事業用資産の買換えと重加算税
さて、今回は「事業用資産の買換えと重加算税」です。
たとえば、下記条件の税務調査に立ち会い、
調査官から「重加算税です」と指摘されたら、どうしますか?
○ 個人の不動産譲渡(事業用資産の買換えを適用)の調査
○ 平成9年3月に土地の売買契約の締結
→ 平成8年10月に売買に関する協議、意思表示あり
○ 平成8年10月から平成9年9月までの土地の賃貸借契約あり
→ 契約締結は平成8年10月、月額5万円
→ 土地の賃借人A社は平成9年7月に破産
→ A社がこの土地の購入者B社を売主に紹介
○ 事業用資産の買換えを否認され、重加算税となった
さて、この重加算税はどうなるのでしょうか?
本題の前に該当条文、通達を確認しておきましょう。
○ 租税特別措置法37条(一部省略します)
(特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例)
個人がその有する資産で次の表の各号の上欄に掲げるもののうち
事業(事業に準ずるものとして政令で定めるものを含む)の用に
供しているものの譲渡(以下、略)
○ 租税特別措置法施行令25条2項
(特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例)
法第三十七条第一項に規定する事業に準ずるものとして政令で定めるものは、
事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為で
相当の対価を得て継続的に行うものとする。
○ 租税特別措置法通達37-3
(事業に準ずるものの範囲)
措置法第37条第1項に規定する「事業に準ずるもの」とは、措置法令第25条
第2項の規定により事業と称するに至らない不動産又は船舶の貸付けその他
これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいうのであるが、
その判定については、次の点に留意する。
(1)「不動産又は船舶の貸付けその他これに類する行為」とは、
措置法第37条第1項の表の各号に掲げる資産の賃貸その他その使用に関する
権利の設定(以下この項において「貸付け等」という。)の行為をいう。
(2)「相当の対価を得て継続的に行う」とは、相当の所得を得る目的で
継続的に対価を得て貸付け等の行為を行うことをいう。この場合には、
次のことに留意する。
イ 相当の所得を得る目的で継続的に対価を得ているかどうかについては、
次による。
(イ)相当の対価については、その貸付け等の用に供している資産の
減価償却費の額(当該資産の取得につき措置法第37条第1項(同条第3項及び
第4項において準用する場合を含む。)の規定の適用を受けているときは、
措置法第37条の3第1項の規定により計算した取得価額を基として計算した
減価償却費の額)、固定資産税その他の必要経費を回収した後において、
なお相当の利益が生ずるような対価を得ているかどうかにより判定する。
(ロ)その貸付け等をした際にその対価を一時に受け、その後一切対価を
受けない場合には、継続的に対価を得ていることに該当しない。
(ハ)その貸付け等をした際に一時金を受け、かつ、継続的に対価を
得ている場合には、一時金の額と継続的に受けるべき対価の額とを
総合して(イ)の相当の対価であるかどうかを判定する。
ロ 継続的に貸付け等の行為を行っているかどうかについては、原則として、
その貸付け等に係る契約の効力の発生した時の現況においてその貸付け等が
相当期間継続して行われることが予定されているかどうかによる。
この前提の中、国税不服審判所は下記と判断しました。
○ 平成8年10月に譲渡の意思表示があるから、この賃貸借契約は
一時的なものであり、「相当の対価を得て継続的に行なう事業に準ずる
もの」には該当せず、事業用資産の買換えは適用できない
○ A社との賃貸借契約は一時的なものなのではあるが、原処分庁の
言うような事業用資産の買換えの適用を受けるために、
実態が無いにも関わらず賃貸借を仮装したものとはいえない。
(過少申告加算税の対象であって、重加算税の対象ではない。)
いかがでしょうか?
当然ですが、重加算税である以上は「隠ぺい」や「仮装」であることは
絶対条件です。
しかし、これらの事実が無いにも関わらず、調査官は「重加算税です」
と指摘してきます。
あくまでも重加算税は「隠ぺい」や「仮装」の事実があるときに課され、
そして、これらの立証責任は課税庁側にあります。
ちなみに、平成9年12月9日の裁決でも「原処分庁の主張は、請求人が
意識的な過少申告を行ったものであるというにすぎず、隠ぺい又は仮装
であると評価すべき行為の存在について何らの主張及び立証をしておらず、
また、当審判所の調査その他本件に関する全資料をもってしても、
本件貸付金について隠ぺい又は仮装の事実を認めることはできない。」
としています。
税務調査の現場では何の立証もないままに「重加算税です」と
言われることが「よく」ありますが、それは間違っているのです。
私が他の税理士から相談を受けた事案でも、ある裁決を見せたら、
調査官がすぐに重加算税を引っ込めたというものもあります。
もし、立ち会った税務調査で「重加算税です」
と言われたら、必ず類似事例で納税者が勝った裁決、判決を探し、
抗弁書を作成してみてください。
ちなみに、法人への税務調査では5社に1社が重加算税を課されていますが、
これはいくらなんでも多すぎる数字で、類似事例を調べて抗弁書を書けば、
相当な数の重加算税が回避できることでしょう。
(見田村 元宣)
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2013年6月当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。