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2022.09.22

不正・横領の税務/第5回:貸倒損失の計上

※2021年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

株式会社KACHIELの久保憂希也です。

水曜の本メルマガでは連載で、従業員の不正・横領が
発覚した場合の税務処理について解説していますが、
今回が最終回で、計上された損害賠償請求権を消す
=貸倒損失を計上するタイミングです。

9月8日に配信した第1回では、
従業員の不正・横領が税務調査で発覚した場合、
原則として「同時両建説」として、不正時に
遡って下記の処理になることを解説しました。

【不正発覚時(N期)の処理】(Nー2)期に遡及
横領損失 110 / 外注費 100
           仮払消費税 10
損害賠償請求権 110 / 収益 110

この場合、不正が行われた過去に益金が計上される
わけですが、その次の論点は、法人側において
損害賠償請求権をいつ消せるかになります。

まず、不正・横領を行った従業員に対して
不正額を請求し、その額が満額返済される場合、

現預金110 / 損害賠償請求権 110

となり、債権を回収した処理をすることになります。

ただ、現実を考えるとこのように不正額を
全額回収できるケースは稀でしょう。

ほとんどのケースでは、不正した従業員が
一部の金銭しか保有していない、最悪のケースは
無資力であるというのが現実でしょう。

一般的には、従業員の不正・横領が発覚した
場合の流れは下記になろうかと思います
(なお、本メルマガの趣旨から法務マターには
解説を加えません)。

就業規則・業務命令等による処分
(可能であれば解雇処分)

民事による責任追及(民法第709条に
基づく損害賠償請求)

法人側と(元)従業員による協議

(元)従業員が実質的に無資力(横領した金銭を
使い込んでいた)、もしくは財産などを処分しても
全額は返済できない場合

示談書などを締結(清算条項を入れる)

不正・横領額のうち求償しない(できない)
額を確定させる

ここまで行ったうえではじめて、税務上の
貸倒損失の要件が揃ったことになります。
具体的には、法人税基本通達9-6-1(4)
の適用から貸倒損失を計上することになります。

以上から、不正が行われた時期=益金計上と、
示談書などの締結=貸倒損失の計上の時期が
大きく乖離する(数年の間隔があく)ケースが
ほとんどで、税務調査の実施時期(進行年度)で
貸倒損失が計上できる保証はありません。

また、そもそも論にはなりますが、上記は
従業員に対する考え方であり、オーナー会社の
代表取締役が行った不正・横領などは
損害賠償請求権が計上されず、不正額が
役員(認定)賞与になります。これは
被害者(法人)と加害者(オーナー)の
切り分けができないからです。

さらに、オーナー社長でない、いわゆる
雇われ社長が行った不正・横領についても、
役員賞与として課税された事例がありますので
併せて留意してください。

ここまで5回にわたって、法人における
「不正・横領の税務」を解説してきました。

税務調査をきっかけに社内不正・横領等が
発覚する事案も多く、法人・顧問税理士としては
調査官の指摘に納得できない場面も多いでしょう
(修正申告で益金が計上され、貸倒損失が
将来的な計上になる等)。

全連載を通して、社内不正・横領があった場合の
論理をしっかり理解しておいてください。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

著者情報

久保憂希也

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