会計データは誰の物か?
※2016年6月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
さて、今回は「会計データは誰の物か?」ですが、
平成25年9月6日の東京地裁判決(平成25年9月6日)をご紹介します。
顧問契約の解除に伴い、税理士と元顧問先ともめることがあります。
その中で「会計データ」の引き渡しを巡り、争いとなった事例が本判決です。
結論から申し上げると、税理士の主張が認められたのですが、
この判決文については、全文をお読みになることをお奨めします。
以下、判決文ですが、
〇原告(税理士)が被告(本顧問先)に対し原告の保有する被告の
会計データを引き渡さなかったことが債務不履行に該当するか否か
〇当該債務不履行により被告が被った損害額について
が争点です。
〇被告は、本件顧問契約に基づき、原告に対し、被告の会計データの入力を
代行する業務を依頼していたのであり、入力の結果完成した成果物である
総勘定元帳、補助元帳等の各種補助簿を含む会計データの所有権は、
入力代行業務を依頼した被告自身に帰属しており、原告は、被告から
上記会計データの引渡しを求められた場合には、当然に、これを被告に
引き渡す義務を負う旨主張する。
前提事実に加え、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件顧問契約においては、
被告の総勘定元帳を作成することが委任業務の範囲に含まれていたものの、
原告に対して会計業務を依頼する中小企業の多くが決算報告書の作成を
主たる目的とし、日常的に総勘定元帳を必要としていなかったことなどから、
本件顧問契約を含め、原告と顧客との間の顧問契約においては、会計ソフトを
利用して作成した顧客の総勘定元帳を電磁的記録のまま会計データとして
保存することとし、会計データとしての総勘定元帳を印刷して紙により
保存することは原則として想定されていなかったことが認められる。
なお、法人は、総勘定元帳を含む帳簿書類を備え付け、これを所定の
期間保存することが義務付けられているところ、帳簿書類の保存方法は、
紙による保存が原則であり、これを電磁的記録のまま保存するためには、
予め所轄税務署長の承認を受ける必要があるが、被告の総勘定元帳について
かかる承認を受けた事実がないことは原告本人も供述するとおりであり、
それにもかかわらず、被告の総勘定元帳が紙により保存されていなかった
ことが適切な取扱いであったといえるかについては疑問がないわけではない。
しかしながら、本件顧問契約においては、税務調査等において必要が生じた
ときには、会計データとして保存していた被告の総勘定元帳を出力する
ことが予定されており、被告がこれを備え付けて保存することは可能な
状況にあったこと、原告は、本件顧問契約に基づいて被告から委任を受けた
自らの業務として自らの保有する会計ソフトを利用して会計データを作成
していたのであり、本件顧問契約にかかる会計データの引渡しやその所有権
の帰属等に関する定めもないこと、丁税理士もまた、顧客と会計ソフトを
共有していない場合等、電子データを引き渡すのでなく、プリントアウト
した総勘定元帳等の資料を交付する場合があることを認める旨の供述を
しており、税理士が一般的に顧客に対する会計データの引渡義務を
負うことを認めているわけではないことからして、原告が保存していた
会計データの所有権は、その業務遂行の主体である原告自身に帰属する
ものと解するのが相当であり、これに反する被告の主張は採用することが
できない。
したがって、原告が、被告から会計データの引渡しを求められた場合には、
当然に、これを被告に引き渡す義務を負う旨の被告の主張は採用することが
できない。
〇次に、被告は、原告が、平成22年4月20日、被告代表者に対し、
被告の会計データを引き渡すことを約束していたものと主張する。
ア 証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
・被告の従業員の戊(以下「戊」という。)は、平成22年3月16日、
被告の経理及び総務を担当する管理部のマネージャーとして入社した者である。
・戊は、同年4月8日、原告の従業員に対し、数期前からの総勘定元帳が
ほしい、原告が入力した会計データをコピーさせてほしい等と述べ、
その頃、被告の取締役である己(以下「己」という。)もまた、原告に対し、
会計データの引渡しを求めるようになった。
・原告及びその夫は、同月20日、被告代表者と面談し、戊や己の処遇に
ついて被告代表者の考えを確認した上、確定申告書上の損益が本来の
損益とは異なり、いわゆる粉飾決算がなされていること、原告が税務調査の
際にも総勘定元帳を提出していないこと、総勘定元帳は被告にとって
いわゆる心臓部であり、経営者以外に見せるものではないことなどを述べ、
総勘定元帳を被告代表者に見せることは構わないが己及び戊には見せない
方がよい旨を述べた。その際、被告代表者は、原告から、本件顧問契約に
おいては総勘定元帳の出力が予定されていない旨を告げられ、原告に対し、
「データでは出るんですか。」と尋ねたところ、原告は、「もちろん
データでも・・出しますし」と答えたが、税務調査の際も総勘定元帳を
全部見られることのないよう対処しているのでこの点を含んでおくように
と述べた。
・上記認定事実によれば、原告は、被告代表者に対し、総勘定元帳の
電子データの提供を承諾する趣旨の発言をしているものの、かかる発言は、
被告代表者との信頼関係が維持されていることを前提に、被告代表者のみに
これを開示することを許容したものにすぎず、己及び戊を含む第三者に
これを開示することを許容したものとまではいえないから、原告が、
会社組織としての被告に対して会計データそのものを引き渡すことを
約束したものとまでは認められず、この認定に反する被告の主張は採用
することができない。
〇以上によれば、原告が、被告に対し、原告の保有する被告の会計データを
引き渡さなかったことが債務不履行に該当するものとはいえない。
いかがでしょうか?
解約したされた場合の諸条件の取り決めが顧問契約書に記載されている
ケースは少ないでしょう。
しかし、こういう事例もあるので、解約時にトラブルになる可能性が
ある項目は(未収金の支払い期限、資料、データの引渡しなど)は
顧問契約書に明記しておいた方が無難でしょう。
覚えておいてください。
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