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2016.03.30

分掌変更に伴う役員退職金

※2014年8月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

さて、今回は「分掌変更に伴う役員退職金」ですが、

平成24年12月18日の裁決を取り上げます。

本件の争点は「役員退職金に不相当に高額な部分の金額があるか否か」であり、

これについて更正された事案ですが、国税不服審判所の調査により、「分掌

変更に伴って、実質的に退職したのと同様の事情は無い」として、役員退職金

そのものが否認された珍しい事案です。

まずは、本件の認定事実です。

○ 本件役員は、60歳になったことを機に代表取締役を辞任したが、健康上

  の理由等により職務を遂行できないなどの特別な事情はなかった。

○ 請求人は役員の定年について特に定めていない。

○ 本件役員は、オリジナルの■■■を完成させ、請求人の主力商品である

  ■■「■■■■■■■」及び「■■■■■■■」を開発した者である。

○ これらの商品は、■■■■■■■■として有名であり、当該商品の開発に
 
  より請求人の売上げは増大した。

○ 本件役員は、本件分掌変更後、請求人の工場に月3、4回出社する程度と

  なったが、本件分掌変更後も製造管理に関し、■■製造の技術的な指導

  (製造ラインの機械調整、■■■■■■設定や■■期間の判断等)を行って

  いる。
  

○ 当審判所の職員が本件役員と平成24年5月22日に面談した際に受領

  した名刺には「代表取締役 ■■■」と表記されていた。

○ 本件役員は、請求人のホームページに「取締役会長」として「■■に、

  そして日本・世界へいい■■を。」との記事を掲載していたが、■■は、

  平成24年10月24日に当審判所から指摘されるまで、当該記事の掲載

  時期、掲載理由について承知していなかった。

この状況の中、国税不服審判所は下記と判断しました。

いつもより長いですが、重要な事例なので、敢えて、詳細を記載します。

○ 本件役員は、本件分掌変更後も請求人の取締役であるから、本件金員に

  不相当に高額な金額があるか否かの審理に先立ち、本件分掌変更が実質的

  に退職したと同様の事情にあると認められるか否かについて検討する。

○ 一定の要件の下に退職給与として損金算入することを認める旨の特例を

  定めた本件通達(見田村注:9-2-32)は、実質的に退職したと同様

  の事情にあると認められる場合の例示として①常勤役員が非常勤役員に

  なったこと、②分掌変更等後の役員の給与がおおむね50%以上減少した

  ことなどを挙げるが、同族会社等における悪用も想定し、課税上の弊害を

  防ぐ観点等から、①については「常時勤務していないものであっても

  代表権を有する者及び代表権は有しないが実質的にその法人の経営上

  主要な地位を占めていると認められる者を除く。」、②については「その

  分掌変更等の後においてもその法人の経営上主要な地位を占めていると

  認められる者を除く。」と明記している。
      

○ そうすると、単に、常時勤務しなくなったということや、給与が半分以下

  になったということだけで、退職したと同様の事情にあると認められる

  ものでないことは明らかであり、「法人の経営上主要な地位を占めている」

  か否かは、必ずしも、いわゆる経営判断をする者か否かによってのみ判断

  されるとするのは相当ではなく、同族関係者のみが役員であるような同族

  会社においては、当該法人の実情に応じて、当該法人に不可欠な業務を

  行う者か否かを考慮することも合理性があるといえる。

○ これを本件についてみると、請求人は、本件各事業年度において同族会社

  に該当する上、同族関係者以外の役員はいない。

○ 本件各事業年度において、金融機関からの借入金がない、いわゆる無借金

  経営であり、また、■■■の価格交渉や■■の生産計画もほとんど不要で、

  年間事業計画書あるいは生産計画書も作成されていないことからすれば、

  請求人における代表取締役として、具体的にどのような業務がいわゆる

  経営判断と考えられるのか判然としない。

○ 請求人も、平成21年6月30日の前後で「業務の全般的な指揮監督」を

  行う者は、本件役員から■■になったとするのみで、本件各事業年度に

  おいてその具体的業務は明らかではない。

○ 請求人は、■■■■■■■■■■■■■■の製造及び販売を業とし、主力

  商品である「■■」の売上げが業績に大きく関わることからすれば、その

  製造管理(■■製造ラインの機械調整、■■■■■■設定管理、■■期間

  の判断等)は請求人にとって重要な業務であるところ、請求人が分掌変更

  後においても本件役員に対し、請求人で常勤しているとする取締役の

  ■■■及び■■の役員給与月額■■■■を下回るものの月額■■■■の

  役員給与を支給していることも、請求人における商品の製造管理に関する

  技術的な指導が重要な業務であることの証左と認められる。

○ 本件役員は、分掌変更後において、請求人の工場への出勤状況が月に

  3、4回程度になるとともに、役員給与の額が3分の1になっていること

  が確認されるが、■■■■■■■■■から3億円の融資を受けるに当たり、

  平成22年6月に同行職員との面接に参加したり、本件分掌変更後にも

  関わらず代表取締役と表記された名刺を携行して部外者に交付し、また、

  請求人のホームページに「取締役会長」として請求人の理念を掲載して

  いた(■■は当該記事の掲載時期、掲載理由について承知していなかった。)

  など、請求人における地位を保っていた。
          

○ 請求人の定時総会等は、議決権の3分の1以上を有する株主の出席を求め、

  出席株主の議決権の過半数をもって決議するとしているところ、本件役員

  は、請求人の発行済み株式総数の2分の1を超える持株があることから、

  請求人の定時総会等は、本件役員の出席なくしては開催できず、かえって、

  本件役員のみでも開催し決議も行えることからしても、本件役員は、

  請求人において、本件分掌変更後もなお一定の影響力のある地位を占めて

  いると認められる。

○ 以上を総合的に勘案すると、本件役員は、本件分掌変更後において、給与

  の額が半分以下になり、また、常時勤務していないとしても、請求人に

  とって不可欠な業務を行い、影響力ある地位を占めていると認められる

  から、本件役員は、本件分掌変更により実質的に退職したと同様の事情に

  あるとは認められない。

○ したがって、本件金員は、退職したことに起因して一時的に支払われる

  給与、すなわち役員退職給与として取り扱うことはできない。

○ 請求人は、①本件役員は、月次会議資料、社長就任祝賀会資料、稟議書、

  営業会議議事録のとおり、請求人の経営に関与してないことから、請求人

  の経営の意思決定を左右することはない、②製造ラインに関する技術的な

  指導を行っており、経営判断の根幹に関わる指導は行ってない、③役員

  給与を3分の1に減額したことから、本件役員は退職と同様の事情にあり

  本件金員は役員退職給与に該当する旨主張し、原処分庁も本件役員は退職

  と同様の事情にある旨主張するが、本件役員が平成21年6月30日付で

  退職したと同様の事情があるとは認められないから、請求人及び原処分庁

  の主張には理由がない。
 

○ 本件金員は、役員退職給与に該当しないところ、法人税法第34条第1項

  第1号から第3号までに規定するいずれの給与にも該当しない役員給与で

  あるから、平成22年2月期の損金の額に算入されない。したがって、

  本件金員に不相当に高額な部分の金額があるか否かについては判断をする

  までもない。

いかがでしょうか?

分掌変更に伴い役員退職金は問題になることも多いですが、当然、その判断は

出社日数等ではなく、経営判断等に関わらず、「実質的に退職したのと同様の

事情」があると認められるかどうか、ということになります。

役員報酬も半分以下にした、出社日数も週1~2回程度にした、という状況

であっても、経営判断等に関わっていれば、役員退職金は否認されます。

ここは納税者も税理士も誤解されている方が多いので、ご注意ください。

 

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