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2015.12.03

棚卸資産の評価損のポイント

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「棚卸資産の評価損のポイント」です。

期末に残っている在庫がデッドストックになっている場合、評価損の計上を

検討することがあります。

こういう状況の中、ある事例(出版業者、平成23年3月25日裁決)では、

価値がほぼ無いと思われる商品を棚卸資産としてカウントせず、申告しました。

さて、この処理は認められるものでしょうか?

結論の前に該当法令、通達を確認しましょう。

〇法人税法33条2項(資産の評価損の損金不算入等)

内国法人の有する資産につき、災害による著しい損傷により当該資産の価額

がその帳簿価額を下回ることとなつたことその他の政令で定める事実が生じた

場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして【損金経理により

その帳簿価額を減額したときは】、その減額した部分の金額のうち、その

評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する

事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、

前項の規定にかかわらず、その評価換えをした日の属する事業年度の所得の

金額の計算上、損金の額に算入する。

〇法人税法施行令68条1項1号(資産の評価損の計上ができる事実)

法第三十三条第二項 (特定の事実が生じた場合の資産の評価損の損金算入)

に規定する政令で定める事実は、物損等の事実(次の各号に掲げる資産の

区分に応じ当該各号に定める事実であつて、当該事実が生じたことにより

当該資産の価額がその帳簿価額を下回ることとなつたものをいう。)及び

法的整理の事実(更生手続における評定が行われることに準ずる特別の事実

をいう。)とする。

一  棚卸資産 次に掲げる事実

イ 当該資産が災害により著しく損傷したこと。

ロ 当該資産が著しく陳腐化したこと。

ハ イ又はロに準ずる特別の事実

〇法人税基本通達9-1-4(棚卸資産の著しい陳腐化の例示)

令第68条第1項第1号ロ《評価損の計上ができる著しい陳腐化》に規定する

「当該資産が著しく陳腐化したこと」とは、棚卸資産そのものには物質的な

欠陥がないにもかかわらず経済的な環境の変化に伴ってその価値が著しく

減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態にあることをいう

のであるから、例えば商品について次のような事実が生じた場合がこれに

該当する。

(1) いわゆる季節商品で売れ残ったものについて、今後通常の価額では

販売することができないことが既往の実績その他の事情に照らして明らか

であること。

(2) 当該商品と用途の面ではおおむね同様のものであるが、型式、性能、

品質等が著しく異なる新製品が発売されたことにより、当該商品につき今後

通常の方法により販売することができないようになったこと。

〇法人税基本通達9-1-5(棚卸資産について評価損の計上ができる「準

ずる特別の事実」の例示)

令第68条第1項第1号ハ《棚卸資産の評価損の計上ができる事実》に規定する

「イ又はロに準ずる特別の事実」には、例えば、破損、型崩れ、たなざらし、

品質変化等により通常の方法によって販売することができないようになった

ことが含まれる。

さて、上記の裁決事例で請求人は

〇書籍及び書籍DVDはその全部を期末棚卸高に計上

〇雑誌は期末以前1か月以内の発行分のみを期末棚卸高に計上

〇雑誌DVDは期末以前10か月以内の発行分のみを期末棚卸高に計上

〇これらの期間前に発行されたものは期末棚卸高に計上しなかった

という状況です。

つまり、棚卸資産の評価損を損金経理していないが、評価損相当額の

課税所得は減っているという状況です。

これにつき、国税不服審判所は「法人税法33条では、損金経理によりその

帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち」となっている

などの理由により、評価損の損金算入を認めませんでした。

具体的な裁決文の一部は下記となっています。

〇棚卸資産につき法人税法第33条第2項に規定する評価損の計上が認め

られるのは、災害により著しく損傷したこと、棚卸資産が著しく陳腐化した

こと及びこれらに準ずる特別の事実が生じたことにより、当該資産の価額が

その帳簿価額を下回ることとなった場合において、その法人が当該資産の

評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額した場合であるところ、

本件返品雑誌等については、評価損の計上が認められる状態にあったと

認めるに足る証拠もなく、また、請求人及びD社は、本件返品雑誌等に

ついて、その計上額と請求人の主張する期末時価との差額を損金経理により

帳簿価額を減額した事実が認められない。よって、請求人は本件返品雑誌等

について、その評価損を損金の額に算入することはできない。

〇請求人が主張するように書店等から返品された雑誌等については、月刊誌等

の定期刊行物で新号の出版により通常の店頭販売がされなくなったものや、

販売されないまま保管され、たなざらしによる破損や変色したものが発生

しても不自然ではないから、本件返品雑誌等についても、法人税法施行令

第68条第1項第1号ロにいう著しい陳腐化や物損等により価値が低下し、

法人税法第33条第2項に規定する評価損の計上が認められる状態のものが

含まれていた可能性があると思料されるところではあるが、請求人及びD社

は、上記ハのとおり、評価損を損金の額に算入する要件の一つである損金経理

による帳簿価額の減額を行っておらず、当該要件を満たさないのであるから、

請求人の主張には理由がない。

結果、実態としては評価損が計上できる可能性が推認されたとしても

〇 時価の立証

〇 損金経理による帳簿価額の減額

ということが満たされないため、請求人の主張は認められませんでした。

顧問先が「もう売れない商品だから0円評価でいいか」と思い込み、

期末棚卸高に計上せず、その棚卸表が税理士の手元に届いた場合、

その数字で決算は進みます。

しかし、この場合は損金経理すべき数字がそう処理されていないので、

法人税法33条の要件を満たさないのです。

だから、期末時の棚卸額を確認する際は、棚卸表を入手するだけでなく、

デッドストックの有無、その時価、時価の根拠となる資料等も併せて

確認、入手しておく必要があるのです。

顧問先が思い込み、勝手に処理をしてしまった場合は非常に気づきにくい

論点となる部分なので、ご注意頂ければと思います。

 

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

※2014年2月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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