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2019.10.21

重加算税が取り消された事例(その1)

※2018年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「重加算税が取り消された事例(その1)」ですが、

平成30年1月11日の裁決をご紹介します。

平成30年9月27に国税不服審判所のホームページに

平成30年1月から3月分までの裁決事例が掲載されました。

この中の国税通則法関係のうち、

重加算税に関して争われた事例が5件あり、

5件全てが重加算税が取り消されたものです。

そこで、今回から5回シリーズで、

これらの事例を検証していきます。

今回は「当初から申告しないことを意図し、

その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、

その意図に基づき期限内申告書を提出しなかったものと

認めることはできないとして、重加算税の賦課決定処分を

取り消した事例」(国税不服審判所のホームページより)です。

この事例は「土地区画整理組合から交付を受けた

換地不交付に対する清算金」につき、無申告だった事例です。

ちなみに、脳科学者の茂木健一郎さんが

約4億円の所得漏れを指摘された際も

無申告加算税が課せられたと報道されています。

この事例では、

〇 「清算交付金に伴う確定申告について(お知らせ)」と題する書面

→ 分離譲渡所得に該当し、確定申告が必要である旨などが記載

〇 清算金に係る「平成27年分不動産等の譲受けの対価の支払調書」

を受領もし、確定申告が必要だったことは認識しています。

実際、裁決文にも「本件清算金について、所得税等の課税の対象となり、

所得税等の確定申告を要し、これにより算出された税額を

納付しなければならないと認識していたことについては、

原処分庁及び請求人との間に争いはない。」とあります。

この事例の興味深い部分は質問応答記録書が作られ、

これが1つの大きな根拠になって重加算税が課されたにも関わらず、

重加算税が取り消されている点です。

この事例は経緯が複雑なので、

裁決文の重要な部分のみをそのまま抜粋します。

長くなりますが、質問応答記録書がありながらも、

重加算税が取り消された経緯を理解して頂ければと思います。

〇原処分庁は、〜請求人が、平成28年2月か3月頃、確定申告会場に行った際、

本件清算金を受領した事実を秘匿するために、あえて本件お知らせや

本件支払調書を持参せず、本件清算金に係る所得税等の確定申告に

関する相談さえしなかったとの事実が認められるとし、

当該事実は、同旨の請求人の申述に基づき認められる旨主張する。

〇確かに、本件調査担当職員が作成した平成28年11月1日付の

質問応答記録書には、請求人が原処分庁の主張する事実と同じ内容を

申述した旨の記載があり、請求人が読み聞かせを受けた上で

当該質問応答記録書に署名押印したことが認められ、

また、請求人が重加算税の賦課を前提とした所得税等の予納をした

(前記1の(4)のハ)のは、請求人が上記の申述内容を

認めていたからこその行動とも考えられる。

〇しかしながら、請求人は、当審判所に対して、確定申告会場に

本件清算金に係る資料が入った封筒を持参した旨答述し、

上記申述の内容を否定しているところ、上記質問応答記録書における

請求人の申述内容をみると、そもそも何のために確定申告会場に

行ったのかという点が明らかではないし、本件お知らせや

本件支払調書を持参しなかった理由も「国民健康保険料が

上がっていたので」としかされていないなど、

合理性、具体性に乏しく、本件清算金を受領した事実を秘匿するために、

あえて本件お知らせや本件支払調書を持参しなかった旨の申述が

直ちに信用できるとはいえない。

〇原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によっても、

請求人が訪れたとする確定申告会場や対応者等を特定することさえできず、

請求人の当該申述を裏付ける客観的な証拠も認められない。

〇そうすると、上記質問応答記録書に記載された請求人の申述が

信用できると判断する根拠がないから、請求人が、本件清算金を

受領した事実を秘匿するために、確定申告会場に行った際、

あえて本件お知らせや本件支払調書を持参しなかったとの事実を

認めることはできない。

〇なお、原処分庁が主張するように、仮に、請求人が確定申告会場へ

本件お知らせや本件支払調書を持参しなかった事実が認められるとしても、

本件清算金についての確定申告をすることは可能であったといえる。

〇また、請求人は、自身が理事を務める本件組合から本件支払調書を

受領していたのであるから、本件組合がこれを原処分庁へ提出することは

容易に察し得る状況にあったといえる。

〇そのような状況の下、請求人がこれらの書類を確定申告会場へ

持参しなかったとして、本件清算金の受領の事実を秘匿するための

行動と評価するのは困難といわざるを得ない。

〇請求人が、本件調査において、本件調査担当職員に対し、

当初は、本件お知らせや本件支払調書を受領していないなど、

事実と異なる申述をした旨も主張する。

しかしながら、原処分庁の主張する事実関係を前提にしても、

請求人は、平成28年10月31日の本件調査の当初から、

平成27年中に本件清算金を本件口座への振込入金により

受領したことを認めた上で、本件清算金を含む本件事業に係る書類を

まとめて入れている封筒の中から取り出した「清算金通知書」などの

本件清算金の額が分かる書類や、別途保管していた本件口座に係る

預金通帳を提示し、また、一旦は、上記の提示した書類等で

本件清算金の額等の確認はできるなどとして、

当該封筒を提示することを拒んだものの、結局、その日のうちに

当該封筒ごと提示したというのである。

〇そうすると、平成28年10月31日の本件調査の全体をみたときに、

請求人が、本件清算金を受領した事実やそれに関する本件お知らせ等の

資料について隠ぺいしようとする態度を一貫してとっていたとか、

調査に非協力的な態度をとったとまではいえない。

〇したがって、この点についての原処分庁の主張は

その前提を欠くから理由がない。

〇原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、

請求人は、本件お知らせ及び本件支払調書を含む本件清算金に係る

書類を廃棄するなどの行為をしていないこと、本件口座に本件清算金が

振り込まれた平成27年4月30日以降本件調査が開始された

平成28年10月31日までの間において、本件口座から特段多額の出金はなく、

本件清算金を受領した後、これを隠匿しようとするような行為を

していないことがそれぞれ認められる。

〇その他、当審判所の調査によっても、請求人が、当初から

課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、

当該意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたことを

うかがわせるような事実は認められない

〇なお、仮に、請求人が主張するように、確定申告会場に行った際、

本件清算金に係る資料を持参したものの、本件清算金についての

相談をしなかったとしても、当該意図を外部からもうかがい得る

特段の行動と評価することはできない。

〇請求人が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、

その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められない。

いかがでしょうか?

質問応答記録書は重加算税を賦課するための1つの重要な証拠にはなります。

しかし、そこには「真実と違うことが書かれている」こともあり、

これが認められれば、重加算税は不可されない訳です。

この裁決文には「税理士」という表現はないため、

税務調査の現場では税理士が対応していないものと思われます。

なお、顧問税理士がいるにも関わらず、

税理士がいない状況で質問応答記録書が作成された事例もあります。

いずれにせよ、質問応答記録書に署名押印したとしても、

それは「1つの証拠」に過ぎないのであって、

これがあっても重加算税は取り消され得るということを

覚えておいてください。

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