会長の死亡と議決権の行使
※2015年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「会長の死亡と議決権の行使」ですが、
平成9年1月28日の裁決を取り上げます。
例えば、下記の状況の会社があった場合、みなさんはどのような提案を
しますか?
〇株主構成:会長(父)60%、社長(子、長男)40%
〇父が死亡時の相続人は子3人(長男、次男、三男)
〇長男、次男、三男は仲が悪い
〇次男、三男はこの会社には属していない
父は事業承継を考え、少しずつ株式を長男に移動させ、40%に至った
という状況です。
この状況のまま、会長の相続が発生した場合、株式(議決権)は
どのようになるのでしょうか?
長男の議決権は「40%+60%×1/3=60%」となり、何とか過半数を
維持できるのでしょうか?
いえ、そうはなりません。
この場合、会長が持っていた60%は「準共有」という状態になり、
次男と三男が結託すれば(3人のうち2人が結託すれば)、60%のうち、
過半数を握ることができます。
この場合、60%の議決権につき、次男または三男を議決権行使者として、
会社に届け出ることができるのです。
参考条文:会社法106条(共有者による権利の行使)
株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての
権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を
通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。
ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
当時は会社法ではなく、商法の時代ですが、下記の最高裁判決があります。
○有限会社の持分を相続により準共有するに至った共同相続人が、準共有社員
としての地位に基づいて社員総会の決議不存在確認の訴えを提起するには、
有限会社法二二条、商法二〇三条二項により、社員の権利を行使すべき者
(以下「権利行使者」という)としての指定を受け、その旨を会社に通知する
ことを要するのであり、この権利行使者の指定及び通知を欠くときは、
特段の事情がない限り、右の訴えについて原告適格を有しないものという
べきである(最高裁平成元年(オ)第五七三号同二年一二月四日第三小法廷
判決・民集四四巻九号一一六五頁参照)。
○そして、この場合に、持分の準共有者間において権利行使者を定めるに
当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することが
できるものと解するのが相当である。
○けだし、準共有者の全員が一致しなければ権利行使者を指定することが
できないとすると、準共有者のうちの一人でも反対すれば全員の社員権の
行使が不可能となるのみならず、会社の運営にも支障を来すおそれがあり、
会社の事務処理の便宜を考慮して設けられた右規定の趣旨にも反する結果
となるからである。
○記録によれば、亡新井重行は、被上告会社らの持分をすべて所有していた
ものであり、その法定相続人は、妻である上告人新井とよ子(法定相続分
二分の一)と子である上告人新井久美子及び同新井千恵子(同各五分の一)
の外、亡新井重行と新井幸子との間に生まれた新井吾一(同一〇分の一)の
四名であるところ、上告人らは、新井吾一の法定代理人であった新井幸子が
権利行使者を指定するための協議に応じないとして、権利行使者の指定及び
通知をすることなく、被上告会社らの準共有社員としての地位に基づき、
本件各社員総会決議不存在確認の訴えを提起するに至ったことが明らか
である。
○しかしながら、さきに説示したところからすれば、新井幸子ないし
新井吾一が協議に応じないとしても、亡新井重行の相続人間において
権利行使者を指定することが不可能ではないし、権利行使者を指定して
届け出た場合に被上告会社らがその受理を拒絶したとしても、このことに
より会社に対する権利行使は妨げられないものというべきであって、
そもそも、有限会社法二二条、商法二〇三条二項による権利行使者の指定
及び通知の手続を履践していない以上、上告人らに本件各訴えについて
原告適格を認める余地はない。
○その他、本件において、右の権利行使者の指定及び通知を不要とすべき
特段の事情を認めることもできない。
○本件各訴えを却下すべきものとした原審の判断は,以上と同旨をいうもの
として是認することができる。
いかがでしょうか?
上記では、長男、次男、三男という前提で書きましたが、先妻の子が1人、
後妻の子が2人という状況でも同じことが起きる可能性があります。
また、ケースとしては少ないかもしれませんが、実子1人、婚外子2人という
場合もあるでしょう。
いずれの場合も会長の相続に伴い、後継者である社長が解任されるという
リスクがあるのです。
そのため、こういうリスクがあるならば、遺言などの方法により、
事前に手を打っておかないと大変なことになるのです。
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