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2016.08.05

上場会社の役員退職給与は否認されないのか?

※2015年7月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

さて、今回は「上場会社の役員退職給与は否認されないのか?」ですが、

平成16年6月15日の裁決を取り上げます(一部取り消し)。

さて、同族会社の場合は様々なことに恣意性のある処理がされることがあり、

これが税務調査で否認されることがあります。

しかし、上場会社であれば、純然たる第三者も参加する株主総会の下、

様々な決議がされ、いわゆる「お手盛り」的な要素は非常に薄くなります。

では、上場会社であれば、役員退職給与は否認されないのでしょうか?

もちろん、上場会社であれば、役員退職給与の過大額は無いとする法令は

存在しませんし、実際に争われた事例もあります。

まずは、本事案の前提条件です。

○ 東証一部の上場企業の創業者(代表取締役相談役)の退職

○ 問題となった事業年度は平成13年1月1日~12月31日

○ 平成13年3月29日に開催した定時株主総会で株主の了承を得た後、

  同日開催の取締役会において決定し、同年4月3日に支給するとともに、

  本件事業年度に「役員退任慰労金」の科目で損金の額に算入した。

○ 請求人の役員退職給与に係る規程については、「取締役の退任慰労金

  規則」(以下「本件退職給与規程」という。)に定められている。

○ 本件退職給与規程の細則として「役員退任慰労金内規」が定められて

  おり、同内規の第2条には、本件退職給与規程の第3条に定める退任

  慰労金の基準額の算定に当たり、役位別最終報酬月額は、原則として

  当該報酬月額の70%相当とする旨定めている。

○ 請求人は、本件退職給与の額を上記の規程のうち、平成12年6月1日

  以降実施分に基づき又同規程第5条の創業者の功績加算額の率(以下

  「創業者特別加算率」という。)を200%として、算定している

○ 原処分庁は類似法人5社を選定し(倍半基準、一部上場企業が前提)、

  平均功績倍率4.1により、適正額を計算

この前提の下、国税不服審判所は下記と判断しました(非常に長いですが、

興味深い事案なので、主要部分を全て抜粋します)。

○ 本件規定の趣旨

  本件規定(見田村注:旧法人税法第36条及び同法施行令第72条)に

  おいて、不相当に高額な役員退職給与の損金不算入を定めているのは、

  その損金性を決定する尺度たる当該役員の会社に対する貢献度を算数的

  正確さをもって客観的に測定するための基準がないため、その判断が

  主観的に流れやすい上、個々具体的な退職給与の金額には多分に利益

  処分としての性格を有する支出の含まれる事例が少なくないところから、

  役員退職給与の損金算入を認めるに当たっては、実体に即した適切な

  租税負担の公平を期する見地に立って、法人の行為計算にとらわれる

  ことなく、一般に相当と認められる金額に限り、収益を得るために

  必要な経費として損金算入を認め、その金額を超える部分は利益処分

  として損金算入を認めないものとした趣旨と解される。

○ 本件退職給与の相当額の判定

・ 請求人が算定した本件退職給与の相当性

  請求人は、上場企業においては、コーポレートガバナンスの仕組みが

  十全に機能し、過大な役員退職給与に対しては、第三者たる株主による

  厳然とした審査が存在するため、濫用的目的によって退職給与を過大に

  支給することが困難であり、本件規定が当てはまる場合は極めて例外的

  であるから、本件退職給与に関する請求人の決定は適正であるとの推定

  が働くというべきである旨主張する。

  また、請求人は、役員退職給与の額は、高度な経営判断を要する事項

  であり、原処分庁は、よほどの例外的な事情がない限り、退職給与の額

  について経営の専門家である取締役が行った判断を尊重し、その額は

  適正であると解するのが妥当である旨主張する。

  しかしながら、本件規定の趣旨は、上場企業についても妥当し、そして、

  上場企業について、本件規定の適用を除外する旨の特段の定めはないから、

  請求人の主張には理由がない。

・ 原処分庁が適用した平均功績倍率法の合理性

  本件規定において、役員退職給与の相当額の算定基準としては、当該

  役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、同業類似法人

  の役員に対する退職給与の支給状況等に照らして判断すべき旨定めて

  いるが、これを具体的に計算する方法としては、従来から平均功績倍率法、

  最高功績倍率法及び一年当たり平均額法が用いられている。

  ところで、平均功績倍率法は、同業類似法人の役員退職給与の支給事例の

  平均功績倍率に当該退職役員の最終報酬月額及び勤続年数を乗じて、

  役員退職給与の相当額を算定する方法であり、最高功績倍率法は、平均

  功績倍率に代えて同業類似法人の役員退職給与の支給事例の功績倍率の

  最高値を乗じて、役員退職給与の相当額を算定する方法であるところ、

  ①役員の最終報酬月額は、役員在職中における法人に対する功績を最も

  よく反映しているものであること、

  ②役員の在職年数の長短は、報酬の後払いとしての性格の点及び功績

  評価の点にも影響を及ぼすものと解されること並びに

  ③功績倍率は、当該役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払能力等

  の個別的要素を総合評価した係数であるといえることから、

  これらの要素に基づく功績倍率法により算出された役員退職給与の

  相当額には合理性があると解される。

  さらに、功績倍率を平均化することにより、類似法人間に存在する差異や

  個々の特殊性を捨象することができることにより合理性が高まることなど

  から、適正に算出された平均功績倍率を用いる限り、その方法は客観的

  かつ合理的であるということができるから、平均功績倍率法は最高功績

  倍率法に比して合理的であると認められる。

  そもそも、功績倍率法が合理的であるとされるゆえんは、役員退職給与

  には、報酬の後払いとして損金性を有する部分と、功労報償として利益

  処分性を有する部分とが包含されており、それを区分する基準として

  功績倍率法が適切と認められる点に存していることからすると、その

  平均値をもって前者の部分を導出することになる平均功績倍率法が

  最高功績倍率法に比して合理的であるということは上記のとおりである

  から、例えば、同業類似法人の抽出が不十分であり平均値を採用し難い

  特別な事情がある場合などに限って、功績倍率の最高値を乗ずる最高

  功績倍率法の採用を考慮するのが相当と認められる。

  本件にあっては、本件同業類似法人の抽出基準は、十分であり、平均

  功績倍率法によらず最高功績倍率法を採用しなければならない特別な

  事情の存在は認められないから、平均功績倍率法が最もよく本件規定に

  合致する方法と認められる。
 

  なお、一年当たり平均額法は、同業類似法人の役員退職給与の額を

  その勤続年数で除して得た額(1年当たりの退職給与の額)の平均額に、

  判定法人の退職役員の勤続年数を乗じて算出する方法である。

  そのため、この方法は、当該役員の勤続年数は加味されるものの、役員

  退職給与の額に最も関係の深い要素である当該役員の退任時の役員報酬

  月額が直接考慮されないことになるため、この方法は、最終報酬月額と

  勤続年数の二要素を考慮する功績倍率法に劣後して適用されるべきもの

  であり、例えば、当該役員の最終報酬月額が同業類似法人の退職役員の

  それに対して低額であるという事情が存する場合に、その適用を考慮

  すべきものであると認められるところ、本件にあっては、■■■■の

  最終報酬月額が■■■■■と低額であるとは認められないから、一年

  当たり平均額法を採用することはできない。

・ 請求人は、原処分庁が本件退職給与の相当性の算定について適用した

  平均功績倍率法は、同業類似法人の功績倍率を単純平均した数値を基準に

  すると、中程度の功績倍率が相当な役員退職給与の最高限度となり、

  その作業が反復されることにより、逐次算定される平均功績倍率の値は

  最終的には零に近づくことになるという欠陥を含んでいるから、退職給与

  の過大性の判断において絶対視することはできない旨主張するが、平均

  功績倍率法は、請求人の主張するように、平均化するための作業を反復

  して行うものでないことから、請求人の主張には理由がない。

  
  また、請求人は、■■■■は、創業者であり、請求人を一部上場企業に

  までした者であるという極めて特殊な事情が存在し、平均功績倍率法の

  前提条件たる適切な同業類似法人の抽出は困難であるといえるから、

  平均功績倍率法で求めた数値は有意なものではない旨主張する。

  
  しかしながら、同業類似法人の抽出に当たっては、請求人と形態業種、

  退職役員のその法人における地位や退職に至る事情及び事業規模等の

  大まかな基準によって同業類似法人の候補となる法人を抽出した上、

  候補となった法人についてさらに検討を加えて同業類似法人を決定する

  方法も許されるものであるから、請求人主張の事情が抽出基準とされて

  いないことをもって、直ちにそれによって抽出された法人が平均功績

  倍率を算定する基礎とはなり得ない、ということにはならないのである。

  そして、原処分庁が採用した抽出基準については、この意味において、

  なお合理性を有するものということができる。したがって、この点に

  関する請求人の主張には理由がない。
  

・ 本件退職給与の相当額の算定

  A 最終報酬月額

  原処分庁は、■■■■の最終報酬月額を■■■■■としており、■■■■が

  相談役退任時の役員報酬月額を採用しているから相当と認められる。

  B 役員在職年数
  
  原処分庁は、■■■■の役員在職年数を■■としている。

  この在職年数の算定に当たって、■■■■は、■■■■■■■■■■■■

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  ■■ことから、役員在職期間は、■■■■となる。

  そして、請求人及び原処分庁は、■■■■の役員の在職年数について、

  年未満の端数を切り上げ■■としており、当審判所においてもそれを

  不相当とする理由はないから、同人の役員在職年数を■■として算定する。

  C 本件平均功績倍率

  (A) 本件同業類似法人の抽出

  a 業種

原処分庁が本件同業類似法人の抽出基準に用いた日本標準産業分類は、

  日本産業に関する統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較と

  利用の向上を図るために、統計調査の産業標準の基準の一として設定

  されており、その分類は客観的であるから、当該産業分類の区分に

  従った業種により、同業類似法人を抽出することには合理性が認められる。

  そして、■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■同業類似法人を抽出の対象

  としたことは相当であると認められる。

 
  しかしながら、本件同業類似法人を個別的にみると、■■■■■■■■

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

  請求人と同業種として抽出するには、やや類似性に欠けるものと認め

  られる。

  b 業態

 (a) 一部上場企業
  
  請求人は、一部上場企業であることから、原処分庁が一部上場企業を

  本件同業類似法人の抽出基準としたことは、合理性があるものと認め

  られる。

 (b) 事業規模等
 
  企業の事業規模の実態をより適切に把握することができる指標は、

  売上金額、経常利益金額、総資産価額及び純資産価額であると解する

  のが相当であるところ、原処分庁が、当該指標に係る指数を本件同業

  類似法人の抽出基準としていること及びその指数の抽出範囲を役員が

  退職した日を含む事業年度以前3事業年度における倍半基準としている

  ことは、指数の正確性を担保し又その類似性を判断するに当たり合理性

  があるものと認められる。

  しかしながら、本件同業類似法人を個別に検討すると、経常利益金額の

  指数が請求人の100に対し、A社、B社及びC社はほぼ倍半基準値内

  となっているが、D社は△15、E社は8と極端な開差となっている

  ことからすれば、この点について、D社とE社は、その類似性が特に

  低いものと認められる。

  c 退職者の地位及び退職の事情

 (a) ■■■■が創業者であり、■■■■■■■■■■■■■■■■■

  務めて高齢を理由に退任したことに対して、原処分庁は、退職した役員が

  社長又は会長の地位に在職していた者であること及び退職の事由が業務上

  の死亡ではないことを本件同業類似法人の抽出基準している。

  しかしながら、■■■■が創業者であること及び社長等の役職であった

  期間等を考慮すると、本件にあっては、その抽出基準に、創業者又は

  それに準ずる者であることを含めることが、同業類似法人を抽出するに

  当たりその類似性をより高めるものと認められる。

  そうすると、D社及びE社は、創業者又はそれに準ずる者でもないこと

  から、その類似性は低いものと認められる。

  なお、本件同業類似法人のうち、A社は、退職の事由が、業務上ではなく

  病気による死亡であるが、死亡による退職の場合、業務上の死亡でなく

  とも、一般的その退職給与は高額になるものと認められ、当該法人を

  抽出することは、そのことが請求人に有利となることを考慮すると

  これを除外しなければならない理由はないものと認められる。

 (b) 原処分庁は、■■■■が退任した日を含む事業年度以前5年以内に

  終了した事業年度において役員退職給与を支給した法人を基準として

  同業類似法人を抽出しているが、このことは、業績の変化、経済状況の

  変化等を勘案し、類似法人を抽出する上で合理性が認められる。

  d 本件同業類似法人の適格性

  以上のとおり、原処分庁が採用した本件同業類似法人の抽出基準には、

  先に述べたように、一応の合理性が認められるところであるが、合理的な

  基準により抽出された法人であったとしても、個別事情によりその類似性

  が極端に失われていると判断されるような場合には、そのような法人は

  除外することが相当である。

  このことからすると、上記a、b及びcのとおり、本件同業類似法人の

  うち、D社及びE社は、業種、業態、退職者の地位及び退職の事情等に

  おいて総合的に判断すると、その類似性は極端に低く、請求人の同業

  類似法人としては不適格であると認められることから、当該2社は

  本件同業類似法人から除外するのが相当である。

  なお、請求人は、原処分庁に対し、本件同業類似法人に係る具体的な

  業種、本店所在地等を開示するように主張しているが、原処分庁が、

  本件同業類似法人に係る情報を具体的に開示することは、原処分庁に

  課せられている守秘義務に違反することになるため、請求人の主張は

  採用できない。

 (B) 平均功績倍率の適正率
 
  原処分庁が抽出した本件同業類似法人のうち、D社及びE社は、類似する

  法人として抽出するには不適当であると認められることから、当該2社を

  除き、A、B、Cの3社の功績倍率を基に算定した平均功績倍率は別表3

  のとおり4.7となる。
 

 別表3 同業類似法人3社の功績倍率

 ------------
 |対象法人 |功績倍率|
 |-----+----|
 | A 社 | 3.4|
 | B 社 | 5.0|
 | C 社 | 5.6|
 |-----+----|
 | 合 計 |14.0|
 |-----+----|
 |3社の平均|    |
 |功績倍率 | 4.7|
 ------------

・ 本件退職給与の相当額

  平均功績倍率法に基づき、■■■■に係る相当な退職給与を算定すると

  次のとおりとなる。

 (最終報酬月額)(役員在職年数)(平均功績倍率) (相当額)

  ■■■■■■ ×  ■■  ×  4.7 = ■■■■■■■■

○ 本件退職給与の過大額及び本件更正処分の適否

  以上の結果、本件退職給与から相当な役員退職給与の額■■■■■■■■

  を差し引いた額■■■■■■は、本件規定により損金の額に算入されない

  こととなるので、本件事業年度の所得金額は■■■■■■■となり、

  本件更正処分に係る所得金額■■■■■■■を下回るから、本件更正処分

  は、その一部を取り消すべきである。

いかがでしょうか?

上場会社を顧問先にお持ちの税理士事務所もあるでしょうし、そうでない

場合でも、本事案で示された考え方は重要なものです。

是非、覚えておいて頂ければと思います。

 

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