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2016.06.03

その家族名義の預金は相続財産?

※2015年1月配信当時の記事であり、

以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

今回は「その家族名義の預金は相続財産?」ですが、平成25年12月10日の裁決を取り上げます。

相続税の税務調査において、名義預金が問題になることはよくありまが、本件は納税者の主張が認められた事例です(重加算税も取り消し)。

貴重な事例ですので、裁決文をできるだけ省略せずに記載しますので、流れを考えながら、お読みください。

まずは、本件の概要です。

○審査請求人はH(配偶者)、F(子)、J(養子、Fの妻)

○問題になったのはF、J、FJ夫婦の子3名MNP(以下、「孫ら」という) の名義の預貯金等

○本件申告書の作成を担当したL税理士は、この預貯金等について、 平成10年末から本件相続開始日までの間の金額の移動状況等を記載した表形式の資料を本件調査担当職員に提出した(以下、「本件提出資料」という。)。

○本件提出資料には、「内K分」及び「外資金融通分」と題する欄が設けられており、それぞれの合計欄には、45,057,670及び57,940,042と記載されている。

では、本件の認定事実です。

○本件被相続人、請求人ら及び孫ら名義の預貯金等で使用している印鑑として確認できるものは全部で10種類であった。

○本件各印鑑のうち、1本は、本件被相続人名義の預貯金に使用されている印鑑であった(以下、この印鑑を「被相続人印」という。)。

○本件各印鑑のうち、2本は、H名義の預貯金に使用されている印鑑である(以下、この2本の印鑑をまとめて「H印」という。)。

○本件各印鑑のうち、被相続人印及びH印以外の印鑑は、請求人夫婦及び孫ら名義の預貯金にそれぞれ使用されている印鑑である。

○本件預貯金等の一部は、設定時に被相続人印を届出印として登録していたが被相続人名義を除き、基本的に平成13年までに被相続人印以外の印鑑に改印された。なお、本件M名義貯金が設定された当時、当該貯金の届出印には被相続人印が使われていたが、平成13年1月4日に、被相続人印からMが使用している印鑑に改印された。

○請求人らが証券会社に提出した相続に係る依頼書(委任状)兼念書及び遺産分割協議書の筆跡をみると、請求人らの筆跡にはそれぞれ特徴があり、これらの書類の筆跡と、印鑑届の筆跡とを比較すると次の事実が認められる。

・平成17年5月にHが○○で入院する前まで専らHが使用していたと認められる印鑑は被相続人印とH印であった。なお、平成17年にHが○○で入院した後は、被相続人印及びH印も請求人夫婦が使用している。

・被相続人印及びH印以外の本件各印鑑は、請求人夫婦が使用していた。なお、一部で各名義人の筆跡と思われるものもあった。

○Hについては、収入は基礎年金であったが、昭和56年時点において約7,400,000円の資金があった。

では、あてはめ及び国税不服審判所の判断です。

○一般的に外観と実質は一致するのが通常であるから、財産の名義人がその所有者であり、その理は預貯金等についても妥当する。

○しかしながら、預貯金等は、現金化や別の名義の預貯金等への預け替えが容易にでき、また、家族名義を使用することはよく見られることであるから、その名義と実際の帰属とがそごする場合も少なくない。そうすると、預貯金等については、単に名義のみならず、その管理・運用状況や、その原資となった金員の出捐者、贈与の事実の有無等を総合的に勘案してその帰属を判断するのが相当である。

○原処分庁の主張について
 
 原処分庁は、本件提出資料は、請求人らが家族名義の預貯金等について検討した結果に基づき、「内K分」及び「外資金融通分」として記載した金額の合計額が本件相続に係る相続財産であることを原処分庁に示したものであるとして、本件提出資料に基づき、本件家族名義預貯金等の出捐者は本件被相続人である旨、また、請求人夫婦がL税理士に本件H名義預貯金の出捐者が本件被相続人であると伝えたことから、本件預貯金等は本件被相続人の財産である旨主張する。

しかしながら、原処分庁は、本件預貯金等の管理状況については、単にHが平成17年まで管理していたと主張するのみで、使用印鑑の状況や保管場所など管理状況について何ら具体的に主張も立証も行わず、また、その出捐者については、本件相続開始日前3年間の本件被相続人の収入が多額であること、及び本件預貯金等の出捐が本件給与振込口座と直接的な関係がないことを挙げるのみで、求釈明に対しても、新たな主張はないとして具体的な出捐の状況については何ら主張立証をしていない。さらに、本件被相続人から請求人ら及び孫らに対する贈与の有無についても、請求人夫婦が平成18年に贈与を受けた際には贈与税の申告を行っており、その他に贈与税の申告がなかったのは贈与がなかったからにほかならない旨主張するのみであり、到底承伏できるような主張ではない。そして、請求人らは、本件提出資料が本件相続に係る相続財産を示したものであること及び本件H名義預貯金が本件被相続人の財産であることを認めた事実はない旨主張し、L税理士も当審判所に対し、当該主張に沿う答述をしており、特段、その答述の信用性を疑わせるような事情もないことからすると、請求人夫婦が当該各事実を認めたことを前提とした原処分庁の主張には理由がなく、このことから本件預貯金等が相続財産であったと認めることはできない。

 なお、原処分庁は、本件M名義貯金については、設定時の印鑑が被相続人印で、設定当時Mは4歳であることから、出捐者は本件被相続人となる旨、個別に主張するが、請求人らは、出捐者はJであると主張しているところ、当審判所の調査によってもその出捐者が被相続人であるとは認めることができない上、届出印も平成13年にMが使用している印鑑に改印され、以後の管理は請求人夫婦が行っていると認められることから、これらのことを総合的に判断すれば、本件M名義貯金についても相続財産に該当すると認めることはできない。

○審判所による検討

 当審判所の調査の結果によっても、次のとおり、本件預貯金等が相続財産に該当すると認めることはできない。

・管理・運用状況について
 
 まず、本件預貯金等の管理・運用の状況についてみると、平成17年にHが○○で入院した後は、請求人夫婦がその管理・運用を行っていたと認められるところ、それ以前の状況については、本件被相続人名義の預貯金及びH印を届出印とするH名義の預貯金は、Hが管理・運用し、一方本件家族名義預貯金等は被相続人印及びH印以外の印鑑を使って請求人夫婦及び孫らが管理・運用していたものと認められる。

・出捐者及び贈与の事実の有無について
 
 次に、本件預貯金等の出捐者についてみると、原処分庁は平成16年まで遡って金融機関を調査し、当審判所もそれに基づいて調査を行ったが、当審判所は、個々の預貯金等の出捐者が誰であるのかを認定することはできなかった。また、贈与の事実の有無についてみても、請求人らは、資料を提出して贈与の事実があった旨を主張し、他方で、原処分庁は、請求人夫婦が贈与税の申告をしていないことをもって、贈与がなかった旨を主張するが、請求人らが提出した資料や原処分関係資料を調査しても、当審判所は、被相続人から請求人らに対して贈与がなかったと認めるには至らなかった。また、本件H名義預貯金については、本件被相続人が出捐者とまでは認められない。

○本件預貯金等の管理・運用の状況、原資となった金員の出捐者及び贈与の事実の有無等を総合的に勘案しても、本件預貯金等がいずれに帰属するのかが明らかではなく、ひいては、本件預貯金等が被相続人に帰属する、すなわち、相続財産に該当すると認めることはできない。

結果、更正処分は全部取消しとなり、重加算税の賦課決定も取り消されたのです。

いかがでしょうか?

名義預金はよく問題になるテーマですので、この事例をよく覚えておいて頂ければと思います。

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