2016.03.01

修正申告の勧奨と強要

さて、今回は「修正申告の勧奨と強要」です。

まず、最低限知っておいていただきたい国税の内部状況ですが、

・今月(6月)をもって事務(調査)年度が終わる

・来月上旬に異動がある(異動するかどうかはまだ不明)

・だから今月中にどうしても調査を終わらせたい

・ただし、修正申告提出の締日は今週(6月中旬)
 (税務署によって若干締日が相違します)

となっています。だからこそ毎年6月になると、
調査官がムリにでも調査を終わらせようと修正申告の提出を迫り、
ヒドい調査になると、税理士がいないところで
納税者に修正申告を提出させる事案が発生します。

国税通則法第74条の11第3項によると、
税務調査の結果、税務署からの誤りの指摘に納得し、
納税者が修正申告を提出する行為を「勧奨」と呼んでいますが、
納税者にムリヤリ提出を迫れば、それは「強要」と言うべきものです。

実際のところ、修正申告を強要されたとして争った事案は多く、
公開裁決事例だけでも数件あります。
(裁判はもっとあります)

http://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0201000000.html

しかし、まともに納税者が勝てた事案はほぼありません。

納税者が「修正申告の強要」にほとんど勝てない理由は、
強要かどうかの立証責任が納税者側にあるからです。

事実として、修正申告書に署名・押印しているのですから、
その過程を「強要」と主張するには客観的に考えるとムリが生じます。

実際に「調査官に強要された」といくら主張しても、
それを立証することは非常に難しく、
調査官も訴えまで起こされると、自らが納税者に言った
「発言内容」「語気」を弱めにしか証言しないでしょうから、
これでは税務署相手に勝てる要素など無いに等しいといえます。

だからこそ私は常々言っていますが、税務調査では
「絶対に録音しておくこと」が必要になります。

ちなみに、修正申告の提出を強要され、その内容に
問題がある場合、民法総則の規定を適用して、
納税額の不当利得返還訴訟、または
租税債務の不存在確認訴訟を起こすことになります。

適用する民法の根拠条文は、

①民法第95条(錯誤)
意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。

②民法第96条(詐欺または強迫)
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

しかし、弁護士を雇ってまで修正申告の強要で
裁判を起こすのは、実質不可能に近いと思います。
(費用対効果を考えるのが当然ですから)

税務調査が6月まで引っ張るような事案については、
調査官に対して「○○の否認指摘が取り下げられない
限り修正申告はしません」という明言する一方で、
関与先には「納得できない内容で修正申告に応じるべきではない」
旨を伝えておくことが必要になるのです。

また、この時期に結了していない調査事案については、
事務年度終了を見越した駆け引きになりますが、
修正申告を提出しない、と明言すれば、
それだけで否認指摘の一部取り下げを言い出す
調査官も多くいます。

調査官としては「税務署の締日の問題で・・・」
など言ってきますが、最後まで慌てず
修正申告を提出するのを慎重に検討すべきなのです。

 

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※2014年6月の当時の記事であり、
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