分掌変更の役員退職金は未払計上が認められるのか?
※2023年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
株式会社KACHIELの久保憂希也です。
先週水曜の本メルマガでは、分掌変更の退職金が
対象役員=筆頭株主・大株主であることを理由に否認されるのか
について解説しましたが、今回のメルマガでは分掌変更の
役員退職金について未払計上が認められるのかを取り上げます。
まず、分掌変更による役員退職金を規定する
法人税基本通達9-2-32の注書きには下記とあります。
「(注)本文の「退職給与として支給した給与」には、原則として、
法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない。」
この通達注書きがどこまで有効なのか、また上記はあくまでも
【原則として】とある以上、どのようなケース・要件において
原則ではない=未払計上が認められるのかが論点になります。
一方で、役員退職金の未払計上を定めた別途通達が存在します。
法人税基本通達9-2-28
(役員に対する退職給与の損金算入の時期)
退職した役員に対する退職給与の額の損金算入の時期は、
株主総会の決議等によりその額が具体的に確定した日の属する事業年度
とする。ただし、法人がその退職給与の額を支払った日の属する事業年度
においてその支払った額につき損金経理をした場合には、これを認める。
本通達のただし書では、役員退職金の未払計上(支給日の損金経理)
を認めており、どちらが優先されるのかという問題となります。
さて、分掌変更の役員退職金において未払計上が認められるのかを
争った有名な裁判として「東京地裁平成27年2月26日判決」
があり、この判決では【未払計上が可能】と判断しています。
この判決の詳細および解説については、下記が詳しいため、
ぜひ参考にしてください。
Profession Journal 租税争訟レポート【第27回】
「分掌変更に伴う役員退職金の分割支給(東京地方裁判所判決)」
ここで、国税内で最も参考にされていると言える
「法人税基本通達逐条解説」(十訂版)において、
法人税基本通達9-2-32注書きを解説した部分を
一部転載しておきましょう。
「(略)役員退職給与という性格上、その法人の資金繰り等の
理由による一時的な未払金等への計上までも排除することは
適当ではないことから、「原則として」という文言が付されている
ものである(略)。ところで、このように、原則としては
未払金等への計上を認めないとしていることとの関係上、
退職金を分割して支払いその都度、損金算入するといったことも
認められないのではないかと見る向きがある。この点、
役員の分掌変更等が実質的に退職したと同様の事情にあることが
前提であることは言うまでもないが、分割支払に至った事情に一定の
合理性があり、かつ、分掌変更段階において退職金の総額や
支払の時期(特に終期)が明確に定められている場合には、
恣意的に退職金の額の分割計上を行ったと見ることは適当ではない
ことから、支払の都度損金算入することが認められると考えられる。」
以上から、分掌変更の役員退職金において未払計上が
認められる要件としては下記と考えられます。
●【大前提】実質的に退職したと同様の事情にあること
(この論点は先週までの本メルマガで詳しく解説済み)
●分割払い=未払計上に至った事情に一定の合理性があること
(利益操作と見なされる場合は否認リスクが上がる)
●退職金の総額や支払時期が明確に定められていること
(株主総会で明確に決定されていること)
分掌変更の役員退職金を未払計上が全く認められていない
わけではありませんが、上記のとおり法令解釈通達には
「原則として認めない」とされている以上は、税務調査においては
厳しく前提事実が確認されることになるでしょう。
上記の判決と逐条解説の内容を踏まえ、事実認定による
否認リスクを勘案したうえで未払計上を判断すべきです。
さて、分掌変更による役員退職金の解説はここまでとし、
来週水曜の本メルマガでは、(一般的な)役員退職金
について、勘違いされやすい事項を解説することにします。
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