分掌変更と役員退職金
今回は「分掌変更と役員退職金」です。
先日、私のところに下記の単発相談がありました。
○思いがけず多額の利益が上がったので取締役副社長(第三者)が退任し、
常勤監査役になった(役員退職金は1億円)
○役員報酬は50%に減額(月200万円 → 月100万円)
○社長がまだ未熟なため、会社には毎日出勤
○決済はしないが、実態は従前のまま
○役員退職金を否認されたくないが、何を保全したらいいか?
こういうご相談は皆さんにも多いのではないでしょうか。
もちろん、私は「『退職の事実』を『適正に』作らないと危険です」と
お伝えしたのですが、どの条件も譲れない感じでお帰りになりました。
団塊の世代の社長等が退職の時期を迎えていますが、この世代の方々は
仕事一辺倒で来た場合も多く、「今さら会社に来ないなんてできない」
「退職後も会社に来てしまえば、退職前と同じ状況になってしまう」
という場合も多くあります。
しかし、退職の事実を否認された場合の役員退職金は個人法人とも
多額の納税が発生し、目も当てられません・・・。
では、具体的な判決の前に該当する基本通達を確認しましょう。
(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
9-2-32 法人が役員の分掌変更又は改選による再任等に際しその役員に
対し退職給与として支給した給与については、その支給が、例えば次に掲げる
ような事実があったことによるものであるなど、その分掌変更等により
その役員としての地位又は職務の内容が激変し、実質的に退職したと同様の
事情にあると認められることによるものである場合には、これを退職給与
として取り扱うことができる。
(1) 常勤役員が非常勤役員(常時勤務していないものであっても代表権を
有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上主要な地位を
占めていると認められる者を除く。)になったこと。
(2) 取締役が監査役(監査役でありながら実質的にその法人の経営上
主要な地位を占めていると認められる者及びその法人の株主等で令第71条
第1項第5号《使用人兼務役員とされない役員》に掲げる要件の全てを
満たしている者を除く。)になったこと。
(3) 分掌変更等の後におけるその役員(その分掌変更等の後においても
その法人の経営上主要な地位を占めていると認められる者を除く。)の給与
が激減(おおむね50%以上の減少)したこと。
(注) 本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が
未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。
この通達に定める「例示」ですが、実務上は実質的な要件のように
取り扱われているいますが、本来はそうではありません。
実際、京都地裁(平成18年2月10日→平成19年3月13日に最高裁で
上告不受理にて確定)では下記となっています。
○乙は、同年4月1日以降も、原告の取締役であり、報酬も減少したものの
月額45万円を受け取っている上、取引先との対応などの原告の業務にも
従事しており、原告を退職したということはできない。
○また、丙も、同日以降、監査役として法的な責任を負う立場にあって、
原告との委任関係は続いており、また、報酬も減少したものの月額8万円
を受領しているのであるから、丙が原告を退職したということもできない。
○本件通達も、形式的に本件通達(1)から(3)までのいずれかに当たる
事実がありさえすれば、当然に退職給与と認めるべきという趣旨と解する
ことはできない。
○丙については、平成14年3月31日以前は、従来から懇意にしていた
一、二の取引先に機会があれば顔を出す程度で実質的な業務にはかかわって
いなかったところ、原告代表者は、同年4月1日以降は、取引先に顔を出す
こともなくなった旨供述する。しかし、そのような変化があったとしても、
原告の業務への実質的な関与という点での変化と見ることはできず、
その他、丙が実質的に原告を退職したと同様に取り扱うのが相当なほど
業務が激変したことをうかがわせる事情は見当たらない。
結果として、「退職の実態」が非常に重要だということであり、
一番最後の箇条書きの中で「激変」という言葉が使われていることに
注目すべきでしょう。
団塊の世代の退職に伴い、「役員退職金は支払いたいが、仕事も継続したい」
というニーズがあることも事実です。
そういうご相談があった場合には上記判決を提示し、説明することも
必要かと思います。
日本中央税理士法人の見田村元宣
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※2013年11月の当時の記事であり、
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