2015.06.04

貸倒損失の計上時期

さて、今回は「貸倒損失の計上時期」です。

今日の話は多くの税理士が経験したことがあるかと思います。

それは、新規の顧問先の決算書を見た際に「とうに回収できない債権」が

貸借対照表に載っていることがあるということです。

そして、社長にこのことを伝えると、

○ その会社はもう倒産しました

○ その債権はもう回収できないことが確定していますが、

  まだ載っているのですか?

などと回答されることもあります。

つまり、社長は決算の際に内訳書をよく見ていないということです。

ただ、こういうことはよくありますね・・・。

こういう場合に悩ましいのが、その貸倒損失の計上時期の問題ですが、

これにつき争い、納税者が負けた裁決があります(平成20年6月26日)。

まずは事案の基礎事実です(■は伏字になっています)。

○ 請求人の得意先A社が破産宣告を受けた(平成9年5月■日)

○ 請求人は売掛債権を破産債権届出書に記載し、提出

○ 平成11年2月16日に最後配当を受領

○ 平成11年6月■日に破産終結(登記簿謄本閉鎖)

○ これ以後、法的な回収手続は行なっていない

○ 平成18年頃、顧問税理士からの問い合わせを契機に調べたところ、

  A社の代表Bが所在不明となっていた

○ 請求人の取締役会(平成18年9月15日)で、

  同日においてA社への債権が回収不能になったとして、貸し倒れが承認

○ 平成18年9月期において、貸倒損失として計上し、否認された

ここで争点になったのは法人税基本通達9-6-2における

「その全額が回収できないことが明らかになった事業年度はいつか?」

ということです。

なお、法人の破産手続においては配当されなかった部分の破産債権を

法的に消滅させる免責手続はありません。

具体的な裁決文にいく前に通達を確認しておきましょう。

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(回収不能の金銭債権の貸倒れ)

法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみて

その全額が回収できないことが明らかになった場合には、

その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることが

できる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、

その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることは

できないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象に

することはできないことに留意する。
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そして、審判所は下記の判断により、原処分庁の主張を認めました。

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法人の破産手続においては、配当されなかった部分の破産債権を法的に
消滅させる免責手続はなく、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、
出すところの廃止決定又は終結決定があり、当該法人の登記が閉鎖されること
とされており、この決定がなされた時点で当該破産法人は消滅することから
すると、この時点において、当然、破産法人に分配可能な財産はないのであり、
当該決定等により法人が破産法人に対して有する金銭債権もその全額が
滅失したとするのが相当であると解され、この時点が破産債権者にとって
貸倒れの時点と考えられる。

なお、破産の手続の終結前であっても破産管財人から配当金額が零円である
ことの証明がある場合や、その証明が受けられない場合であっても債務者の
資産の処分が終了し、今後の回収が見込まれないまま破産終結までに
相当な期間がかかるときは、破産終結決定前であっても配当がないことが
明らかな場合は、法人税基本通達9-6-2を適用し、貸倒損失として
損金経理を行い、損金の額に算入することも認められる。

(中略)

破産の手続によって債権の額が法律的に切り捨てられるものではないと
されており、請求人が有するA社に対する売掛債権は、A社が破産した後も
引き続き存在しているとも考えられる。

しかしながら、上記イのとおり、法人の破産手続においては、自然人の
破産手続とは異なり、配当されなかった部分の破産債権を法的に消滅させる
免責手続はないが、裁判所が破産法人の財産がないことを公証の上、
出すところの廃止決定又は終結決定がなされた時点で当該破産法人は
消滅することとなり、当該破産法人が消滅することにより、法人が破産法人
に対して有する金銭債権も滅失することとなる。

したがって、A社の破産手続終結の決定がされた時点において
貸倒損失が発生したとするのが相当である。
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破産が終結した平成11年6月■日の属する事業年度において、

なぜ、顧問税理士は貸し倒れにしなかったのか?ということです。

当時の顧問税理士と貸倒処理した顧問税理士が同じかどうかは

裁決文には記載してありません。

ただ、1つだけ言えることは破産が集結した日の属する事業年度において、

9-6-1により貸し倒れにすればよかったということです。

もしかしたら、「貸し倒れにすると赤字になってしまうので、できません」

と社長から要請されたのかもしれません。

単なるチェック不足で、売掛債権の状況を決算時に確認しなかったのかも

しれません。

それは分かりません・・・。

しかし、9-6-2、3と違い9-6-1は損金経理を要件としておらず、
———————————————————————
その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして

損金の額に算入する。
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と書いてあるだけです。

つまり、別表四における減算のみでも認められるということです。

ここは盲点になっている場合もありますので、ご注意ください。

 

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2012年11月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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