事実認定は納税者に有利
税務調査において問題になるのは2パターンに分けることができ、
1つは「税法の解釈」で、もう1つは「事実認定」です。
※この切り分けは非常に大事ですので混同しないでください
例えば、社長の妻が役員になっていたときの役員報酬において、
「勤務実態がない」として過大役員報酬だと否認指摘されるのは、
これは税法論ではなく、事実認定の問題になるわけです。
このような「事実認定」については、
「疑わしきは納税者の利益に」という原則があります。
つまり、調査官が調べてみたのだが、
否認できるだけの根拠が明確にはない場合、刑事事件と同じで
「疑わしいだけでは否認できない」という原理・原則なのです。
例えば、昭和62年1月22日新潟地裁判決において、
納税者はこのように主張しました。
「被告会社は、T興産に対し、白根市所在の土地売買につき、
昭和57年10月ころ1800万円の裏金を支払っており、
これは昭和57年度の経費として認められるべきである」
しかし、裏金の支払いを証拠づける領収書等が存在しないうえ、
受け取ったとされるT興産の代表S等はそれぞれ証人として、
裏金の受取り事実を否定する供述をしていました。
この点をかんがみて、裁判所はこのように述べています。
「被告人は格段に具体的かつ詳細な供述をなしていて
内容的に不自然・不合理な点も見当たらない」
さらに、S等の「供述にあいまいな部分や不自然な部分がみられ、
この点を左右するに足る証拠も見当たらない」としたうえで、
「そこで、「疑わしきは被告人側の利益に」の原則に従って、
1800万円の裏金支払いの事実はこれを認めることとする」
として、事実が曖昧なときは
納税者側に有利なように判断するとしました。
この事実(原則)は、私は税務大学校で教えられました。
おそらくは、金子宏先生の影響が大きいものと思います。
「租税法(17版)」(弘文堂)133ページにおいて、
金子宏先生はこう書かれています。
「租税法は侵害法規であるから、刑事法の領域で、
犯罪構成要件事実の認定について、「疑わしきは被告人の利益に」
という原則が妥当するのと同様に、課税要件事実の認定については、
「疑わしきは納税者の利益に」という原則が妥当する
と考えてよいであろう」
ここで、いったん整理です。
税務調査における否認指摘の内容が「事実認定」に
関するものであれば、税務署側が何か確定的な証拠を
持ち出してその根拠を明示しない限り、
「疑わしきは納税者の利益に」という原則が
適用になるということです。
これは、税法の解釈論ではありません。
税法がどちらにも解釈できる場合であっても、
納税者有利に解釈できるというわけではありません。
この点、最高裁平成24年1月13日第二小法廷判決では、
「「疑わしきは納税者の利益に」との命題は、
課税要件事実の認定について妥当し得るであろうが、
租税法の解釈原理に関するものではない」
としています。
先日相談があった事例では、調査官が領収書を見て、
土日の飲食と、自宅近くの店に関する交際費を、
「社長個人の支出として」認定賞与と言ってきました。
この否認指摘は、何の根拠(証拠)もありません。
あくまでも調査官の推測に過ぎないのです。
税務調査において、確証がない事実が出てきた場合、
調査官はそれでも否認しようとしますが、
上記の原則から間違っていることを反論すべきなのです。
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