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2016.02.08

棚卸資産の計上もれと重加算税

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「棚卸資産の計上もれと重加算税」です。

その原因はともかく、期末の棚卸資産が実態よりも過少となれば、

所得が圧縮されることになり、税務調査で問題となります。

そして、この場合に重加算税との指摘を受けることもありますが、

あくまでも「隠ぺい」「仮装」でなければ、賦課されるものではありません。

具体的な過去の事例(昭和48年12月13日、裁決)をみてみましょう。

○ 建売住宅の建設販売を行なう会社の事例

○ 決算直前に請求人が購入者の希望により、1区画(17-2)を2つの

  区画に分割し、売買契約をした残りの一方の土地(17-2-2)が

  計上もれとなった

これに関して、国税不服審判所は下記と判断しました。

○ 経理担当者は、17-2-1の土地の売買契約書の物件表示には17-

  2-1と明らかに枝番が付されていたが、これを見落している

○ 17現場の見取り図には分割の事実の表示がなかったとしても当該面積

  52.89平方メートルは、他の区画の面積からして狭少に過ぎる点に

  気付かなかったことが認められる

○ これは、経理担当者が誤りのなかった従来のたな卸方法を継続して採用

  したことに基づくものであり、さらに、過去において例のなかった

  分割販売が事業年度末になって発生したことも経理担当者がたな卸しを

  誤った一因と認められる

○ 請求人は決算にあたり、住宅建設販売業者として最も重要なたな卸の

  内容について十分な検証を行なわなかったものであり、このことは

  請求人の責による重大な過失であると認められるが、この過失が生じた

  経過および本件たな卸土地はその後販売され、販売収益は原処分庁が

  請求人の当事業年度の調査を行なった以前において請求人の翌事業年度

  の収益として計上されていることからみれば、請求人の仮装または

  隠ぺいに基づいてたな卸を計上もれとしたものとは認められない

○ 原処分庁が本件たな卸土地計上もれにかかる納付税額に対して重加算税

  を課したことは失当であり、その全部を取り消すのが相当である

この裁決のポイントは「請求人の責による重大な過失」を認めながらも、

重加算税を取り消した部分です。

当然ですが、「請求人の責による重大な過失」に該当したとしても、

それが隠ぺい、仮装に該当しなければ、重加算税は賦課されないのです。

なお、この裁決では「本件たな卸土地はその後販売され、販売収益は

原処分庁が請求人の当事業年度の調査を行なった以前において請求人の

翌事業年度の収益として計上されていることからみれば、請求人の仮装

または隠ぺいに基づいてたな卸を計上もれとしたものとは認められない」

としていますが、翌期以降に収益計上されていればイコール重加算税の

対象ではない、ということではありません。

実際、鳥取地裁(平成4年3月3日)では「棚卸資産を除外しても、

翌期の期首棚卸額にそのまま計上されることから、結局、減少させた利益は

翌期に所得として加算されることになり、調査の時点において、右の如く

翌期にすでに顕現されていれば、もはや「隠ぺい」に当たらない旨の原告

会社の主張が、法人税の課税標準は各事業年度の所得の金額とされている

から、「隠ぺい」したかどうかもその事業年度ごとに検討すべきことは

いうまでもない」とされ、納税者の主張は退けられています。

ただし、隠ぺい、仮装に該当しなければ、重加算税の対象にならないこと

は当然のことです。

上記裁決以外にも「ミス」が原因で棚卸資産が過少計上となり、重加算税が

賦課決定されたものの、納税者が勝った事例には下記のものもあります。

○ 昭和35年9月9日、福岡高裁

・ 「659,200」を「65,9200」と書き間違えた

・ 後日、「65,9200」は0を1つ多く書いたと誤認し、

  「65,920」と訂正した

○ 昭和47年6月15日、裁決

・ 営業所の社員が棚卸報告の際、2階にある商品を漏らした

・ これとは別に、返品された商品につき、評価損として計上すべきものを

  経理担当者の知識不足のため、棚卸しから除外してしまった

いかがでしょうか?

税務調査の交渉が佳境に入ってきている時期かと思いますが、

どこまでいっても重加算税の賦課要件は「隠ぺい」、「仮装」です。

また、以前のブログにも書きましたが、「故意に」という論点も

あります(和歌山地裁(昭和50年6月23日)、名古屋地裁(昭和55年

10月13日))。

税務調査で棚卸資産の過少計上による重加算税との指摘を受けた場合で、

それが「ミス」によるものならば、これらを参考にしながら、反論していく

ことが重要なのです。

 

※ブログの内容等に関する質問は
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※2014年5月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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