2016.12.08

仕入税額控除の要件

※2016年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「仕入税額控除の要件」ですが、

平成15年6月26日の裁決をご紹介します。

この事例は

〇請求人は資源再生業を営む者(個人事業主)

〇税務調査中に請求人が提示した資料は消費税法第30条第7項の要件を

 充たしていない。

〇他の資料により、課税仕入れに係る支払対価の額を合理的に推認できる。

〇仕入税額控除が認められるか?否か?が争点

というものです。

では、まずは認定事実です。

〇調査担当者は、平成13年10月12日から平成14年2月28日の間、再三にわたり、

請求人に対して直接又は関与税理士等を介して、帳簿及び請求書等の提示を

求めるとともに、帳簿及び請求書等の提示がない場合には仕入税額控除が

できない旨説明した。

〇請求人が、本件調査の終了までの過程において、仕入税額を証明するもの

として調査担当者に提示した資料(以下「本件提示資料」という。)及び

その記載内容は、下記別表のとおりである。

http://www.kfs.go.jp/service/JP/65/56/03.html

〇別表の〔1〕欄の仕切書は、請求人が作成した書類であるが帳簿ではなく、

仕入れの際に複写で2部作成され、その1部が仕入れの相手方に交付される

仕入計算書のようなものであるが、その記載された内容につき、課税仕入れの

相手方の確認を受けたものではない。

〇別表の〔2〕欄ないし〔6〕欄の資料は、いずれも本件調査の開始後に、

請求人が自己の取引先から取り寄せたものである。

〇平成14年2月22日、請求人及び同人の妻が本件提示資料の一部を提示する

ためにM税務署に赴いた際、調査担当者が、請求人に対し、これ以外に

帳簿書類はないのかと質問したところ、請求人は「もうない」と申述した。

そして、国税不服審判所の判断です。

〇事業者が当該課税期間の仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を保存

しない場合には、当該保存がない仕入税額については仕入税額控除を適用

しないこととされているところ、消費税法第30条第7項の規定は、仕入税額の

証明手段を法定の帳簿及び請求書等に限定していると解するのが相当である

から、他の証拠資料によって課税仕入れに係る支払対価の額を合理的に

推認できる場合であっても、仕入税額を控除することは認められない。

また、仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等の保存年限、保存場所を厳格に

制約しているのは、適法な税務調査がなされる際、調査担当職員から要請が

あれば、速やかに帳簿及び請求書等が提示され、これに基づき課税庁に

おいて仕入税額が算出、確認され得ることを予定し、かかる帳簿及び

請求書等が所定の年限、場所に保存されていない場合には、仕入税額を

控除しないこととする趣旨と解される。

〇仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等の保存の有無について
 
これを本件についてみると、調査担当者の帳簿及び請求書等の提示要求に対し、

請求人は、本件提示資料を提示したが、別表の〔1〕欄の仕切書は、帳簿では

なく仕入計算書のような書類であるものの消費税法第30条第9項第2号

かっこ書に規定される「課税仕入れの相手方の確認を受けたもの」との条件を

満たさないから、同条第7項に規定する請求書等に該当するとは認められず、

また、仕入税額控除が認められるためには、請求人の場合、仕入税額控除に

係る帳簿及び請求書等を、遅くとも平成10年課税期間については平成11年

4月1日までに、平成11年課税期間については平成12年4月1日までに、

平成12年課税期間については平成13年4月1日(以下、平成11年4月1日及び

平成12年4月1日と併せて「各基準日」という。)までに、それぞれ整理し、

以後7年間これを保存することを継続していることが要件となるが、

別表の〔2〕欄ないし〔6〕欄の資料は、いずれも本件調査の開始後に請求人が

取引先から取り寄せたもので、請求人が各基準日までに整理し、以後本件

各決定処分に至るまで継続して保存したものではないから、消費税法第30条

第7項に規定する帳簿及び請求書等に該当するとは認められない。

〇請求人の申述も併せみれば、請求人は、各課税期間の各基準日までに

消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等を保存していなかったと

認めるのが相当であるから、原処分庁が、各課税期間の納付すべき税額等の

計算に当たり、仕入税額控除の適用をしなかったことは適法である。

なお、請求人は帳簿及び請求書等を保存できなかったことにつきやむを

得ない事情が存したことを主張、立証せず、当審判所の調査の結果によっても

そのような事情が存したとは認められない。

〇仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等の保存がない本件においては、

請求人が実際に負担した仕入税額があると認められたとしても、仕入税額

控除の適用を認めないことが消費税法第30条第1項及び第7項の規定の趣旨に

かなうのであるから、原処分庁が本件各決定処分において仕入税額控除の

適用を認めなかったことは相当であり、違法・不当な点は認められない。

〇たとえ帳簿書類等を復元したとしても、上記ハに述べた各基準日までに

整理し、以後これを継続して保存するとの要件を満たすことにはならないから、

いずれにしても仕入税額控除の適用は認められない。

中小企業の場合、帳簿及び請求書等の保存状況が「本来のあるべき姿」と

なっていないケースも多々あります。

もちろん、本裁決のように「他の証拠資料によって課税仕入れに係る

支払対価の額を合理的に推認」できる場合であっても、法定要件を満たした

ことにはなりません。

その大半が調査の開始後に取引先から取り寄せた元帳のコピーであるなどの

状況も大きく影響したかと思いますが、この点はしっかり押さえておく必要が

ある部分です。

 

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