個人事業主がM&A(売却)する際の営業権について

個人事業主がM&A(売却)する際の営業権について

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

個人事業主に関連したM&Aで、税務上難しい判断が必要となるのは「営業権」です。

なお、個人事業主の営業権に関しては、個人事業主が「売り側」か「買い側」かに分けて解説します。
今週は「売り側」から考えた営業権の論点です。

さて、下記では税理士事務所(個人)の裁決を取り上げますが、基本的には弁護士などの士業のみならず、病院・クリニック(個人)でも同じです。

士業・医業など「一身専属」の事業する個人がM&A(事業譲渡)をする場合、基本的に営業権は認識しないと考えた方が無難です。

これに関連した有名な公開裁決事例が下記です。

「請求人が営んでいた税理士事務所を他の税理士に承継するに際して受領した金員に係る所得は、譲渡所得には該当しないとした事例」
(平成22年6月30日裁決)
http://www.kfs.go.jp/service/JP/79/16/index.html

一部、判断の要旨を載せておきます。

「(1)税理士と顧問先との関係において、税理士のノウハウや顧問先との信頼関係は、当該税理士個人に帰属し、一身専属性の高いものであり、税理士とその顧問先が両者の委任契約の上に成り立っていることからすれば、当該税理士を離れて営業組織に客観的に結実することにはなじまないこと、(2)補助税理士及び従業員と顧問先との関係において、請求人の補助税理士は、請求人から事業を承継する税理士Aのみであり、かつ、事業承継時においてAに引き継がれた従業員はいなかったのであるから、当該事業承継では補助税理士及び従業員と顧問先との関係は生じないこと、(3)税理士事務所独自のノウハウ、これと税理士や従業員等が一体となって行われる運営、その他、超過収益を稼得できる無形の財産的価値を有していた旨の請求人の主張については、請求人から具体的な主張や証拠の提出はなく、また、請求人が経営していた税理士事務所に超過収益を稼得できる無形の財産的価値があったと客観的に認めることができないことから、請求人が経営する税理士事務所において、譲渡所得の基因となる資産としての営業権若しくはこれに類する権利が存在していたことを認識することはできない。」

さて、「これは1つの(裁決)事例であって、前提が変われば判断も変わる」と考えるのも当然かと思いますが、この論点は少々難しいです。

すでに、「税理士事務所のM&Aにおける注意点・盲点(1)」でも取り上げましたが、下記の個別通達があります。

「「税務および経理に関する業務」の譲渡に伴う所得の種類の判定について」
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/shotoku/shinkoku/670727/01.htm

この中では、「営業権に類似した無体財産権の譲渡とみなされるから譲渡所得とする。」
という考え方自体が否定されています。

上記は税理士事務所に関する裁決事例ですが、弁護士事務所でも同様に営業権が認められなかった裁決事例があります。

「弁護士業の廃業に際し共同経営者から支払を受けた金員は、営業権の譲渡によるものではなく、清算金と認められるから事業所得に当たるとした事例」
http://www.kfs.go.jp/service/JP/72/10/index.html

なお、最後とはなりますが、所得税法において営業権がない、もしくは認められないという話ではありません。

あくまでも、「一身専属」の事業によるものは営業権が認められにくい、という話です。

この点を深く考えたい方は、下記をお読みください。
上記2つの裁決も取り上げられています。

「所得税法の営業権にかかる一考察」で検索かけていただくと「臼倉真純」氏の論文がヒットします。

再来週は、M&Aの買い側から考えた個人事業主の営業権について解説します。

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