個人(事業主)の取引先が破産した場合の貸倒損失計上の考え方
※2022年10月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガから引続き、
取引先の「破産」にかかる貸倒損失を取り上げますが、
今回は取引先が法人ではなく個人(事業主)のケースです。
なお、先に留意しておいていただきたいのですが、
この論点について触れている書籍や記事はほぼ無く、
裁決・判決も汎用性のある考え方を明示していません。
このことから「明確な答えはありません」。
重要なのは法人の破産との違いを理解することです。
先週までの内容を復習しておくと、
破産の法的手続きには債権債務の切捨てが
ありませんので、取引先の「法人」が破産した場合、
破産手続終結決定⇒法人格消滅⇒債権も付随的に消滅
と考え、貸倒損失を計上することができます。
一方で、相手方が法人ではなく個人の場合、
個人が破産しても、その個人自体は消滅しません。
ですから、法人と個人は同じ論法が成立しません。
先週取り上げた公開裁決事例
https://www.kfs.go.jp/service/JP/75/21/index.html
においても「しかしながら、上記イのとおり、
法人の破産手続においては、自然人の破産手続とは異なり」
として、その違い・区分に触れられています。
もう少し法律的な解説をすると、個人が破産しても、
それは該当する債務が免責されるのであって、
債務自体はなくならないという考え方になります。
これを「自然債務」と呼んでいます(学説の対立は
あるようですが、一般的な理解はこうなります)。
つまり、個人が破産したとしても、
・免責される=債権者は強制執行ができなくなる
・自然債務は残る=債務者がその後に任意で
返済した場合は有効な法律行為となる
(贈与や不当利得にはならない)
ということです。
このことから、取引先の個人が破産した場合、
破産したという事実だけで貸倒損失を計上するのは
かなり難しい(事実認定が困難で立証が難しい)ので、
実務上は下記のような対応になろうかと考えます。
●9-6-1(4)を適用する
破産後も法律的には自然債務が残っていることから、
書面郵送によって債権放棄(債務免除)する。
●9-6-2を適用する
これを論拠とする場合、「その債務者の資産状況、
支払能力等からみてその全額が回収できないことが
明らかになった場合」の要件を満たす必要があります。
破産後に資力を回復している場合や、
事業を行っている事実がある場合は、
事実認定で否認されるリスクが高まるでしょう
(詳細は後述します)。
●9-6-3を適用する
売掛債権であって、特に少額である場合、
この通達を論拠とすることは可能かと思いますが、
破産=免責されている以上、破産後の督促は
実質的に行えないので、破産前の督促行為などを
立証する必要があるでしょう。
なお、9-6-2における「その全額が回収できない」
というのは、相手方が法人であれば(判例等により)
3~5年程度の債務超過で説明できるかもしれませんが
相手方が個人の場合、生活できているという事実から、
毎月1円でも回収できるのであれば適用ができない
(実質的に適用がない)と主張する調査官もいますが、
下記の判決が非常に参考になるでしょう。
東京地裁平成25年10月3日判決
税務訴訟資料 第263号-177(順号12301)
(TAINS:Z263-12301)
・貸付金等の金額:3億7872万4236円
・高齢の債務者
・毎月の年金受給額は約21万円
・公的年金は法的に差し押さが禁止されている
⇒
「年金の全額を貸付金等の返済に充てたとしても、
全額の返済には150年以上かかることとなる」
として貸倒損失の計上を認めた
この判決は債務額が多額であることから、
9-6-2を論拠とした貸倒損失が認められましたが
相手方が個人の場合、「回収可能性がない」ことを
立証するのは、法人よりもさらに困難であることに
違いはないと思います。
来週水曜の本メルマガでは、取引先の破産を
後になって知った場合の更正の請求において、
実務上注意すべき点を解説します。
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一切受け付けておりませんのでご留意ください。
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