2015.02.25

一筆入れることの意味

今回のテーマは、『一筆入れることの意味』です。

私がお話しするセミナーでは、調査官にどんなことを言われても
「一筆入れないでください」と言い続けています。
それでも、税務調査で一筆入れてしまった後に
相談に来る案件が多いことには驚くばかりです。

「一筆入れる」とは、一般的に「申述書(しんじゅつしょ・もうしのべしょ)」
「申立書(もうしたてしょ)」などと呼ばれているものですが、
呼び方は何でも構いません。要は、納税者が自らの非を認める文書に
サインする行為を「一筆入れる」としています。

先日相談がありました案件では、
取締役である代表取締役の妻が、勤務実態がないという内容の
申述書に本人がサインしており、もう反論の余地がなく、
役員報酬が全額否認されてしまいました。
1800万円/年×7年分の損金否認で、認定賞与扱い、
さらに源泉に重加算税が課されたのですから、すごい金額です。

また、昨年秋に相談を受けた案件では、
接待交際費の全部を個人的に費消したという内容にサインしており、
もう反論の余地がありませんでした。

事実は、接待交際費の「一部」を本当に(個人的な)遊興費にしていたのですが、それを「全額」だと調査官に押し切られたのです。

なぜこのようなことが起こるのかというと、接待交際費の一部だけ
個人的な費消だとなると、どの支出が事業に関連していて、
どれがそうではないのかを、調査官がイチイチ調べなければならないので、そんな面倒を避けるためには、全額否認に持ち込んでくるのです。

ほとんどの申述書は、調査官が作文してきます。
もちろん、調査官が書いてくる内容は、納税者が話した内容が
ベースなのですが、その中にはニュアンスが違っているケースもあります。

少し誇張された内容であってもサインしてしまえば、
それだけで「納税者自身が認めた事実」になるのです。
「一筆入れる」=「納税者の自供」です。

また税理士がいないところで、納税者が調査官にサインをさせられており、それを証拠に重加算税が課されたケースもあります。
この案件は、納税者(税理士)が重加算税の取消を不服申立てしていますが、一筆入れている以上、取消が認められる可能性が低いでしょう。

一筆入れたのは、調査官が強要してきたからであって、
納税者の「錯誤」ということになれば、民法の規定に則って無効になりますが、
それを証明することは、録音でもしていない限り非常に難しいと言えます。

「一筆入れてください」と言い始めたということは、
調査官に「強い証拠がない」ということの証左です。
証拠が確実にあるなら、わざわざ「一筆入れてください」とは
調査官もお願いしてこないわけです。

調査官が「一筆入れてください」と言ったら、
納税者側としては、「なるほど、証拠が足りないのか」
と思って、こちらが有利だと考えなければなりません。
一筆入れなければ、こちらが有利なので、
交渉もある程度強気で臨んでもいいでしょう。

ここでは、申述書の内容が合ってるか間違っているかは問題にしていません。私が言っているのは、内容が合ってても間違っていても
納税者に不利になる申述書に絶対にサインしないことです。
一筆入れることで納税者が得することなど全くないのですから。

 

※2011年8月当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんので
ご注意ください。

また、ブログの内容等に関する質問は、
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

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