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2016.09.09

不動産所得と事業的規模、青色事業専従者

※2015年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

さて、今回は「不動産所得と事業的規模、青色事業専従者」ですが、

昭和52年1月27日の裁決を取り上げます。

まず、青色事業専従者に関する条文を確認しておきましょう(所法57)。

青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と

生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で

専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条に

おいて「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載

されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の

支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額で

その労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の

種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが

支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価

として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に

係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は

山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の

当該年分の給与所得に係る収入金額とする。

ここで「専らその居住者の営む~事業に従事する」とあるため、

不動産所得の場合、これが問題になるケースがあります。

まず、不動産所得の状況は下記となっていました(単位:千円)。

                    
昭和47年分:3088(申告) → 3508(更正) 

昭和48年分:4085(申告) → 4785(更正) 

昭和49年分:2279(申告) → 2979(更正)

では、双方の主張、国税不服審判所の判断を見てみましょう。

○ 請求人の主張

原処分庁は、請求人の不動産貸付が不動産所得を生ずべき事業に該当しない

として、各年分の当該所得の金額の計算上、青色事業専従者給与の金額

昭和47年分420,000円、同48年分700,000円及び同49年分

700,000円の必要経費算入を否認しているが、次の理由により不当

であるから、各年分の原処分の全部の取消しを求める。

・請求人は、不動産所得について、昭和44年分から青色申告を行い、

母Aを青色事業専従者として所定の手続をした上、その給与の金額を

必要経費に算入したものである。

・請求人は、不動産収入(地代45件,家賃2件)を得るために、賃貸料の

算定、約定、更新等の折衝及び集金のほか、無断増改築、転貸、境界争い等の

問題の処理等、貸付不動産の維持、管理に必要な業務を常時行っており、

その業務は、単なる付随業務ではなく、主業としての事業である。

・請求人は、地方公務員であるため、母Aが上記の不動産業務のうち、

日常の業務を手伝っている。
 

○原処分庁の主張
     
各年分の原処分は、次の理由により正当である。

・不動産の貸付が、不動産所得を生ずべき事業として行われているか

どうかのうち建物の貸付については、所得税基本通達26-9(建物の

貸付が事業として行われているかどうかの判定)に、おおむね5棟以上の

貸付を事業とする旨定めているが、土地の貸付については、所得税基本通達

に定めがなく、また、地代収入は、いわゆる投資の回収である家賃収入とは

異なるものである。
      

・請求人の場合、建物の貸付は2棟であり、貸付土地の管理状況からみても、

不動産の貸付が事業として行われているものと認められない。

・請求人の不動産の貸付が不動産所得を生ずべき事業に該当しないと

認められるので、青色事業専従者給与の金額を必要経費に算入することは

認められない。

○国税不服審判所の判断

当庁において調査審理したところ、次のとおりである。

・請求人は、不動産所得を生ずべき業務に関し、昭和44年分以後の

確定申告書を青色の申告書により提出する承認を受けている。
     
また、請求人は、各年分の不動産貸付の業務につき、大蔵大臣の定める

いわゆる簡易帳簿の記帳方法に従い、現金出納帳、集金カード、収支集計表、

資産台帳及び雑費帳を備え付けて、不動産所得に係る取引を記録し、かつ、

保存した上、各年分の確定申告書(青色申告書)に「不動産所得の金額の

計算に関する明細書」を添付して、いずれも法定申告期限までに申告

している。

・請求人の不動産貸付が、所得税法第57条第1項に規定する不動産所得を

生ずべき事業に当るかどうかについては、その業務が社会通念上事業と

称するに至る程度の規模、すなわち、賃貸料の収入状況、貸付不動産の

管理状況等からみて、客観的に事業と認められる程度の規模かどうかに

よって判断するのが相当であるので、その実態について調査審理したところ、

次のとおりである。

(イ)貸付不動産である貸家2件及び貸地45件は、請求人の現住所と

離れたB県内のC、D、E、Fの4区に散在しているので、近隣地の

不動産貸付とは、その業態を異にすると認められる。

(ロ)当該不動産貸付の業務の内容をみると、次のとおりである。
     
貸付不動産の賃貸料については、その固定資産税、管理費、減価償却費等

所要の経費を償ってなお相当の利益が生じる程度の金額によって契約し、

固定資産税の評価額の改訂に伴い、賃貸料の値上交渉をして契約を改訂し、

また、大半の貸付先について継続的に賃貸料の集金をしているなどの

事実が認められる。

当該貸付不動産に係る名義書換及び契約更新の交渉、無断増改築及び

転貸等の問題の処理、不払賃貸料の回収等には、永年の経験と知識が

必要であると認められる。

請求人は、当該貸付不動産の維持、管理の状況を明らかにするため、

毎月収支明細表を作成した上、資金の収支を具体的に整然、かつ、明瞭に

記録して、財務的管理を行っている事実が認められる。

・以上の諸事実によれば、請求人の不動産貸付は、社会通念上、

不動産所得を生ずべき事業に当ると認めるのが相当である。

・青色事業専従者及び各年分の青色事業専従者給与の金額の適否について

審理したところ、Aは、請求人と生計を一にしており、不動産貸付につき、

30数年の経験に基づき、各年分とも年間を通じて、専らその業務に従事

しているので、同人は、青色事業専従者に当ると認められる。

・同人に対する給与の金額、昭和47年分420,000円、同48年分

700,000円及び同49年分700,000円は、いずれもG税務署長に

届出たところに基づいて支払われており、同人の労務に従事した期間、

労務の性質及びその提供の程度等に照らし、その労務の対価として過大

であるとする特別の事情が認められないので、各年分の当該給与の金額を

青色事業専従者給与の金額とするのが相当である。

・以上審理したところによれば、各年分の不動産所得の金額の計算上、

青色事業専従者給与の金額の必要経費算入を否認した原処分は、いずれも

相当とは認められない。

ということで、納税者の主張が認められました。

事業的規模か否かについては税務調査において争いになることもありますが、

完全に明確な基準がある訳ではなく、社会通念上の判断になります。

これは古い事案なので、現時点の判断においては物価指数なども考慮して

判断するべきですが、本事案を覚えておいて頂ければと思います。

なお、政府統計によれば、消費者物価指数(総合)は下記となっています。

○昭和48年:43.7

○平成26年:104.3

最後に、事業的規模については下記資料も参考になるので、ご参照下さい。

http://tokyo.zenkoku-data.net/justax/pdf/justax_001.pdf

https://www.fp-soken.or.jp/fpinfo/assets/news_pdf/H19.02.05.pdf(現在リンク切れです。)

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