一筆をどう断るか?
※2015年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社InspireConsultingの久保憂希也です。
セミナー後の懇親会では
税理士から質問・相談を受け付けていますが
その中で多いのは「調査官が作成する質問応答記録書を
断るいい方法がないか?」という質問です。
調査手続きが詳細に規定され、調査官も以前のように
簡単に事実認定できなくなりました。そこで全国の税務書に
フォーマットとして導入されたのが「質問応答記録書」。
(以前は確認書・申述書など呼称はバラバラでした)
税務調査の現場では、特に重加算税の賦課や、
法人経費に個人的支出を紛れ込ませていた、など、
本人の「自供」を証拠として取りたい場合などに
調査官が求めてくるのが「質問応答記録書」なのです。
そんな書面に署名・捺印など誰もしたくないのでしょうが、
調査官が要請してくるくらいですから、無下に断るにも
角が立ちそうで・・・という税理士もいます。
まず認識してもらいたいのは、「質問応答記録書」に
署名・捺印して納税者が得することなど1つもないという事実です。
この書面内容の如何にかかわらず、です。
調査官が書面を求めてくるというのは、むしろ
「書面がなければ課税できない」と考えるべきです。
さて、この書面への署名・捺印をどのようにして断るか?
もっとも簡単な方法は、下記の資料を印刷して見せることです。
「質問応答記録書作成の手引について(情報)」
国税庁 課税総括課情報 第3号 平成25年6月26日
http://kachiel.jp/sharefile/140306mailmagazine_EX_21140428.pdf
この35ページ・問15にはこのように記載されています。
「回答者が署名押印を拒否した場合は、どのようにすればよいのか」
(答)
読み上げ・提示の後、回答者から回答内容に誤りがないことを
確認した上で、その旨を証するため、末尾に「回答者」と
表記した右横のスペースに回答者の署名押印を求めることとなるが、
署名押印は回答者の任意で行うべきものであり、これを
強要していると受け止められないよう留意する。
したがって、回答者が署名押印を拒否した場合には、
署名押印欄を予定していた箇所を空欄のまま置いておき、
奥書で、回答者が署名押印を拒否した旨(本人が拒否理由を
述べる場合にはそれも附記する)を記載し、また、回答者が
署名押印を拒否したものの、記載内容に誤りがないことを
認めた場合にはその旨を記載する。
ここに明記されている通り、調査官から「質問応答記録書」に
署名押印を求められても「断ることができる」のです。
国税には数えきれないほどの(内部)通達がありますが、
これらは調査官が「守らなければならない」ルールです。
調査官が「参考にする」ものではありません。
上記もその1つということです。
なお、もうちょっと詳しく書いておくと、
法定書類でないものを税務署が提出依頼する行為は
「行政指導」に該当することになります。
行政指導には下記の一般原則が存在します。
行政手続法第32条第2項
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかった
ことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。
これを「質問応答記録書」に置き直すと、
「調査官は、納税者が質問応答記録書の提出を断った
からといって、不利益な取扱いをしてはならない。」
となります。
最近ますます、調査現場で一筆を求められることが
多くなっていますが、上記の対応は絶対に知っておき、
調査官に明確な根拠をもって、署名・捺印は
しないことを主張すべきです。
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