不正・横領の税務/第2回:益金の計上時期がズレるケース
※2021年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガでは、社内で不正・横領が
発覚した場合の税務処理については【原則として】、
不正・横領が行われた時期に遡及して、
「横領損失」と同時に「損害賠償請求権」に該当する
益金が計上されるとする考え方を解説しました。
これは一般的に「同時両建説」と呼ばれるわけですが、
この考え方によった場合、少なくとも過去に
益金が生じることから修正申告が必要となり、
法人としては納得しがたい結論に至ってしまいがちです。
一方で、横領損失が過去に計上されたうえで、
損害賠償請求(額)が確定もしくは支払いを受けた
期の益金に計上するという考え方も存在します。
つまり、損金は過去遡及であって、益金は
後の計上になるという納得しやすい論理です。
役員・社員(社内)による不正・横領の場合は
原則として同時両建説が原則となるのですが、
取引先など他者による不正の場合、
下記の通達の適用を受けることができます。
法人税法基本通達2ー1ー43
(損害賠償金等の帰属の時期)
他の者から支払を受ける損害賠償金の額は、
その支払を受けるべきことが確定した日の属する
事業年度の益金の額に算入するのであるが、
法人がその損害賠償金の額について実際に
支払を受けた日の属する事業年度の益金の額に
算入している場合には、これを認める。
ですから、不正があった場合は社内不正なのか、
もしくは外部の者による不正なのかによって
税務処理が大きく異なるということです。
繰り返しますが、上記の通達はあくまでも
「他の者」からの損害賠償金であって、
退職した者も含めて役員・社員による不正・横領
には適用になりませんので注意してください。
また、先週のメルマガから社内不正の場合は
「原則として」同時両建説と解説してきましたが、
その例外として「異時両建説」も存在します。
この考え方は上記の「他の者」(外部)による
不正と同じで、損害賠償金が確定した期で
益金を認識・計上するものです。
ただし、この論点も判例ではすでに整理されており、
「例えば加害者を知ることが困難であるとか、
権利内容を把握することが困難なため、直ちには
権利行使(権利の実現)を期待することができない
ような場合」には異時両建説を適用できるものの、
原則としては同時両建説とされています。
最高裁平成21年7月10日決定
東京高裁平成21年2月18日判決
(Z259-11144)
「本件のような従業員が架空外注費を計上して
会社の金員を詐取した事例の不法行為による
損害賠償請求権については、通常、損失が発生した時
には損害賠償請求権も発生、確定しているから、
これらを同時に損金と益金とに計上するのが原則である
と考えられる(不法行為による損失の発生と
損害賠償請求権の発生,確定はいわば表裏の関係にある
といえるのである。)。もっとも、本件のような
不法行為による損害賠償請求権については、例えば
加害者を知ることが困難であるとか、権利内容を
把握することが困難なため,直ちには権利行使
(権利の実現)を期待することができないような場合が
あり得るところである。このような場合には、権利
(損害賠償請求権)が法的には発生しているといえるが、
未だ権利実現の可能性を客観的に認識することができる
とはいえないといえるから、当該事業年度の益金に
計上すべきであるとはいえないというべきである。
この判決内容を簡単に表すと、
「従業員が行った不正・横領であれば、
社内で確認・チェックをするなどしていれば
気付くことはできたはず」なので、異時両建説
ではなく同時両建説としているものです。
ですから、社内不正によるケースでは、
原則として同時両建説となるのであって、
異時両建説が適用される範囲は極端に狭いはずです。
なお、この論点について深く学びたい方は
下記の論文を読むことをお勧めします。
「不法行為に係る損害賠償金等の帰属の時期
-法人の役員等による横領等を中心に-」
従業員による社内不正と一言でいっても、
その範囲はある程度広いかと思いますが、
来週水曜の本メルマガでは従業員が(会社に内緒で)
受け取っていたリベート・キックバックを取り上げます。
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【久保憂希也執筆の場合】
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