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2016.10.27

守秘義務がある業種の調査範囲

私がよく聞かれる質問に、

「医者に対する税務調査で、カルテは質問検査権の
範囲・対象になるのですか?」

というものがあります。実はこの質問、
考え始めると難しい問題ではあるのですが、
回答の一端となるものが国税庁のサイトに載っています。

「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」

問8 調査対象となる納税者の方について、医師、弁護士のように
職業上の守秘義務が課されている場合や宗教法人のように
個人の信教に関する情報を保有している場合、業務上の秘密に
関する帳簿書類等の提示・提出を拒むことはできますか。

調査担当者は、調査について必要があると判断した場合には、
業務上の秘密に関する帳簿書類等であっても、納税者の方の
理解と協力の下、その承諾を得て、そのような帳簿書類等を
提示・提出いただく場合があります。いずれの場合においても、
調査のために必要な範囲でお願いしているものであり、
法令上認められた質問検査等の範囲に含まれるものです。
調査担当者には調査を通じて知った秘密を漏らしてはならない
義務が課されていますので、調査へのご協力をお願いします。

https://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm#a08

この書き方もまた微妙なニュアンスをはらんでいて、
「カルテがどんな場合でも見せなければならない」
とは書かれていないわけです。
(だからこそ「お願いベース」で書かれています)

ここで現実的な前提を伝えておきますが、
調査官は何も、個人名や病歴を知りたいわけではなく、
売上等がきちんと計上されているのか知りたいだけです。
(あくまでもカルテに限った話をしています)

ここが食い違うと、調査官も「質問検査権の範囲内だ」と
強く言うでしょうし、医師も「職業上の守秘義務が」
と反論するという泥仕合にしかなりません。

あくまでも、売上がきちんと計上されている
証拠を提示できればいいのであって、その方法論を
事前に考えておくのも、一つの対応方法でしょう。

さて、本論に戻りますが、カルテが質問検査権の
範囲内かどうか、判決を読むと「範囲内」と
結論付けているものがほとんどになります。

例えば、「平成元年9月14日東京地裁」
「平成2年7月19日最高裁判所第一小法廷」など。

その一方で、「税務調査と質問検査権法の知識Q&A」
(新版 安部和彦著 清文社)280ページ~には

「調査官は最初に納税者が用意した会計帳簿を
十分検査し、そこで生じた疑問をまず納税者ないし
立会いの税理士にぶつけてその解明に努める必要がある。
仮にそれで解明されない場合(たとえば、調査官と
医師や事務長とのやり取りで、カルテに収入や支出に
関する事項が記載されていることを把握した場合など)
には、カルテ開示することもやむを得ないであろう。」

「このようなプロセスを経ることなく、単に
過去の判例でカルテの検査が認められることのみを
盾にとって、調査官から一足飛びにカルテの開示を
要求されるような場合には、その判断に合理性がない
もしくは薄弱であるとして、提示を拒否することも
やむを得ないものと考えられる。」

と書かれています。これは私の意見とまったく同じで、
「叩けばホコリが出るだろう」は質問検査権の
範囲ではなく、一連の流れによる必然性があるからこそ、
(カルテだけではなく)提示・提出する必要性が
あるというのが質問検査権の正しい理解になります。

質問検査権の範囲については、調査官(税務署)は
広く解釈する向きが強いですが、正しく
法的理解をしていただきたいと思います。

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