り

----------------------------------------
 年  月 |A本件地代月額|B本件地代年額 |C本件公租公課|D差額 B-C
------+-------+--------+-------+--------
昭和54年 |       |        |       |
 5~12月| 215000| 1720000|1634156|   85844
------+-------+--------+-------+--------
昭和55年 |       |        |       |
 1~12月| 215000| 2580000|2494252|   85748
------+-------+--------+-------+--------
昭和56年 |       |        |       |
 1~12月| 215000| 2580000|2494252|   85748
------+-------+--------+-------+--------
昭和57年 |       |        |       |
 1~ 3月| 215000|        |       |
 4~12月| 338200| 3688800|2743674|  945126
------+-------+--------+-------+--------
昭和58年 |       |        |       |
 1~ 3月| 338200|        |       |
 4~12月| 371925| 4361925|3018037| 1343888
------+-------+--------+-------+--------
昭和59年 |       |        |       |
 1~ 3月| 371925|        |       |
 4~12月| 378000| 4517775|3067022| 1450753
------+-------+--------+-------+--------
昭和60年 |       |        |       |
 1~ 3月| 378000|        |       |       
 4~12月| 471150| 5374350|3373722| 2000628
------+-------+--------+-------+--------
昭和61年 |       |        |       |
 1~12月| 471150| 5653800|3440942| 2212858
------+-------+--------+-------+--------
昭和62年 |       |        |       |
 1~12月| 471150| 5653800|3440942| 2212858
------+-------+--------+-------+--------
昭和63年 |       |        |       |
 1~ 9月| 471150|        |       |
10~12月|1625400| 9116550|3957079| 5159471
------+-------+--------+-------+--------
平成元年  |       |        |       |
 1~12月|1625400|19504800|4519482|14985318
----------------------------------------

〇 昭和57年4月に交わした土地賃借証があり、賃借の対象物、賃借の

  期間、地代の年額が明示されている(当初は口頭による賃貸借契約)

〇 原処分庁は昭和54年5月から昭和63年9月までの間は民法第593条

  に規定する使用貸借であり、昭和63年10月に民法第601条に規定

  する賃貸借に移行したとして、昭和63年に贈与税の決定、無申告加算税

  の賦課決定を行なった

〇 争点は借地権相当額の贈与があった時期はいつか?

国税不服審判所の裁決の前にまずは民法の条文を確認しましょう。

民法593条(使用貸借)

使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすること

を約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

民法601条(賃貸借)

賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを

約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、

その効力を生ずる。

では、国税不服審判所の裁決ですが、納税者の主張が認められ、

全部取消しとなりました。

〇請求人は、本件土地の貸借関係は借地法第1条に規定する建物の所有を

 目的とするとの要件を充足している賃貸借であるから、昭和54年5月に

 本件借地権が発生し、同時に請求人が本件借地権を取得した旨主張するが、

 昭和54年5月から昭和57年3月までの本件土地の貸借についてみると、

 本件地代の額は本件土地に係る必要費である本件公祖公課の金額をわずか

 に上回るにすぎず、使用及び収益に対する対価的意義をもつことが明らか

 であるとは認め難い

〇請求人は、答述しているように、母が本件公租公課の支払に困らないよう、

 本件公租公課を少しでも上回ればよいと考え本件地代の額を決めたとする

 本件借地契約の経緯からみても、昭和54年5月に賃貸借が開始したとする

 請求人の主張は直ちには採用し難い

〇原処分庁は、(1)請求人は母に対し、本件借地契約どおりに本件地代の支払

 をしておらず、土地の賃貸借契約において極めて重要な要素である地代の

 額の定めが不明瞭で、通常の賃貸借契約に比し不自然であること、(2)昭和

 54年5月から昭和63年9月までの間の本件地代の額は、その他の地代と

 比較して極めて低額であり、使用及び収益に対する相当の対価と認められ

 ないこと、(3)また、賃貸借か否かは単に賃料と公租公課との差額の多寡を

 形式的にとらえて判断するのではなく、事実関係、契約の趣旨等に則して

 実質的に判断すべきものであること等から、昭和54年5月から昭和63

 年9月までの間の本件土地の貸借は同居の親子という特殊な関係を基盤と

 する使用貸借であり、昭和63年10月に実質的な賃貸借に移行した旨

 主張する

〇たしかに、本件借地契約についてみると原処分庁主張のとおり、次のよう

 な第三者間における賃貸借では通常あり得ない事実が認められる

・本件借地契約は、請求人の答述のとおり、昭和54年5月の口頭による

 契約により、賃貸借とも使用貸借とも明確に区分し難いあいまいな地代の

 定めから始まっていること

・本件土地賃借証において、本件地代の月額を本件課税標準額の3.4パー

 セントの12分の1と定めていながら、それだけの金額を支払える状態で

 なかったことを理由に、同日付の念書Aにおいて、3.0パーセントの

 12分の1に引き下げていること

・念書Aでは、本件地代の月額を昭和63年度中までに、本件課税標準額の

 10パーセントの12分の1まで漸次増額すると取り決めていながら、

 資金に余裕がなかったとして、昭和63年9月までの間は少額の増額に

 止まっていること

・念書Bでは、固定資産税等の課税標準額の上昇が見込まれたことを理由に、

 本件地代の月額を当面据え置くとはしているものの、本件地代を本件課税

 標準額の10パーセントから3.4パーセントに減額変更していること

・しかしながら、本件土地の貸借は昭和57年4月1日付の本件土地賃借証

 により、(1)賃借の対象物、(2)賃借の期間、(3)地代の額等が明示されて

 いること、また、昭和57年4月以降の本件地代は、本件土地に係る通常

 の必要費である本件公祖公課の金額を相当上回る金額が母に支払われて

 いることからすれば、昭和57年4月以降の本件地代の額が本件土地の

 使用及び収益に対する対価的意義をもたない程度であるとは認められない

・親子間における賃貸借が、他人間における賃貸借では通常あり得ない条件

 及び内容等によってなされていた事実があったとしても、そのことから

 直ちにその賃貸借契約の成立が否定されるものではなく、昭和63年9月

 までは使用貸借であり、昭和63年10月に賃貸借に移行したとする

 原処分庁の主張は採用できず、昭和57年4月には賃貸借に移行したもの

 と認めるのが相当である

〇昭和57年4月には、請求人は本件借地権を取得していたと認めるのが

 相当であり、昭和63年10月に賃貸借に移行し、本件借地権の価額に

 相当する経済的利益の贈与があったとする原処分には理由がなく、本件

 決定処分の全部を取り消すべきである

 
いかがでしょうか?

昭和57年4月に借地権相当額の贈与があったとすると、贈与税の除斥期間

を経過しているため、原処分庁は課税をすることができません。

そういう理由から月額地代が大きく上がった昭和63年10月に使用貸借から

賃貸借に移行したとしたかったのでしょう。

しかし、これを審判所は認めませんでした。

ちなみに、これは租税回避的に行なわれた行為ではなく、借地権の認識を

しながらも贈与税の申告をしなかったのは、当時、相続税の納税に窮して

いたこと、原処分庁の調査指導がなかったこと、原処分庁から指導があれば

当然申告していたと請求人が答述している背景もあります。

また、高齢の母が土地にかかる固定資産税の支払いに困るので、請求人が

建物を取得して、母に地代を支払うこととしたという事情もありました。

当然ですが、これを租税回避的に使用することはできませんが、

結果として、親族間で借地権の移転が起きてしまっているケースはよく

あります。

そして、そういう場合は贈与税の申告をしていないケースも多いでしょう。

こういう贈与の状態にならないように事前に提案することが専門家として

重要なことですが、結果としてなってしまっているものは戻れません。

もし、同じようなケースで贈与税の否認指摘を受けたならば、今回の裁決を

参考にして反論してみてください。

ポイントは借地権相当額の経済的利益の移転がいつ起きたのか?、また、

贈与税の除斥期間はどうなっているのか?ということです。

 

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※2013年10月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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