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2016.10.28

固定資産税の必要経費算入の可否

※2015年12月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「固定資産税の必要経費算入の可否」ですが、

平成26年12月9日の裁決を取り上げます。

さて、以前のメルマガで「賃貸建物の取壊し費用は必要経費か?」

取り上げましたが、この取壊し費用は必要経費となり、請求人の主張が

認められました。

実は、この裁決ではもう1つの「固定資産税の必要経費算入の可否」という

争点があります。

まずは、復習になりますが、本裁決の基礎事実です。

時系列に注意しながら、お読みください。

イ 請求人の概要

請求人は、本件各年分において、複数の不動産を賃貸する不動産賃貸業を

営んでいた。

ロ 請求人による土地及び建物の取得

請求人は、■■■■■■■■、請求人の父である■■■■の死亡に係る相続

(以下「本件相続」という。)により、別紙4記載の土地(以下「本件土地」

という。)及び本件土地上にある別紙4記載の建物(以下「本件建物」

という。)を取得した。

ハ 本件土地及び本件建物の賃貸借契約

本件土地の一部及び本件建物の一部は、本件相続時において、■■■■に

対して、月額賃料3万円で貸し付けられていた(以下、この貸付けに係る

賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。

その後、■■■■が■■■■■■■■に死亡したことにより、同人の娘

である■■■■が、平成23年1月、請求人に対して、本件賃貸借契約を

解除したい旨の申出を行い、本件賃貸借契約は、同月で解除された。

ニ 本件建物の取壊しに係る費用

請求人は、平成23年3月頃に本件建物を取り壊し、本件建物の取壊しに

係る費用を支払った(以下、別表2記載の費用を「本件取壊し費用」という。)。

ホ 本件土地に係る固定資産税及び都市計画税

請求人は、本件建物を取り壊した後、平成23年4月27日、同年7月

28日、同年12月26日、平成24年2月28日、同年5月1日、同年

7月31日及び同年12月28日に、本件土地に係る固定資産税及び

都市計画税(以下「固定資産税等」という。)をそれぞれ納付した

(以下、請求人が平成23年4月27日から同年12月26日までに

納付した本件土地に係る固定資産税等を「平成23年分固定資産税等」、

平成24年2月28日から同年12月28日までに納付した本件土地に係る

固定資産税等を「平成24年分固定資産税等」といい、平成23年分

固定資産税等及び平成24年分固定資産税等を併せて「本件固定資産税等」

という。)。
    

へ 確定申告

請求人は、平成23年分の所得税について、本件取壊し費用及び平成23

年分固定資産税等を不動産所得の金額の計算上必要経費に算入し、平成24年

分の所得税について、平成24年分固定資産税等を不動産所得の金額の計算上

必要経費に算入して、原処分庁にそれぞれ申告した。

この状況の下、原処分庁は必要経費算入を否認した訳ですが、

納税者の主張は認められませんでした。

以下、国税不服審判所の判断です。

イ 法令解釈

(イ)不動産賃貸業を営む個人の所有する土地で、いまだ貸付けの用に

供されていなかったものに係る固定資産税等が、その年分における不動産

所得を生ずべき業務について生じた費用と認められるためには、その者が

その主観において当該土地を貸付けの用に供する意図を有しているという

だけでは足りず、当該土地がその形状、種類、性質その他の状況に照らして、

近い将来において確実に貸付けの用に供されるものと考えられるような

客観的な状態にあることを必要とするものと解すべきである。

なぜなら、所得税法第37条第1項に規定する「その年における販売費、

一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、

当該支出が不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の

遂行上必要なものに限られると解するのが相当であるが、とりわけ土地に

ついては、種々の目的に利用することが可能であり、不動産所得を生ずべき

資産ともなりうるし、投資用の資産あるいは家事用の資産、趣味用の資産

ともなりうるし、将来の売却や利用を考えてはいるが当面は遊休地として

自己又は第三者の債務の担保に供しておくということも考えられ、また、

その途中において利用方法を変更することも比較的容易である。

そうすると、現に貸付けの用に供されていない土地については、これが、

不動産所得以外の所得の基因となるような利用方法や家事用としての利用

方法ではなく、貸付けの用に供されるものであることが外部から識別できる

ような状態である場合に、初めて、当該土地に係る固定資産税等を不動産

所得を生ずべき業務について生じた費用と判定することができるからである。

(ロ)所得税法第37条第1項は、不動産所得等の金額の計算上必要経費に

算入すべき費用について、償却費以外の費用でその年において債務の確定

しないものを除く旨規定しており、費用の必要経費算入の時期について、

内部計算費用である償却費を除き、その債務の確定の日をもってその算入

時期としている。

そして、固定資産税等の租税については、関係法令に課税客体、納税義務者、

課税標準及び税率等の課税要件はもとより、納付及び徴収等の手続が厳格に

定められており、これら一定の課税手続に従ってその額が確定するもの

であるから、一定の課税手続に従って納税義務が具体的に確定した時点で

債務確定の要件を満たすこととなると解するのが相当であるところ、

地方税法第364条第1項及び第702条の8第1項は、固定資産税等の

徴収については、徴税吏員が課税標準及び税額等を記載した納税通知書を

当該納税者に交付することによって地方税を徴収する普通徴収の方法による

旨規定しており、これは、一定の要件を具備した場合に課税権者がその

権限に基づき、課税標準及び納付すべき税額を計算し、これを納税者に

通知することにより納税義務が確定する賦課課税方式に該当するといえる

から、固定資産税等については、納税通知書が納税者に交付されることに

より納税義務が確定するとともに、その債務が確定するというべきである。

ロ 当てはめ

(イ)本件土地は、本件賃貸借契約終了後、請求人が平成25年10月

24日に新たに賃貸借契約を締結するまでの期間においては、いまだ貸付け

の用に供されていなかった土地であると認められる。

また、請求人が、■■■に対して、本件建物の取壊し後、本件土地の新たな

賃借人の選定及び管理を依頼し、■■■がこれを了承した事実が認められる

ものの、請求人は、賃借人の選定条件や管理方法についての具体的な指示を

しておらず、■■■が、請求人に対して本件土地の利用計画等を提案したり、

賃借人の募集に関して具体的な行動を起こしたりしたことはなかったことなど

を総合考慮すると、本件建物を取り壊した平成23年3月から、少なくとも

平成25年5月ないし6月頃に駐車場の賃借人を募集する旨の看板が立つ

までの期間において、本件土地は、近い将来において確実に貸付けの用に

供されるものと考えられるような客観的な状態にあったとは認められない。

(ロ)固定資産税等については、納税通知書が納税者に交付されることに

より納税義務が確定し、その債務が確定するものと解するのが相当であり、

請求人は、平成23年4月8日付及び平成24年4月5日付で本件各納税

通知書の交付を受けていることから、本件固定資産税等に係る債務は、

当該各日付において確定したものと認められるところ、本件土地は、当該

各日付の時点において、いまだ貸付けの用に供されておらず、また、

近い将来において確実に貸付けの用に供されるものと考えられるような

客観的な状態にあったとは認められないから、本件固定資産税等は、本件

各年分の不動産所得を生ずべき業務について生じた費用とは認められない。

(ハ)本件固定資産税等は、本件各年分の不動産所得の金額の計算上

必要経費に算入することはできない。

ハ 請求人の主張の当否

請求人は、本件建物の取壊し後、賃借人を探すための様々な努力を続けて

おり、本件賃貸借契約終了から新たな賃貸借契約締結に至るまでの間に

おいて、本件土地は、近い将来において確実に貸付けの用に供されるものと

考えられるような客観的な状態にあったと認められるから、本件固定資産税

等は、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用である旨主張する。

しかしながら、請求人は■■■に対して本件土地の新たな賃借人の選定及び

管理の依頼をしているものの、賃借人の選定条件等について具体的な指示を

するには至っておらず、また、請求人が不動産業者作成の本件土地に関する

事業計画書を検討するなどしていたとしても、これらの計画が具体化した

ことを示すような証拠は見当たらず、本件土地が、近い将来において確実に

貸付けの用に供されるものと考えられるような客観的な状態にあったとは

認められない。したがって、請求人の主張には理由がない。

いかがでしょうか?

1つの事案の中で必要経費算入の可否が分かれた点もそうですが、

土地の固定資産税を必要経費に算入する上での重要な考え方が示された

事例ですので、覚えておいて頂ければと思います。

 

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