修繕費か?資本的支出か?
こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「修繕費か?資本的支出か?」です。
この論点が税務調査で問題になることはよくありますが、これに関して、
納税者が勝った裁決(平成17年4月26日)をご紹介します。
本件工事は病院建物の外壁改修工事であり、その内訳は下記となります。
別表9 病院外壁改修工事に係る請求内訳表
(単位:円)
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| 品 名 |数量|単価| 金 額 |
|-------------------+--+--+----------|
|①|仮設足場(東南北西面) |一式| -| 3,578,000|
|②|タイル面改修工事(東西小口タイル)|一式| -| 1,827,200|
|③|外壁塗装工事(東南北西面) |一式| -| 4,040,350|
|④|塔屋塗装及び屋上塗装工事 |一式| -| 760,250|
|⑤|その他(共通仮設西廃材処分) |一式| -| 934,000|
|-+-----------------+-----+----------|
|⑥| 小 計(①+②+③+④+⑤) | |11,139,800|
|-+-----------------+-----+----------|
|⑦|諸経費 |一式| -| 650,000|
|⑧|磁器タイル浮き部工事(東南北面) |■■■■■| 2,172,000|
|⑨|クラック工事(東南北面) |■■■■■| 1,244,000|
|⑩|浮き部工事(西北面) |■■■■■| 810,000|
|⑪|クラック補修工事(西北面) |■■■■■| 458,000|
|⑫|屋上手摺及び看板工事 |一式| -| 220,000|
|-+-----------------+-----+----------|
|⑬| 小 計(⑦+⑧+⑨+⑩+⑪+⑫)| | 5,554,000|
|-------------------+-----+----------|
| 合 計(⑥+⑬) | |16,693,800|
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(出典:TAINS、F0-1-230)
この工事につき、課税庁は「本件工事は資本的支出である。仮に、資本的
支出か、修繕費か明らかでないとしても、所得税基本通達37-13の要件
を満たしていないため、資本的である」と主張しました。
(参考)所得税基本通達37-13(形式基準による修繕費の判定)
一の修理、改良等のために要した金額のうちに資本的支出であるか修繕費で
あるかが明らかでない金額があり、その金額が次のいずれかに該当する場合
において、その修理、改良等のために要した金額を修繕費の額として
その業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っている
ときは、これを認めるものとする。
(1) その金額が60万円に満たない場合
(2) その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前年12月31日における
取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
(注)
1 前年以前の各年において、令第127条第4項の規定の適用を受けた場合に
おける当該固定資産の取得価額とは、同項に規定する一の減価償却資産の
取得価額をいうのではなく、同項に規定する旧減価償却資産の取得価額と
追加償却資産(同項に規定する追加償却資産をいう。以下この項において
同じ。)の取得価額の合計額をいうことに留意する。
2 固定資産には、当該固定資産についてした資本的支出が含まれるのである
から、当該資本的支出が同条第5項の規定の適用を受けた場合であっても、
当該固定資産に係る追加償却資産の取得価額は当該固定資産の取得価額に
含まれることに留意する。
しかし、国税不服審判所は下記と判断し、納税者の主張を認めたのでした。
〇ピン止め工法やアクリル弾性塗装が行われた場合、通常は建物の耐用年数
が増加すると考えられるが、本件建物がかなり老朽化しているため、
アクリル弾性塗装であっても、どの程度耐久性があるか不明であり、また、
建物のすべての面についてピン止め工法を行っていないから、同工法を施工
していない部分が将来浮き部となる可能性があることが認められ、本件工事
によって、本件建物の使用可能期間を延長させると認めることはできない。
〇①本件工事前の本件建物の状況はモルタルが劣化し、タイルが一部欠落
するなど、破損のひどい状況であり、モルタルが剥離して落下し、通行人が
けがをする危険のある状態であったこと、②ピン止め工法、アクリル弾性
塗装はいずれも一般的な工法にすぎないこと、③本件工事後もコンクリート
の剥離、モルタル部分の浮き、塗装の剥離等が存し、看板の支柱部分は腐食
が進行し、穴が空いている部分が見受けられることなどから、本件工事
により、本件建物の価値が増加したと認めることはできない。
〇本件工事により、本件建物の使用可能期間が延長したと認めることも、
本件建物の価額が増加したと認めることもできず、本件建物については
その修繕は必要不可欠であり、本件工事の手法は一般的な工法であったと
認められるから、本件工事は当該固定資産の通常の維持管理のために行った
ものであり、これを修繕費と認めるのが相当である。
当然ですが、修繕費か?資本的支出か?に関しては
〇 当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
〇 当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額
が資本的支出となります(所令181)。
当然、通達における金額基準が絶対的な基準にはなり得ませんし、
実際、平成9年12月11日裁決でも「通達は上級行政庁の下級行政庁に
対する命令であって、法規たる性格を有さず、それ自体は納税者を拘束する
ものではなく、納税者は通達に示されている行政庁の解釈に当然に従わなけ
ればならないものでないから(以下、略)」と至極当然の判断がなされて
います。
あくまでも使用可能期間の延長、価値増加が基準となり、その判断は
事実認定の世界に入るのです。
特に、本件に関しては「ピン止め工法やアクリル弾性塗装が行われた場合、
通常は建物の耐用年数が増加する」にも関わらず、全額が必要経費になる、
と判断された部分に注目すべきかと思います。
修繕費は多額になることも多く、税務調査で問題になることも間々あります。
また、金額が大きい場合は納税者、税理士ともに保守的な判断をしがちな
部分でもありますが、そこは実態に応じて、積極的な判断をすべき場合も
よくあることを覚えておいて頂ければと思います。
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※2014年1月の当時の記事であり、
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