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2019.04.05

役員退職給与の計算における、創業者という抽出基準

※2018年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「役員退職給与の計算における、創業者という抽出基準」ですが、

2つの判決をご紹介します。

事業承継税制も拡充され、2027年までにかけ、

かなりの数の創業者社長が退職すると見込まれます。

その際に役員退職給与が払い出されるケースも多い訳ですが、

同業で事業規模が類似する法人の抽出に当たり、

創業者であることはどのように考慮されるのでしょうか?

まず、法人税法施行令第70条第1項第二号では

〇当該役員のその内国法人の業務に従事した期間

〇その退職の事情

〇その内国法人と同種の事業を営む法人で

 その事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況 

等に照らして、過大額を判断することになっています。

ここで「等」という表現はあるものの、

具体的に「創業者であることを考慮する旨」は書かれていません。

一般的に、役員退職給与が過大であるか否かは

平均功績倍率で判断されることが多い訳ですが、

創業者であることは平均功績倍率の算定上において、

どのように判断されるのでしょうか?

2つの判決を見てみましょう。

前者は優良法人、後者は倒産してもおかしくない赤字法人の事例です。

〇大分地裁判決(平成21年2月26日)

創業者として好業績の法人である原告を維持発展させた乙の功績は

極めて大きいものといえるところ、このような事情は、

創業者であること等を比較法人の抽出条件とはしない平均功績倍率の

算出過程では考慮されるものではないが、

役員退職給与額に相当の影響を及ぼし得る事情と考えられる。

ここでは「創業者であること等を比較法人の抽出条件とはしない

平均功績倍率の算出過程では考慮されるものではない」と

判断しているのです。

ただし、本事例では好業績の法人を維持発展させた創業者社長としての

貢献を認め、功績倍率3.5で判断しているのです。

ただし、納税者が採用した功績倍率も、

国税が更正の段階で採用した功績倍率も3.5でした。

ちなみに、国税が更正の段階で計算した平均功績倍率は3.094、

裁判の段階で主張した平均功績倍率は2.3であり、

この2.3を大分地裁も適正と認めた上で、3.5が採用された事例です。

〇岡山地裁判決(平成21年5月19日)

原告は、亡乙が創業者社長であり、創業以来死亡するまで

原告の代表取締役の地位にあったが、業務上の事故により死亡するに

至ったことを考慮する必要があると主張するが、

亡乙の生前の原告の損益状況が上記のとおりである以上、

客観的にみて、亡乙にさしたる功績があるとは認められないことは

上記のとおりであるし、創業者社長であることや創業以来死亡するまで

原告の代表取締役の地位にあったことは、原告の損益状況を離れて、

それ自体を功績と認めるべきではない。

さらに、亡乙が業務上の事故により死亡したことについても、

現に新見税務署長が本件更正処分に当たってそうしたとおり、

別途弔慰金等の支給によってこれを考慮すれば足りるのであって、

亡乙が死亡したことによりBから本件死亡保険金2億1034万4575円

が原告に支払われたからといって、これを亡乙の功績と評価することは

できないし、評価すべきでもない。

ここでも「創業者社長であることや創業以来死亡するまで

原告の代表取締役の地位にあったことは、原告の損益状況を離れて、

それ自体を功績と認めるべきではない。」と判断されています。

ちなみに、本事例で採用された平均功績倍率は2.9ですが、

抽出された同業類似法人の功績倍率は

「2.00、2.00、1.80、4.31、4.00」

となっていました。

私見を述べれば、4.0を超えた法人が2社あったことに

救われた部分があるともいえます。

結果として、

〇平均功績倍率を算出するにあたり抽出される同業類似法人の事例は

 創業者であることは絶対条件ではない(むしろ、考慮されないことも普通)

〇創業者だからイコール功績倍率を高くできる訳ではない

ということです。

2027年までは特に創業者社長の退職事例が多くなるでしょうから、

是非、覚えておいてください。

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一切受け付けておりませんのでご留意ください。

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