分掌変更と持ち株数の関係
※2014年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「分掌変更と持ち株数の関係」ですが、
平成20年6月27日の東京地裁判決(確定)を取り上げます。
以前のブログで「分掌変更に伴う役員退職金」について否認され、
納税者の主張が認められなかった根拠の1つとして、下記を挙げました。
請求人の定時総会等は、議決権の3分の1以上を有する株主の出席を求め、
出席株主の議決権の過半数をもって決議するとしているところ、本件役員は、
請求人の発行済み株式総数の2分の1を超える持株があることから、請求人
の定時総会等は、本件役員の出席なくしては開催できず、かえって、本件役員
のみでも開催し決議も行えることからしても、本件役員は、請求人において、
本件分掌変更後もなお一定の影響力のある地位を占めていると認められる。
こう書くと、筆頭株主であることも多い代表取締役にはそもそも分掌変更であれ、本来の退職であれ、役員退職金を支払うことができないのではないか?
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、あくまでも株主は株主という位置付けであり、分掌変更に伴う
役員退職金は「実質的に退職したのと同様の事情」があれば、認められるべき
ものとなります。
実際、上記の判決でも同旨が示されているので、これを解説していきます。
まずは、この判決の前提条件です。
○ 洋品雑貨の販売、呉服等の繊維製品の販売等を営む株式会社
○ 代表取締役(持ち株35%の筆頭株主)を退任して、監査役に就任
○ 役員退職金は4,500万円(役員賞与として更正)
この前提の中、課税庁側は下記と主張しました。
○ 原告会社は親族4人が発行済株式のすべてを所有する同族会社であり、
原告乙はそのうち35%を所有する筆頭株主であって、代表取締役退任後
もその株式の所有割合に変化はない。このように、原告乙は監査役として
法人税法上の役員であるとともに、実質的な経営者又はオーナーといい
得る株主であり、重要な経営判断に影響を与え得る立場にある。
○ 原告会社のような同族会社においては、大株主の権限は実質的に経営者
と変わることがない。
○ 原告乙は、平成元年から約15年間にわたり原告会社の代表取締役で
あったのであり、また、現在の代表取締役である甲(以下「甲」という。)
の父であるのであるから、仮に、現在、原告会社の経営に影響する行為
を行っていないとしても、原告会社において重要な経営判断が迫られた
ときには、他の役員から前代表取締役としての経験を基に判断を仰がれたり、
経営方針の説明を受けたりし、長年の経験を活かして、所有する株式
を通じて原告会社の経営に参画することができる状態にある。
○ そうすると、原告乙は、引き続き実質的に原告会社の経営上主要な地位
を占めていると認められ、他に役員としての影響力を否定するような事情
があるということもできないから、代表取締役から監査役への分掌変更に
より、その職務の内容又は地位が激変したとは認められない。
○ したがって、原告乙が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にある
とは認められず、本件退職給与は原告乙の退職に基因して支払われたもの
とは認められない。
しかし、東京地裁は下記と判断し、原告(納税者)の主張と認めたのでした。
○ 原告乙を監査役に就任させたのは、家族以外の者を役員とした際における
事務処理の煩雑を避けるためのものであることが認められるところ、原告
会社のように役員全員が同居する家族のみで構成される小規模な同族会社
においては、監査役の業務が実際上重要視されておらず、原告乙のように、
現実には仕事をすることが困難な状況にある者について上記のような扱い
をすることは間々あることということができるし、原告乙の外に新たに
役員に就任するに足りるほど、原告会社の業務に関与している者の存在は
うかがわれないのであるから、原告乙が監査役に就任したことをもって、
原告乙に原告会社の経営上重要な地位又は権限が残っていることの現れと
みることはできない。
○ 原告乙は役員の分掌変更の前後を通じて原告会社の発行済株式の35%を
所有する筆頭株主ではあるものの、前記認定事実のとおり、原告会社の
発行済株式は、その全部を同居する家族がその出資割合に応じた比率の
まま所有していることなどに照らすと、原告会社において、役員が経営上
の方針等について、その株式の所有割合に応じた影響力又は発言力を有し
ているとは認め難い。
○ 原告乙は原告会社において、役員としてはおろか、従業員としても一切の
業務を行っていない状態になったのであって、仮に、原告乙が筆頭株主と
して原告会社に対して何らかの影響を与え得るとしても、それは、飽くま
で株主の立場からその議決権等を通じて間接的に与え得るにすぎず、役員
の立場に基づくものではないから、株式会社における株主と役員の責任、
地位及び権限等の違いに照らすと、上記のような株式保有割合の状況は、
原告乙が原告会社を実質的に退職したと同様の事情にあると認めること
の妨げとはならないというべきである。
○ 原告乙が約15年間にわたり原告会社の代表取締役を務めており、原告
会社の現在の代表取締役である甲の父であるとしても、そのような事情
は原告乙が原告会社の経営に影響を与え得る可能性を抽象的に示すもの
にすぎず、実際に原告乙が上記のような立場に基づいて原告会社の経営
に関与していることは何らうかがわれないのであるから、上記事情を
もって原告乙が経営上主要な地位を占めていることを示すものと評価
することはできない。
本事例は重大な病気により仕事をすること自体が困難な状況であるにも
関わらず、更正され、東京地裁にまで至った事案です。
繰り返しですが、あくまでも株主は株主であり、議決権等を通じて間接的に
会社に影響を与え得る立場に過ぎません。
もちろん、「退職の事実」、「実質的に退職したのと同様の事情」が大前提
でありますが、筆頭株主であることを理由に否認指摘をされた場合には、
本判決を提示し、反論していくことが大切です。
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