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2018.08.02

売上原価、製造原価に短期前払費用の適用はあるのか?

※2017年12月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「売上原価、製造原価に短期前払費用の適用はあるのか?」

ですが、長崎地裁(平成12年1月25日)ほかを取り上げます。

中小企業においては、決算前に短期前払費用を活用することも多いですが、

本社の家賃などの販管費に該当するものであれば、金額等につき、

重要性が乏しければ、支払った期の損金の額に算入されます。

これが売上原価、製造原価に該当するものであっても、

同様の考え方でいいのでしょうか?

短期前払費用を定めた法基通2−2−14の(注)書きには

「例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合の

その借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要が

あるものについては、後段の取扱いの適用はないものとする。」

とあり、費用収益対応の原則の範疇にあるものは、この対象外と

されています。

これについて、判断されたのが、長崎地裁(平成12年1月25日)です。

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企業会計上、右の売上原価等については、収益と個別的に対応させる、

いわゆる費用収益対応の原則がとられ、右原則によって帰属事業年度が

決定されている。

右のような会計処理は、公正処理基準にあたるものと解され、

これを参酌すると、法人税法22条3項1号は、売上原価等については、

当該事業年度の収益と個別に対応するものだけを当該事業年度の

損金の額に算入することとしているものと解される。
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この控訴審の福岡高裁(平成12年12月15日)では上記に加え、

下記とされています。

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売上原価等は収益と個別に対応するものとされており、本件傭船料が

売上原価等を構成する以上、費用と収益を個別に対応させるべきである。

そして、本件傭船料については、一定期間の収益に対応する原価として

その額を明確に算出できるものであるところ、控訴人は収益を

平成8年6月1日から同月30日までの1か月分しか計上していない

のであるから、傭船料についてもそれに対応する1か月分を

損金の額に算入するのは当然というべきである。
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このように、売上原価等についての短期前払費用の適用を

否定的に判断しています。

一方で法人税基本通達の抜本的改訂に関与された渡辺淑夫先生※が書かれた

「税法における短期の前払費用の取扱いをめぐる一考察」の中には

下記と解説されています。

※ 青山学院大学名誉教授。国税庁審理課課長補佐、同法人税課課長補佐、

東京国税局調査部国際調査課長、同調査審理課長、同直税部訟務官室長、

東京国税不服審判所第三部長、芝税務署長等を歴任

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本通達の適用される短期の前払費用は、必ずしも販売費

又は一般管理費等として期間費用処理されるものに限られない。

その費用が製品の製造に直接関連するものであるため、

製造原価に算入されるものである場合にも、本通達の適用があるものと

解してよい。

ただし、この場合でも、その損金算入により単純に期間費用として

原価外処理してよいということではなく、その損金算入ベースにより

原価要素が発生したものとして製造費用に含める必要があるのである。
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この趣旨までは分かりませんが、通達を作った本人の意見であり、

国税内部としては、このような運用がなされているのかもしれません。

ちなみに、上記長崎地裁の事例は金額的な面からも重要性が乏しくないと

判断された事例でもあります。

いずれにせよ、売上原価等に該当する費用に関して

短期前払費用の適用をすることは金額の多寡に関わらず、

一定のリスクがあることは確実なので、覚えておいてください。

このメルマガ(見田村担当)は本日が年内最後です。

1年間お読み頂き、ありがとうございました。

来年もより良い情報を発信できるよう、研究しますので、

是非、お読み頂ければと思います。

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