株式会社KACHIELの久保憂希也です。
今回は、法人もしくは事業(の一部)を売却する場合の債権者保護手続きについて考えてみます。
M&Aを実施するうえで、手続き的に考えなければならないのは債権者保護手続きで、これはケースバイケースで必要となります。
まず、債権者保護手続きを法的に要するかどうかはいったん弁護士マターとさせていただき・・・
実務的には2つ考えるべきことがあります。
特に、金融機関からの借入を引継がない事業譲渡や、取引先と多額の債務関係がある場合では、下記を考慮することが実務上重要になります。
(1)期間
キャッシュショートや代表者(大株主)の余命等、M&A(売却)がかなり急いでいるケースになると、「時間との勝負」という案件もあります。
一方で、債権者保護手続きを要する場合、下記の要素を考慮しておく必要があります。
○官報への公告
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債権者が異議を述べることができる期間は1ヶ月を下回ることはできないことから、準備等を含めると、手続きだけで最低2ヵ月程度を見込んでおく必要があります。
官報公告の時間がない、という案件については公告を要さないスキームを組むことになります。
○債権者への個別催告
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金融機関を筆頭に、債権者には個別催告が必要になるケースもありますが、これは実務的には事前に説明等を行っておくことが重要で、債権者が不利にならないM&Aであれば、スムーズにいくことが一般的です。
債権者も自身の権利等が害されないとわかれば、M&Aに反対する理由はないからです。
債権者側としては、何も事前説明なく個別催告の通知書面だけが届くと、特に金融機関の場合は、判断に時間を要する、または、とりあえず反対する立場をとる、などM&Aが進まないボトルネックになりえます。
(2)債権者保護手続きが不要でも疑義は起こり得る
一方で、債権者保護手続きを要さない組織再編の手法を選択したとしても、詐害行為取消が行使されるリスクはあります。
事業価値評価(バリュエーション)が異常に低額であったり、債権者を害する場合がこれに該当することになります。
ここは、「手続き不要=リスクはない」と勘違いしている方が多いので注意が必要です。
法的には債権者保護手続きが不要であったとしても、詐害行為取消が行使されるリスクを考えると、実務上は債権者に対して説明しておくことが重要で、個別通知はしておくことが無難ともいえます。
実際のところ、債権者保護手続きを要しなくても「あえて」説明・通知しているケースが多いです。
M&Aを実施するには様々な手続きが必要ですが、債権者保護手続きについては、(筆頭株主がいる)株主総会・取締役会など内部的な手続き以上にリスクが大きくなりますから要注意です。
上記では、債権者保護手続きの「実務上の対応」について解説しましたが、法的な整理については下記のサイトがわかりやすいので参考にしてください。
「事業譲渡などM&Aにおける債権者保護手続きの要否は?」
https://fundbook.co.jp/business-transfer-creditor/