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2023.04.07

自社株0(ゼロ)における相続時の留意点

※2022年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

税理士法人レディングの木下でございます。

今回のテーマは
「自社株0(ゼロ)における相続時の留意点」です。

税理士先生から以下の相談案件がありました。
ただし、相続税申告済みです。

■財産状況等
1.相続人:長男(承継者)・長女(非承継者)(母は既に他界)
2.父(被相続人:社長)が自社株100%保有(株価ゼロ)
3.金融機関からの借入により債務超過
(帳簿価額・相続税評価どちらも)
4.資金繰り悪化から父は法人へ多額の貸付あり(1億円)
5.個人資産はほとんどない(現金500万円)が
多額の貸付金により相続税申告が必要
6.自社株・貸付金・現金400万円は長男、
現金100万円は長女が遺産分割協議により相続

■相続税関連
相続税総額:860万円
各自の納税額:長男852万円、長女8万円

税理士の立場からは
法人は債務超過であるため自社株0(ゼロ)で
株価評価に手間もかからない案件になります。

そのうえで、長男と長女に遺産分割に基づき
相続税申告を無難に終了する案件となるはずでした。

何が問題だったのでしょうか。
相続税申告という点では問題ないはずです。

■問題点の検証
問題点は相続税申告にはなく
金融機関の多額の借入にあります。

金融機関が法人へ融資する際には
現状でも連帯保証人を要求します。
通常は社長となるはずです。

本件でも金融機関と社長(父)との間で
連帯保証契約が締結されていました。

相続税申告では債務控除可能な債務は
「確実な債務」であるため控除不可能ですが、
民法上は潜在債務である連帯保証債務も
相続することになります。

本件、事業承継者である長男が大半の財産を
相続しているため、長男が責任をもって
金融機関への支払いをすることを
相続人(長男・長女)間でも合意していることが通常です。

しかしながら、この合意は債権者である
金融機関には主張することができません。

なぜならば・・・
被相続人の連帯保証債務は、相続発生により
法律上当然に分割されることになり
そのうえで、各相続人が法定相続分に
応じて承継することになるためです(下記)。

最判昭和34年6月19日民集13巻6号757頁
参照URL
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54861

事業を承継した長男は全債務を負担する意思が
あったため、覚悟はあったかと思いますが、
事業を承継する意思のない長女には酷な話です。

法人で返済ができない場合には、連帯保証債務の
2分の1を承継した長女にも弁済請求が及ぶためです。

■取り得た選択肢
それでは・・・
税理士としてはどう対応すればよかったのか?

長女が相続したのが100万円であったため、
相続ではなく長男から贈与してもらうべきでした。

そのうえで、相続開始3カ月以内に家庭裁判所に
相続放棄申述書を提出し、相続放棄の手続きを進める
べきであったかと思います。

参照URL
https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html

そうすれば・・・
悲劇を生むことはなかったはずです。

相続税申告をする場合でも
「相続放棄」の選択肢は残しておくべき事案でした。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

木下勇人

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