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2016.07.01

名義人が管理運用していた名義預金等と財産の帰属

※2015年4月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

こんにちは。税理士の見田村元宣です。

今回は「名義人が管理運用していた名義預金等と財産の帰属」ですが、

東京地裁(平成20年10月17日、国側勝訴)を取り上げます。

なお、本件は東京高裁(平成21年4月16日、国側勝訴)にて、

確定しています。

本件の争点は「被相続人(丙)の妻(丁)名義の有価証券及び預金が被相続人に

帰属するか否か」という点ですが、下記の状況になっていました。

○丁名義有価証券は、平成13年4月14日の時点において、いずれも

 B證券株式会社池袋支店の丁名義の取引口座に預けられていた。

○丁名義預金等の原資は、いずれも被相続人が出捐したものである。

○丙は、平成11年分及び同12年分の所得税の確定申告において、

 丁に係る配偶者控除及び配偶者特別控除を受けていた。

○B證券池袋支店における取引口座の開設日は、丁が昭和41年3月17日

 であり、丙が同45年2月19日である。

○B證券池袋支店における丙名義の取引口座の届出印は、当初は丁名義の

 取引口座の届出印と異なる印鑑であったが、後に丁名義の取引口座の

 届出印と同一の印鑑に変更された。

○丁名義預金に係る預金口座を含む丁名義のすべての預金口座の届出印は、

 いずれもB證券池袋支店における丁名義の取引口座の届出印と同一の印鑑

 であった。同印鑑は、丙名義の一部の預金口座の届出印としても使用

 されていた。

○B證券池袋支店における丙名義の取引口座及び丁名義の取引口座並びに

 銀行における丙名義の預金口座及び丁名義の預金口座のいずれについても、

 取引に係る書類に記入していたのは丁であり、また、実際の手続を行う

 のも丁であった。

○丁は、平成10年9月29日ころに丙が脳こうそくで入院した後においても、

 B證券池袋支店の丙名義の取引口座及び丁名義の取引口座の双方において、

 従前と同様に有価証券の取引の手続を繰り返し行っていた。また、丁は、

 同13年4月15日に丙が死亡した後においても、同支店の丁名義の取引

 口座において、同様の取引の手続を行っていた。ただし、上記の取引は、

 いずれも新規の資金を投入するものではなく、既に購入していた商品から

 乗り換える形態で行われた。

○B證券池袋支店における丙及び丁の取引の担当者は、丙及び丁に取引の

 説明をする際、両名の自宅を訪問し、両名に対して説明していた。その際、

 丙は、両名いずれの取引についても、取引の説明に口を出すことは

 ほとんどなかったため、上記担当者は、専ら丁に対して取引の内容を説明

 していた。丙が入院して以降は、上記担当者は、丙及び丁の双方の取引に

 ついて、丁にのみ説明した上で手続をしていた。

○丁は、丙が脳こうそくで倒れて入院した平成10年9月29日ころから

 約1箇月後である同年11月5日、株式会社C銀行(現在の株式会社

 C銀行)江戸川橋支店において、丙名義の預金口座の開設手続をした。

○丙及び丁が利用していた株式会社D銀行(現在の株式会社D銀行。以下、

 名称変更の前後を問わず「D銀行」という。)早稲田支店における貸金庫

 は、平成3年7月1日以降は丁の名義で契約されており、また、同貸金庫

 について代理人の届出はされていなかった。

○D銀行早稲田支店の丙名義の定期預金口座の一部及び本件丁名義預金に

 係る定期預金口座の一部から生じる利息は、同支店の丁名義の普通預金

 口座に入金されていた。同普通預金口座は、丁の国民年金の入金口座

 である。

○丁は、平成2年4月4日、丙からその所有していた土地及び建物について

 持分の一部の贈与を受けた。丙と丁は、同契約の際、贈与契約書を作成し、

 また、丁は、小石川税務署長に対し、同3年2月、同贈与によって納付

 すべき贈与税はない旨の申告書を提出した。

○丁は、丁名義預金等について、いずれも贈与税の申告をしていない。

○丁は、小石川税務署長に対し、本件調停において調停が成立した日の翌日

 である平成16年3月17日、本件相続に係る相続税の修正申告書を提出

 した(見田村注:丁が受けた遺留分減殺請求に係る調停)。同修正申告書

 には、当初の相続税の申告書において相続財産としなかった丁名義預金等

 は実際には丙に帰属する遺産であり、それを基に相続税額を計算すると

 丁の納付すべき税額が497万4100円増加する旨の記載がされていた。(乙14、28)

○丙は、生前、知人に対し、自分が死んだ後の丁の生活の心配をしており、

 遺産の相続についても丁の生活が成り立つようにすることを考えている

 こと、丁と原告ら(見田村注:遺留分減殺請求の原告)の養子縁組の手続

 をするつもりであることなどを記した手紙を出している。

○原告らは、東京家庭裁判所に対し、平成14年4月22日、丁を相手方

 として本件調停に係る申立てをした。丁は、本件調停の手続において、

 本件丁名義預金等はいずれも丙から生前贈与されたものであって丙の遺産

 ではない旨主張しており、原告らもこの点について強く争わなかった。

 本件調停は、同16年3月16日、丁が原告らに対して遺留分の弁償

 として一定の財産を譲渡する旨等の調停条項を定めて成立した。本件調停

 の調停条項において原告らと丁の間で確認された遺産の範囲には、本件

 丁名義預金等はいずれも含まれていなかった。

 この前提の下、東京地裁は下記と判断しました(一部のみ抜粋)。

○ある財産が被相続人以外の者の名義となっていたとしても、当該財産が

 相続開始時において被相続人に帰属するものであったと認められるもの

 であれば、当該財産は相続税の課税の対象となる相続財産となる。

 そして、被相続人以外の者の名義である財産が相続開始時において

 被相続人に帰属するものであったか否かは、当該財産又はその購入原資の

 出捐者、当該財産の管理及び運用の状況、当該財産から生ずる利益の

 帰属者、被相続人と当該財産の名義人並びに当該財産の管理及び運用をする

 者との関係、当該財産の名義人がその名義を有することになった経緯等を

 総合考慮して判断するのが相当である。

○財産の帰属の判定において、一般的には、当該財産の名義がだれであるかは

 重要な一要素となり得るものではある。しかしながら、我が国においては、

 夫が自己の財産を、自己の扶養する妻名義の預金等の形態で保有するのも

 珍しいことではないというのが公知の事実であるから、丁名義預金等の

 帰属の判定において、それが丁名義であることの一事をもって丁の所有

 であると断ずることはできず、諸般の事情を総合的に考慮してこれを決する

 必要があるというべきである。

○一般に、財産の帰属の判定において、財産の管理及び運用をだれがして

 いたかということは重要な一要素となり得るものではあるけれども、

 夫婦間においては、妻が夫の財産について管理及び運用をすることが

 さほど不自然であるということはできないから、これを殊更重視すること

 はできず、丁が丙名義で丙に帰属する有価証券及び預金の管理及び運用も

 していたことを併せ考慮すると、丁が丁名義預金等の管理及び運用をして

 いたということが、丁名義預金等が丙ではなく丁に帰属するものであった

 ことを示す決定的な要素であるということはできない。

○丁名義預金等の原資はいずれも丙が出捐したものであることについては

 当事者間に争いがないところ、丙と丁の年齢差も考慮すると、丙は丁の

 生活について金銭的な面で心配を有していたものの、その心配は、主として

 自分が死んだ後のことについてのものであったということができるので

 あって、丙が、自分の死んだ後に丁が金銭的な面で不自由をしないように、

 本件遺言書の作成とは別に、自己に帰属する財産を丁名義にしておこうと

 考えたとしても、あながち不自然とはいい難い。

○実際に生前贈与をした土地建物の持分については贈与契約書を作成し、

 丁が小石川税務署長に対して同贈与によって納付すべき贈与税はない旨の

 申告書を提出していたのと異なり、本件丁名義預金等については

 そのような手続を何ら採っていないことも考慮すると、丙がその原資に

 係る財産を丁に対して生前贈与したものと認めることはできない。

○丁が本件丁名義預金等を解約して他の用途に使用するなどしたという事情は

 うかがわれないことも併せ考慮すると、丁名義預金に係る各口座の一部に

 おいて発生する利息が丁名義の普通預金口座(なお、同普通預金口座の

 主要な原資は丁の国民年金であり、同普通預金口座に係る預金は丁に帰属

 するものということができる。)に入金されており、丁名義預金等から

 生ずる収益の一部は丁が取得していたということができるとしても、

 丁名義預金等自体については、なお丙に帰属する財産であったと認める

 のが相当である。

○ある財産が被相続人の遺産であるか否かは本来民事訴訟で争われるべき

 ものであり、遺産分割調停は、遺産の存在を前提に、当該遺産の分割に

 ついて当事者間の自由な合意により成立することを基本とする制度

 であって、調停機関は当事者間の意思に反した何らかの判断を示すもの

 ではない。そして、仮に当事者間における自由な合意が課税庁を拘束する

 ことになると、当事者間において遺産の範囲を狭くする旨の合意をすること

 によって、容易に相続税の課税を免れることが可能になるのであり、

 そのような事態は、税負担の実質的公平を害することとなって、妥当

 でないというべきである。
 

○原告らが主張する上記事由をもって、本件丁名義預金等が丁の財産である

 ということはできず、原告らの上記主張を採用することはできない。

いかがでしょうか?

贈与された財産は受贈者に帰属し、受贈者が管理運用すべきものとなり、

その管理運用状況が税務調査で問われることもあります。

しかし、管理運用の状況はその判断をする上での一要素に過ぎませんので、

結果として、財産の帰属は総合勘案という世界になります。

ちなみに、本件は「調査に生かす判決情報」として、東京国税局課税第一部

国税訟務官室が出したものでもありますので、訟務官室としても注目して

いる判決です。

この中の「今号のポイント」にも「財産の帰属の判定上、財産の管理運用を

誰がしていたかということは重要な要素ではあるが、判定上の一要素に

すぎないのであり、これを殊更重視する必要はない。」とされています。

相続税の申告において、相続人名義の財産を相続財産に加えることは

相続人にとって大きな抵抗感がある場合もありますが、多くの事例で

否認されていることも事実です。

そのため、過去の事例を納税者に提示し、名義預金等については、きちんと

説明をすることが重要なのです。

 

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