• HOME
  •  › ブログ
  •  › 借地権の無償譲渡の課税関係
2016.03.04

借地権の無償譲渡の課税関係

※2014年6月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

さて、今回は「借地権の無償譲渡の課税関係」ですが、

平成22年7月9日の裁決を取り上げます(全部取消し)。

同族関係の場合、役員個人が所有している土地の上に法人の建物が存在する

にも関わらず、「土地の無償返還に関する届出書」が出ていないケースも

非常によくあります。

もちろん、実務上はこの状態が継続していたとしても、権利金の認定課税が

行なわれることはまずありません。

以前に、国税庁の要職にあったOB税理士の方で著書も非常に多い先生に

これを質問した際も「権利金の認定課税、地代の認定課税は見たことが

ありません」とお話しされていました(実際問題としては、租税回避スキーム

を行なったことにより、認定課税をされている事案はありますが)。

しかし、所有関係(権利関係)が変わった場合の「出口課税」は別問題で、

そこには注意を要しなければなりません。

実際に、上記裁決の事案では、

〇 法人側で借地権相当額の益金算入

〇 借地権相当額の給与課税(役員賞与)

と、税務調査の現場では更正等がされているからです。

まずは、具体的な内容に入る前に該当通達をみておきましょう。

(借地権の無償譲渡等)

13-1-14 法人が借地の上に存する自己の建物等を借地権の価額の全部又は

一部に相当する金額を含めない価額で譲渡した場合又は借地の返還に当たり、

通常当該借地権の価額に相当する立退料その他これに類する一時金(以下13

-1-16までにおいて「立退料等」という。)を授受する取引上の慣行がある

にもかかわらず、その額の全部又は一部に相当する金額を収受しなかった場合

には、原則として通常収受すべき借地権の対価の額又は立退料等の額と実際に

収受した借地権の対価の額又は立退料等の額との差額に相当する金額を相手方

に贈与したものとして取り扱うのであるが、その譲渡又は借地の返還に当たり

通常収受すべき借地権の対価の額又は立退料等の額に相当する金額を収受して

いないときであっても、その収受をしないことが次に掲げるような理由による

ものであるときは、これを認める。

(1) 借地権の設定等に係る契約書において将来借地を無償で返還することが

定められていること又はその土地の使用が使用貸借契約によるものであること

(いずれも13-1-7に定めるところによりその旨が所轄税務署長に届け出られ

ている場合に限る。)。

(2) 土地の使用の目的が、単に物品置場、駐車場等として土地を更地のまま

使用し、又は仮営業所、仮店舗等の簡易な建物の敷地として使用するもので

あること。

(3) 借地上の建物が著しく老朽化したことその他これに類する事由により、

借地権が消滅し、又はこれを存続させることが困難であると認められる事情

が生じたこと。

では、この事案の前提条件にいきましょう。

〇 請求人は建設機械用部品の製造業を営む法人

〇 元々は土地建物共に個人の所有だった

→ 建物は昭和55年9月築(建築後約24年経過)

→ 阪神大震災を経て、外壁のクラックや内部損傷が見受けられる

〇 平成10年2月に建物を個人から法人に売却

〇 平成10年6月に土地の賃貸借契約を締結(借地期間3年)

→ 契約書には、権利金の授受及び無償返還の記載はなし

→ 無償返還の届出書の提出もしていない

〇 請求人は債務超過だったため、企業再生のため、平成16年2月に

  全株式を取引先に売却し、100%減資と第三者割当増資を行った

〇 平成16年4月に本社機能を遠方に移転

〇 法人は建物を個人に売却したが、借地権相当額の金銭の授受は行われ

  なかった(年月日不明)

→ 売却金額は平成16年2月の不動産鑑定価額を採用

〇 原処分庁は平成16年2月の不動産鑑定価額があることから、通達に

  記載されている「借地上の建物が著しく老朽化したこと」に該当しない

  こと等を根拠として、更正処分等をした

〇 この土地建物は平成16年3月に所有者である個人から第三者に売却

この状況の中、国税不服審判所は下記の判断をしました。

〇 固定資産である借地の返還時期については、引渡しがあった日とするのが

  相当であり、引渡しがあった日については、相手方において使用収益が

  できることとなった日と解するのが相当であるので、本件において、

  相手方である■■■■らが本件借地の使用収益をすることができること

  となった日について検討する

〇 請求人は■■■■■■付で本件借地について本件合意解除を行ったもの

  であり、借地権自体は消滅したというべきである

〇 しかしながら、借地権が消滅したからといって、それだけで底地を所有

  している個人が本件借地を自由に使用収益することができる状態になった

  とはいえない。

〇 本件建物売買契約を締結した時点で本件借地の返還があったと見るべき

〇 本件建物は請求人の会議室、接待、請求人の子会社の代表者や幹部来日

  の際の宿泊所として使用されていたが、旧本社より遠方の新本社への

  移転という環境の変化により、従来の利用方法には適さないものとなった

  ことが認められる

〇 上記新本社の周辺には既に社宅も備わっていることから、あえて新本社

  から遠く離れた本件建物を使用する必要性は低い

〇 第三者への賃貸により居住用建物等として利用する可能性についても、

  本件建物が老朽化していることから、第三者へ貸付けを行うとしても、

  改造費、修繕費及び維持経費を必要とすることは明らか

〇 近隣地域における同規模住宅の賃料から検討しても、地代と同額以上の

  賃料収入の確保は困難である

〇 これらの事情によれば本件建物を第三者へ転貸することによる採算性は

  非常に乏しい

〇 本件建物を本件借地権とともに第三者に譲渡して対価を得ることについて

  も、本件各賃貸借契約において、本件借地権の譲渡又は本件借地の転貸に

  際しては賃貸人の承諾が必要とされていることが認められるところ、本件

  建物及び本件借地は、賃貸人の自宅敷地と一体的に利用されていたのであ

  るから、同人の承諾を得られる可能性は低いというべきである。

〇 ■■■■(個人)は請求人の経営方針等に関する決定権限を失ったものと

  認められる。そうすると、その後になされた借地契約の合意解除は、

  請求人において、本件建物が従来の使用目的を果たせなくなり、不必要な

  賃借料の削減というコスト面から、土地所有者である■■■■らに申し

  出て合意されたものとみることが相当であり、土地所有者の都合による

  解除とはいえない

〇 本件建物の敷地に係る借地を無償で返還したことには、経済的合理性が

  あり、法人税基本通達13-1-14(3)に定める借地権を存続させる

  ことが困難であると認められる事情に該当する

いかがでしょうか?

本件は特殊な要素も多分に含む個別事例ではありますが、基本通達の注書き

の判断基準が争われた事例として、覚えておくべき事例となります。

そもそも論ですが、契約書に無償返還の記載があり、かつ、「土地の無償返還

に関する届出書」が提出されていれば、この問題にはなりませんでした。

しかし、現実問題として、この部分が見落とされているケースは本当に多く、

その状態は将来の課税問題に発展する可能性もあるので、十分にチェックを

しておくべきです。

また、「土地の無償返還に関する届出書」の裏面に記載の記載要領等を

しっかり読んだことがない方も多いでしょうから、ここも併せて読んで

おきましょう。

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

毎週水曜日に配信する『税務調査対策のメールマガジン』では、最新の税務調査事情はもちろんのこと、調査官の心理、税務署のウラ側など元国税調査官だからこそ語れるマニアックなテーマまでをお届けします。
「こんなことまで話して本当に大丈夫ですか?」 と多くの反響を頂く税理士業界では話題のメルマガです。
お名前とメールアドレスを登録するだけで 毎週【 無料 】でメルマガを配信いたします。