事前通知の内容から調査範囲を拡大する場合の規定
※2021年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
毎週金曜の本メルマガでは、税務調査を体系的に理解する
内容を連載で解説していますが、前回は無予告調査でも
事前通知がされる旨を取り上げました。今回は、
実地調査を受けた過程において、いったんなされた
事前通知の内容から調査範囲が拡大される要件を解説します。
なお、調査対象期間が延伸される要件については、
今年6月4日に配信した本メルマガ
「税務調査の対象期間は何年なのか?(期間の延伸)」
で解説しましたので、今回は全般的に解説します。
まず理解していただきたいのは、事前通知の効力です。
事前通知を法律規定し、その項目まで細部にわたり
規定している以上、なされた事前通知の内容は
(いったんは)その税務調査を拘束することになります。
例えば、調査の相手方が「法人」とされれば、
代表者など個人は調査対象になりませんし、
事前通知で「3年」と言われれば
調査で準備・提示する帳簿書類は3年分になります。
一方で、事前通知の内容から調査範囲を拡大する
要件については別途の法律規定があります。
なお、下記条文の「第1項」とは事前通知です。
国税通則法第74条の9第4項
第1項の規定は、当該職員が、当該調査により
当該調査に係る同項第3号から第6号までに掲げる
事項以外の事項について非違が疑われることとなつた
場合において、当該事項に関し質問検査等を行うことを
妨げるものではない。この場合において、同項の規定は、
当該事項に関する質問検査等については、適用しない。
続けて、事務運営指針の規定も確認しましょう。
「調査手続の実施に当たっての基本的な
考え方等について(事務運営指針)」
第2章 3(2)通知事項以外の事項についての調査
納税義務者に対する実地の調査において、納税義務者に
対し、通知した事項(上記2(3)注2に規定する場合に
おける通知事項を含む。)以外の事項について非違が
疑われた場合には、納税義務者に対し調査対象に
追加する税目、期間等を説明し理解と協力を得た上で、
調査対象に追加する事項についての質問検査等を行う。
さらに、国税の内規を挙げておきます。
「税務調査手続等に関するFAQ」
(職員用 共通 平成24年11月 国税庁課税総括課)
問1-56
事前通知した調査対象期間以外の課税期間につき、
質問検査等を行う場合とは、具体的にどのような場合をいうのか
(答)
事前通知した調査対象期間を調査している過程で非違を
把握し、その非違が認められる取引先との取引が
調査対象期間よりも前の課税期間にも存在するなど、
調査対象期間よりも前の課税期間にも同様の非違が
疑われる場合などが該当します。
このように、事前通知の内容から調査の範囲を
拡大できるための要件は、【調査対象期間よりも
前の課税期間にも同様の非違が疑われる場合】です。
だからこそ、前回のメルマガでもあったように、
無予告調査であっても事前通知の内容を把握し、
(いったんではあっても)調査の範囲を
確定させる必要があるわけです(なし崩し的に
調査範囲を拡大させないため)。
なお、上記とよく勘違い・混同される論点として、
事前通知の調査対象期間外の帳簿等を
求められる行為に対する適正性があります。
過年度分や進行年度の帳簿等については、
あくまでも調査対象期間の調査に必要があれば
認められる(応じなければならない)ことが
下記の通達で定められています。
「国税通則法第7章の2(国税の調査)等関係通達
の制定について(法令解釈通達)」
5-5(「調査の対象となる期間」として事前通知した
課税期間以外の課税期間に係る「帳簿書類その他の物件」)
これは例えば、
●調査対象期間の減価償却費を確認するために、
固定資産取得時の帳簿・原資を見る必要がある
●直前期の期末に計上されている経費について
支払いが行われているかを確認するために
進行期の通帳を見る必要がある
などのケースは、あくまでも調査の範囲を拡大
しているわけではない、という理解になります。
また、調査範囲を拡大する(される)場合、
その行為に対して納得できなくとも不服申立てが
できるわけではありませんので注意してください。
来週金曜の本メルマガでは論点を無予告調査に戻し、
調査官に対して無予告調査の理由を問う
重要性について解説します。
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