代表取締役の妻の退職と在任年数
※2015年5月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「代表取締役の妻の退職と在任年数」ですが、
平成22年4月6日の裁決を取り上げます。
中小企業の場合、夫婦二人三脚という状態で、妻も経営の重要な部分に
関わりながらも、役員としては登記されていないケースがあります。
では、この妻がその後に役員として登記された場合、退職する段階での
役員退職金の計算上、在任年数はどのように計算すべきなのでしょうか?
これが問題になったのが本件なのですが、下記の状況でした。
○ 有限会社として設立された法人(その後、株式会社に組織変更)
○ 妻は有限会社の時代には取締役として登記されていない
○ 株式会社への組織変更時に取締役として登記
○ 妻の役員退職時に役員退職金1億円を支給した
月額報酬なども争点になっているのですが、ここでは「勤続年数」について、
考えていきたいと思います。
この前提の中、原処分庁は下記と主張しました。
○ 役員としての勤続年数は、登記により外形的に確認できる取締役に就任
してから退任するまでの17年である。
○ 妻が、法人税法施行令第7条《役員の範囲》第2号の規定による役員
(以下「みなし役員」という。)に該当することを客観的・具体的に示す
事実は把握できず、請求人の反論書からも確認できない。
これに対し、請求人は下記と主張しました。
○ 妻は有限会社の時代、みなし役員に該当する。
○ 役員としての勤続年数は、みなし役員であった年数と取締役であった
年数を合計した32年である。
そして、国税不服審判所の判断は下記となったのです。
○ 請求人の役員退職給与の額の算定方法を定める本件規程は、「取締役
又は監査役」の退職の場合に限定しているから、妻に支払われる退職金
の額は、本来、取締役と使用人との退職金の額に区分して算定すべき
こととなるが、この点、区分して算定すべきかどうかについて検討する
と以下のとおりである。
○ 代表取締役(夫)は、妻が従業員の採用、資金繰りの決定、
従業員賞与の査定など重要な意思決定に参画し、設立時から夫婦二人で
請求人の経営に当たってきた旨答述する。
○ 妻が当審判所に提出した陳述書には、設立時から妻は、従業員の労務
管理、監督官庁等の折衝、官工事等の指名願い、取引先との交渉等のほか、
代表者に代わっての対外折衝、事務所及び工場の移転や組織変更など
請求人の重要事項の決定に大きく関与していた旨の具体的かつ詳細な
内容の記載があり、その内容は主要な部分で夫の答述と合致する。
○ 設立時からの従業員の答述も請求人が大きく繁栄したのは夫と妻の二人
の尽力が多大であったとするものであり、その内容は夫の答述及び妻の
陳述書の内容に沿うものであり、これらはいずれも信用でき、妻が役員
就任前と後を通じて実質的に請求人の経営上主要な地位を占めていたと
みるべきである。加えて、有限会社時代には登記上の役員のうち常勤
役員が夫だけであったことからすると、その間、妻は、代表者を補佐し、
実質的に請求人の経営上主要な地位を占めていたことが十分推察できる
ものである。
○ これらのことを総合勘案すれば、■■■■■は、取締役就任以前の
使用人時代において株式会社の取締役時代と同様に請求人の経営に従事
していたものと推認される。
○ そうすると、有限会社時代も実質的に請求人の経営に従事していたと
認められる妻の退職に当たり、請求人の取締役会において、取締役と
使用人とに区分して算定することなく、使用人としての勤務期間を含め
妻の全勤務期間に本件規程を適用する旨決定したことについては、
妻に対する評価が退職金の算定期間に適正に反映しているものとみる
べきであり、合理性が認められる。
○ ところで、妻が請求人の経営に従事していたと認められるが、法人税法
第2条第15号及び法人税法施行令第7条第2号の規定によると、
請求人における夫及び妻の持株割合が50%を超えていれば、妻は
みなし役員に該当することとなる。
○ この点、昭和50年9月末現在における夫及び妻の請求人に対する
持株割合は64%であり、他に当該割合の変動を示す資料もなく、
有限会社時代、請求人における両人合計の持株割合が50%以下となる
ことはなかったものと推認され、持株割合の基準は充たしているものと
認められる。
○ よって、有限会社時代において、妻はみなし役員に該当するとみるのが
相当である。
○ 妻の役員退職給与の相当額を算定するに当たり、勤続年数は使用人時代
を含めて32年とするのが相当である。
いかがでしょうか?
中小企業の場合は妻の実際の現場に関わる場合も多く、経営に関わっている
場合もあれば、経営には関わっていない場合もあります。
ここは事実認定の問題ですが、前者であり、持株要件等を満たしているなら、
当然にみなし役員となり、その退職金の計算に当たっての在任年数には、
使用人の期間も含めるべきです。
過去は訂正できませんので、今後も同様の事例は発生し得るでしょうから、
その場合の反論材料として、本件を是非、覚えておいて頂ければと思います。
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