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2016.10.25

贈与の認識と無申告による重加算税

※2015年12月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「贈与の認識と無申告による重加算税」ですが、

平成23年3月23日の裁決を取り上げます。

○母親の口座から請求人(税理士)の口座に資金移動があり、贈与と認識

○贈与税の申告はしていない

○税務調査に対応するため、借用証書を事後的に作成

この税務調査に関し、皆さんが立ち合いをしており、

調査官から「重加算税」との指摘を受けた場合、どのように対応しますか?

実際、本件においては重加算税の賦課決定がされたのですが、

隠ぺい、仮装には該当しないとして、重加算税の賦課に関しては取消しと

なりました。

なお、争点は下記の2点ですが、「隠ぺい又は仮装」の部分のみに

焦点を当て、記載していきます。

○本件資金移動は贈与となるか否か。

○本件資金移動について贈与税の申告をしなかったことについて、通則法

第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があると認められる場合に

該当するか否か。また、通則法第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装

の行為はあったか否か。

この事案に関し、国税不服審判所は下記と判断しました。

○重加算税に関する法令解釈

・隠ぺい又は仮装の意義及びそれらの行為の成立時期

重加算税は無申告加算税に代えて賦課されるところ、その賦課要件について、

通則法第68条第2項に規定する「事実を隠ぺいする」とは、課税標準等

又は税額等の計算の基礎となる事実を隠匿しあるいは脱漏することをいい、

また、「事実を仮装する」とは、所得、財産あるいは取引に関し、あたかも、

それが事実であるかのように装うなど、事実をわい曲することをいうと

解される。重加算税の賦課要件としての隠ぺい又は仮装の行為は、期限内

申告書の提出がある場合はその提出の時に、期限内申告書の提出がない場合は

法定申告期限が経過した時に、申告書の提出を要しない場合は法定納期限が

経過した時に成立すると解される。

・隠ぺい又は仮装の積極的な行為が存在しない場合の重加算税の賦課要件

重加算税の制度は、納税者が申告をしなかったことについて隠ぺい、仮装

という不正手段を用いていた場合に、無申告加算税よりも重い行政上の制裁

を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告

納税制度による適正な課税の実現を確保しようとするものであるから、

重加算税を課するためには、納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出

しなかったこととは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに

合わせ納税者が法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことを

要するものであるが、重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の

利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると

解するのは相当でなく、納税者が、当初から申告しないことを意図し、

その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき

申告をしなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされると

解され、これは、いたずらに厳格な解釈をして重加算税制度の趣旨を没却

する結果となることを避け、他方、重加算税の賦課対象が不当に拡張される

ことを防止する趣旨であると解される。

○重加算税の賦課要件充足の有無

・期限内申告書の提出がない場合、重加算税の賦課要件である、隠ぺい又は

仮装の行為の成立の時期は、法定申告期限の経過の時であるところ、本件

資金移動は、本件■■口座から本件請求人口座への単純な資金の振替であり、

そこには、隠ぺい又は仮装したと評価される事実は認められず、当審判所の

調査によっても、本件資金移動が行われた時点以降贈与税の法定申告期限の

経過の時までの間に、請求人が隠ぺい又は仮装の行為を行ったとする客観的

な証拠は認められない。

・これに対し、原処分庁は、税理士である請求人は、本件資金移動に贈与税

が課税されることを認識しており、これを回避するために本件資金移動の

時点で本件請求人借用証書を作成しないとは考えられない旨、本件■■■

■■■■■借用証書は本件資金移動の時点で作成されているのに、本件

請求人借用証書のみ本件事前連絡があるまで作成されていなかったのは、

請求人が本件資金移動を贈与と自認していた旨、本件資金移動を贈与と

自認していた請求人が、本件事前連絡の後に本件請求人借用証書を作成して

おり、また、本件調査担当職員に対し本件資金移動が贈与であると申述

しながら、贈与税の期限後申告はしていない旨主張し、これらを総合的に

判断すれば、請求人は、課税財産の取得について架空の債務を作り、虚偽

又は架空の契約書を作成し、また、課税財産の存在を知りながら申告して

いないことが合理的に推認し得る旨主張する。

・しかしながら、架空の債務を作り、虚偽又は架空の契約書を作成したと

している点については、本件調査を通じて、請求人は、本件請求人借用証書

が本件調査に対応するため事後的に作成された旨申述しており、原処分庁は

これを争わず、ほかに、本件請求人借用証書が現実に作成された時点を

明らかにする客観的な証拠は認められないので、本件資金移動に係る贈与税

の法定申告期限の経過の時点で本件請求人借用証書が既に存在していたとは

認められないから、本件請求人借用証書を当該法定申告期限後に作成した

としても、これが架空の債務を作り、虚偽又は架空の契約書を作成したことに

なることはない。

・また、課税財産の存在を知りながら申告していないことが合理的に推認

し得るとしている点については、税理士である請求人が、贈与税の法定申告

期限の経過の時において、本件資金移動が贈与であると認識していたにも

かかわらず、申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る

特段の行動をした上、その意図に基づき申告をしなかったのであるから、

上記の要件に該当すると主張しているとも解することができるので、

この点についてみると、請求人は、贈与税の法定申告期限の経過の時において、

本件資金移動が贈与であると認識していなかったとは認め難く、これに

請求人が税理士であることを加味すると、贈与税の法定申告期限の経過の時に

おいて、本件資金移動に係る贈与について申告義務がないと認識していた

とは認められないから、税理士である請求人は、当該贈与について申告

しないことを当然に意図していたとみることもできる。

・しかしながら、申告しないと意図していたことを特段の行動によって

外部からもうかがい得ることが必要であると解され、これは、厳格な解釈を

して重加算税制度の趣旨を没却する結果となることを避け、他方、賦課対象

が不当に拡張されることを防止する趣旨であると解されるところ、請求人が

税理士であるというだけで、申告しないことの意図の有無を判断すると

すれば、上記の趣旨に反することとなり相当ではない。

・そこで、請求人が、本件資金移動に係る贈与について、申告しないことを

意図していたと外部からもうかがい得る特段の行動をしたと評価できるもの

を挙げるとすれば、まず、本件事前連絡を受けた時点において本件請求人

借用証書を作成したことが挙げられるが、本件調査を通じて、請求人が、

本件請求人借用証書を本件資金の借用証書と申述した事実はなく、本件

請求人借用証書を作成した目的が本件■■■■■■■■口座から出金された

■■■■■■を自宅の住宅ローンの返済に充てたのを■■から借りた形に

するためであった旨申述し、当該申述に符合する資金の流れが存在する以上、

本件調査が終了するまでの時点では、本件請求人借用証書を作成した目的は、

当該申述どおりであると認めるのが相当であるから、本件請求人借用証書と

本件資金移動に係る贈与には関連性が認められないので、これが本件資金

移動に係る贈与についての特段の行動とはいえない。

・次に、本件調査において虚偽の申述をしたかについては、上記の各申述の

うち、本件請求人借用証書に係る部分は、本件請求人借用証書と本件資金

移動に係る贈与には関連性が認められないので、本件資金移動に係る虚偽の

申述とはいえない。

・そして、本件調査担当職員から指摘を受けて気が付いたとの申述は直ちに

信用できないのであるから、当該申述をしたことが、贈与税の法定申告期限

の経過の時において、本件資金移動が贈与であると認識していたことを否定

しようとしたものとは評価できるものの、本件調査の初期から請求人は

本件資金移動に係る贈与を認める申述をしていたことからすると、本件

調査担当職員から指摘を受けて気が付いたとの申述をしたことによって、

本件資金移動が贈与であると認識していたにもかかわらず申告しないとの

意図を有していたことを外部からもうかがい得る特段の行動をしたと

までは認められない。

・以上によれば、原処分庁の主張は、いずれも採用することができず、

本件資金移動について贈与税の申告をしなかったことについて、通則法

第68条第2項に規定する隠ぺい又は仮装の行為はあったとは認められない。

いかがでしょうか?

受贈者が税理士だっただけに、本件は驚きを隠せない部分はあるものの、

「重加算税の本質」を理解する上では非常に有益な裁決です。

新聞などによれば、来年度の税制改正で重加算税は最高50%になるとの

報道もされています。

だからこそ、「重加算税の賦課対象が不当に拡張」されてはならないのです。

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