保険料贈与プランが否認された事例
※2015年7月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
さて、今回は「保険料贈与プランが否認された事例」ですが、
平成19年6月12日の裁決を取り上げます。
相続税の基礎控除引き下げを受け、生命保険各社が相続税について、
注目しています。
その中、いわゆる「生命保険料の贈与プラン」も注目されています。
これは「祖父母から孫」、「両親から子供」に保険料相当額を贈与し、
受贈者(孫、子供)が保険料負担者となり、保険事故発生時には、
一時所得課税になるというスキームです。
ただし、このスキームの論点は「保険料相当額の贈与が成立しているか?」
ということです。
贈与という行為は民法549条に定めがありますが、「贈与は、当事者の
一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾を
することによって、その効力を生ずる。」とされています。
つまり、「贈与者の意思」、「受贈者の意思」があって初めて成立するもの
なのです。
この「受贈者の意思」が無いままに、贈与をした「つもり」の行為が多いので、
保険料贈与プランに限らず、名義預金が相続税の税務調査で問題になるのです。
では、このことが問題になった上記裁決を具体的に取り上げますが、
原処分庁は「本件保険契約の実質の契約者、保険料の実質の負担者は亡■■
であると認められ、保険料に見合う金員の贈与があったと認めるに足る証拠は
存在しないことから、本件保険金及び本件保険の権利は、相続税法第3条の
規定に該当し相続税の課税対象となる。」と更正処分をしました。
まずは、認定事実です。
○ 本件保険契約に係る保険料は、亡■■の役員報酬及び配当の振込口座
である■■■■■■■■の普通預金口座から引き出されるなど、すべて
亡■■の所得から賄われていた。
○ 請求人らは、本件相続の開始約10年前に、本件保険契約は亡■■が
死亡したときの相続税を支払うために契約した旨を亡■■から聞いて
いたが、本件相続の開始までは本件保険契約の証券を受領しておらず、
本件保険契約に係る保険料の額、保険料払込期間及び保険期間などの
保険契約の内容を知らなかった。
○ 本件相続の開始までにおける本件保険契約に係る保険料の支払の手続きは、
妻■■がすべて行っており、請求人らが行ったことはなかった。
○ 請求人らは、平成15年8月7日に亡■■から株式2,700株及び
現金1,500万円の贈与を各々受ける旨の贈与契約書を作成しているが、
請求人らと亡■■間で、本件保険契約に係る保険料相当額の金員の贈与に
関する贈与契約書が作成されたことはない。
○ 請求人らは、平成15年において亡■■から株式2,700株及び
現金1,500万円の贈与を各々受け、平成15年分の贈与税の申告を
行っているが、本件保険契約に係る保険料相当額の金員の贈与については
申告しておらず、他の年分についても本件保険契約に係る保険料相当額
の金員について亡■■からの贈与として贈与税の申告を一度も行って
いない。
そして、国税不服審判所の判断は下記となりました。
○ 請求人らは、本件保険契約にかかる保険料は、亡■■から保険料支払の
都度贈与されたものである旨主張するが、以下のとおり、亡■■から
請求人らに本件保険契約に係る保険料相当額の金員の贈与があったとは
認められない。
・ 贈与は契約であり、本件においても請求人らに受贈の意思が必要である
ところ、請求人らは、本件相続の開始まで本件保険契約の要素ともいう
べき保険料の額などを知らなかったのであるから、請求人らに受贈の
意思があったと認定することは困難である。
・ 保険料支払の都度贈与されたものであれば、受贈者が成人に達した後は
少なくとも保険料の支払の手続を請求人らが行うのが通常であるところ、
本件相続の開始までに本件保険契約に係る保険料の支払の手続を請求人ら
が行ったことは一度もない。
・ 本件において、本件保険契約に係る保険料相当額の金員を贈与したか
どうかが後々問題になることは明らかであるから、贈与事実があれば、
後々問題とならないように贈与契約書を作成するなど贈与事実を証拠化
するのが通常であるところ、現に請求人らは、平成15年8月7日に
亡■■から現金1,500万円の贈与を各々受けた旨の贈与契約書を
作成している。それにもかかわらず、請求人らと亡■■間で、本件保険
契約に係る保険料相当額の金員の贈与に関する贈与契約書は一度も作成
されていない。
・ 別表3(割愛)の本件保険契約に係る保険料の支払状況のとおり、
本件保険契約に係る保険料相当額の金員について、亡■■から請求人らに
対し贈与があれば、各年において、請求人らに贈与税の申告及び納税義務
が発生する。多額の贈与を受ければ贈与税の申告を行うのが通常である
ところ、現に請求人らは、平成15年において、亡■■から現金
1,500万円の贈与を各々受け贈与税の申告を行っている。それにも
かかわらず、請求人らは、本件保険契約に係る保険料相当額の金員に
ついて、贈与税の申告を、平成15年分を含め一度も行っていない。
○ そうすると、請求人らが取得した本件保険金及び本件保険の権利に
ついては、亡■■が本件保険契約に係る保険料の全部を負担したもの
であり、相続税法第3条の規定により相続税の課税財産となるから、
本件更正処分は適法である。
このように、保険料贈与プランが成立するかどうかは「贈与の事実」が
最大のポイントです。
昭和58年9月に国税庁から発せられた事務連絡「生命保険料の負担者の
判定について」においても「例えば、(1)毎年の贈与契約書、(2)過去の
贈与税申告書、(3)所得税の確定申告書等における生命保険料控除の状況、
(4)その他贈与の事実が認定できるものなどから贈与事実の心証が得られた
ものは、これを認めることとする。」とされています。
保険料贈与プランの場合、毎年の保険料相当額を贈与することが一般的
ですので、「毎年の」贈与契約書を作っておくべきなのです。
さらに、毎年の贈与は「毎年、個別的に」成り立つものです。
贈与が「個別的に」成り立っている前提ならば、生命保険料が10年間の
有期払込みだったとしても、下記のようにはなりません。
https://www.nta.go.jp/taxanswer/zoyo/4402_qa.htm
ここを誤解している税理士もいるので、改めて確認しておきましょう。
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