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2016.10.11

役員報酬を増額する際の注意点

※2015年11月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「役員報酬を増額する際の注意点」ですが、

平成6年6月15日の名古屋地裁判決(最高裁にて納税者敗訴確定)を

取り上げます。

地域差はありますが、都市部を中心に好景気の状況であり、

採用活動を見ていても、超売り手市場となっています。

そんな中、業績が好調であることを受け、役員報酬の増額を顧問先から

相談されることもあるかと思いますが、この場合、どのような点に注意

すべきなのでしょうか?

役員報酬の過大額の判定は法人税法施行令第70条に定められており、

以下とされています。

内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した給与(法第三十四条

第二項に規定する給与のうち、退職給与以外のものをいう。以下この号に

おいて同じ。)の額(第三号に掲げる金額に相当する金額を除く。)が、

当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給与の

支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似

するものの役員に対する給与の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に

対する対価として相当であると認められる金額を超える場合における

その超える部分の金額(その役員の数が二以上である場合には、これらの

役員に係る当該超える部分の金額の合計額)

結果として、「役員の職務の内容」「その内国法人の収益」、「その使用人

に対する給与の支給の状況」、「その内国法人と同種の事業を営む法人で

その事業規模が類似するものの役員に対する給与の支給の状況」などの

総合勘案となっています。

もちろん、役員報酬を増額した結果、赤字になるのか?黒字になるのか?

という問題もありますが、役員報酬の改定は期首から3か月以内が原則

であり、改定した結果がどちらにむかうのかは予測できないケースも

あります。

当然、黒字だから過大ではないという理論も成り立ちえません。

実際、本判決では役員報酬を増額した結果、黒字であるにも関わらず、

納税者敗訴が確定しています。

まずは、直近3期の損益等の推移を見てみましょう。

○ 昭和60年2月期

・売上・・・112,047

・役員報酬・・・社長3,600、妻3,000

・使用人給与・・・3,879

・所得金額・・・554

○ 昭和61年2月期

・売上・・・130,017

・役員報酬・・・社長3,600、妻3,000

・使用人給与・・・4,411

・所得金額・・・437

○ 昭和62年2月期(本件係争事業年度)

・売上・・・186,338

・役員報酬・・・社長18,000、妻9,600

・使用人給与・・・5,815

・所得金額・・・1,385

この状況に対し、名古屋地裁は下記の判決を下したのでした。

なお、現時点とは条文番号が相違する点にご注意ください。

(2)そこで、次に、令69条1号に規定する基準を総合考慮して原告に

おける客観的相当額を検討する前提として、まず、令69条1号掲記の事情

のうち、原告における役員の職務の内容、収益の状況及び使用人に対する

給料の支給の状況等について、見ることとする。

1) 役員の職務の内容によれば、以下の事実が認められる。

a 恒夫(見田村注:代表取締役)は、枕カバー製造業として原告を設立

したが、昭和57年ころからワーキングウエアの試作を始め、昭和58年

ころからラツクコートの商品名でその生産を開始したこと。

b そして、昭和59年からその売れ行きが好調になり、昭和59年、

昭和60年には、それぞれ、2万枚を製造販売したこと。

c また、昭和61年1月には当時の製造能力を超える10万枚にのぼる

大量の注文が来たため、本件係争事業年度においてはワーキングウエアの

製造販売に専念したこと。

d 恒夫らは、昭和61年4月ころからは右の注文を処理するため早朝から

深夜まで働かなければならないことが多くなり、また、休日を返上して

ラツクコートの製造に従事するようになつたこと。

e 原告は、縫い子等として数名「4月までは4人、5月から10月までは

5人、11月、12月は6人)のパートタイム従業員を雇用していたが、

そのほかに約30箇所に縫製の外注をしていたこと。

f 恒夫は、代表取締役として会社業務全般に従事し、特に、外注先の

確保や指導に当たり、さだ子も常勤の取締役として恒夫の職務全般を補佐し、

また、自ら縫製を担当したほか、縫い子に縫製の指導をするなどしたこと。

右各事実及び前記第2の1、4の原告の収益の状況によれば、本件係争事業

年度の恒夫らの取締役としての職務の内容は、前年度に比して、かなり、

多忙なものであつたものと認められる。

2) 原告の収益の状況

前記第2の1、4の原告の収益の状況及び証拠によれば、本件係争事業年度

は前年度に比して、原告の売上金額は約1.43倍となり、売上総利益では

約2.25倍となつたことが認められる。

3) 使用人に対する給料の支給状況

前記第2の1、4の使用人に対する給料の支給状況によれば、本件係争事業

年度は前年度に比して、使用人(パートタイム従業員)の給料の総額は

約46万円(約1.16倍に)増加し、賞与の総額は約96万円(1.64倍に)

増加したことが認められる。

【判示(10)】
            

また、原告は、セントラルマネジメントなる雑誌を用いて原告の役員報酬

として相当であるとする金額を算出しているが、それによつては、資本金

ランクと常勤役員の役位とのみによる分類に基づく平均報酬額しか把握

できないから、右金額は、同業種・類似規模の法人における役員報酬額の

資料として適当ではない。

2) 本件類似法人と原告との役員報酬額の比較別紙4によれば、次の点を

指摘することができる。
           

a 原告の本件係争事業年度の売上金額と本件類似法人の売上金額の平均は

ほぼ類似すること。
           

b 原告の期末資産合計額は、本件類似法人の期末資産合計額の平均の

約1.2倍であり、役員報酬額を除外しない原告の営業利益は、本件類似法人

の営業利益の平均の約1.45倍であること。

c 役員報酬額については、恒夫の報酬額は本件類似法人の代表取締役の

平均の約2.93倍であり、さだ子の報酬額も本件類似法人のその他の

取締役の平均の約2.56倍であること。

d 本件類似法人のうちの役員最高報酬額は、代表取締役については840

万円であつて恒夫の報酬額はその約2.14倍であり、その他の取締役に

ついては764万円であつてさだ子の報酬額はその約1.26倍であること。

【判示(11)】

右によれば、本件類似法人と比較して、原告において役員報酬額が著しく

多くなつていることは明らかである。

(4)原告は、本件係争年度においては、役員に賞与を支給せず、また、

株主への配当をしていない(争いがない。)。

(5) そこで、諸点を総合考慮するに、本件係争事業年度においては、

恒夫らの役員としての職務内容における最大の変化は、ラツクコートの

大量の注文を処理するため勤務時間が著しく長くなつたという点にあり、

その質において前年から基本的な変化があつたとすることはできない(原告

は、昭和59年からラツクコートを売り出しており、昭和60年には

約2万枚を製造販売しているのであるから、恒夫らの職務が昭和61年に

なつて質的に大きく変化したとすることはできない。また、昭和61年

3月以降に製造販売したラツクコートは、同年1月の時点ですでに

約10万枚の注文があつたのであるから、恒夫らが、本件係争事業年度に

おいてその新規注文をとるために特別の働きをしたとすることはできない。)。

また、原告は、約30箇所の外注先を有していたのに対し、直接雇用していた

のは、パートタイムの従業員数名であり、その給与の総額が昭和60年と

比較して約46万円しか増加していないことからすると、原告における

製造の中心は外注先であつたというべきであり、恒夫らの職務は、外注先の

確保・指導と、原告における製造の一部担当、取引先との応対等の事務が

中心となつていたものと認められる。

【判示(12)】

ところで、恒夫らは、株式会社の取締役であるから、一般の従業員とは

異なり、その超過勤務時間に応じて給与を支給すべきものではないが、

その報酬の決定に当たつては、勤務時間も十分考慮すべきところ、その評価は、

右の態様の職務内容からして、原告の売上金額の増加(約1.43倍)を

基本とし、これに売上総利益の増加(約2.25倍)を加味して行うのが

最も合理的と考えられる(ただし、ラツクコートは、いわゆるヒツト商品

として飛ぶように売れたのであるから、当然に利益率は高くなる。

したがつて、役務の対価としての報酬の相当額を判断するに際しては、

利益率の増加を特に重視することはできない。特に商品のヒツトに基づく

利益の増加のような一時的な利益の増加は、本来、役務の対価としての

報酬ではなく、利益配分としての賞与の支給額の決定に際して考慮される

べき性質のものである。)。

そうすると、右の事情からして、恒夫らの報酬については、前年度の

1.5倍までの範囲で増額(恒夫については540万円、さだ子については

450万円)がされた場合には、相当な報酬の範囲内にあるものといえる。

【判示(12)】

そこで、さらに、右の点を前提とした上、類似法人の役員の報酬額を併せ

検討するに、原告の売上金額は、類似法人の売上金額の平均額とほぼ一致

しており、本件においては、原告の役員の報酬が類似法人の役員の平均

報酬額(被告西尾税務署長は、代表取締役については、620万円、その他

の取締役については380万円としている。)を下回るのが相当であると

すべき特段の事情を認めることはできない。

【判示(13)】
 
そうすると、諸事情を、右に判示した点に着目して、総合考慮すると、

恒夫については、平均報酬額に基づく620万円が相当額の上限、さだ子に

ついては、前年の報酬額を1.5倍した450万円が相当額の上限と認める

のが相当である。

いかがでしょうか?

非常に多忙であり、結果としても黒字であったにも関わらず、

過大役員報酬と判断された本事例は税理士として知っておくべき内容です。

 

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