判決と更正の請求
今回は「判決と更正の請求」です。
今日は裁判の判決を理由とした更正の請求(国税通則法23条2項1号)が
無効とされた事例(最高裁、平成23年10月21日)をお伝えします。
なお、この事例は久保さんがブログで紹介した
「調査担当者のための『重要判決情報』」にも掲載されているものです。
ここに記載されている内容をまとめながら、別の視点も加えたいと思います。
具体的な内容の前に、まずは条文を確認したいと思います。
2 納税申告書を提出した者又は第二十五条(決定)の規定による決定(以下
この項において「決定」という。)を受けた者は、次の各号のいずれかに該当
する場合(納税申告書を提出した者については、当該各号に定める期間の満了
する日が前項に規定する期間の満了する日後に到来する場合に限る。)には、
同項の規定にかかわらず、当該各号に定める期間において、その該当すること
を理由として同項の規定による更正の請求(以下「更正の請求」という。)を
することができる。
一 その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつ
た事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の
行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なること
が確定したとき。 その確定した日の翌日から起算して二月以内
つまり、「判決等により税額等が変わった場合、2ヶ月以内なら更正の請求が
できる」ということです。
しかし、今回の事例は判決があったにも関わらず、
この更正の請求が認められませんでした。
以下、具体的な前提条件を記載します。
○ Aは祖母BからX社の株式を16,875,000円で買い取った
○ 税務調査を受け、これが時価よりも著しく低いと否認され、
Aに贈与税が課税された
○ Bは「売買契約は錯誤により無効」として、更正の請求をした
→ 更正をすべき理由がない旨の通知がされた
○ AとBはこれらの処分の取り消しを求めて提訴(国側勝訴、確定)
○ Aはこの裁判の結果を受け、「売買契約は錯誤により無効」として、
新たに訴え、「この売買契約は錯誤により無効」という判決を得た
○ 後者の判決により、AとBは更正の請求をしたが、更正をすべき理由が
ない旨の通知がされ、裁判になった
そして、裁判所の判断は下記となりました。
○ 通則法23条2項1号の「判決」とは申告時には予想し得なかった事由
その他やむを得ない事由に基づき課税標準等又は税額等の基礎となった
事実を変更するものをいう
○ AとBはこの売買契約により贈与税が生じる可能性を考えていたにも
関わらず、贈与税が生じないと軽く考え、贈与得税の申告をしなかった
○ 十分に課税関係を検討し、税理士などの専門家に相談していれば、
比較的容易に贈与税が生じることを認識できた
○ 税務調査で指摘を受けて錯誤に陥っていたことを認識し、その申告内容を
翻して更正の請求をしているが、このような錯誤に基づく更正の請求
を認めた場合、租税法律関係が不安定になり、申告納税制度の趣旨を
没却することになりかねない
○ この無効判決は、納税申告時には予想し得なかった事由その他やむを
得ない事由に基づき、課税標準又は税額等の基礎となった事実を変更
するものということはできない
○ 今回の判決は通則法23条2項1号に定める判決に当たらない
この判決では、錯誤に関する判決が更正の請求の対象になる判決に当たるか
どうかにつき、形式的な判決があることのみで判断するのではなく、
同条1項の期間内に更正の請求をしなかったことにつき、やむを得ない事情
があったか否かにより判断すべきであるとも判示しています。 ┃
当然ですが、判決が形式的なものかどうかについては、
いわゆる「馴れ合い訴訟」かどうかを判断しなければなりません。
今回は国側が当事者間の答弁書などからこれを立証した結果となりました。
当然ですが、「判決さえあれば、更正の請求が可能」ということになれば、
これが可能である期間が無限になってしまいます。
結果として、判決があったとしても、それが形式的なものであれば、
これに基づいた更正の請求はできないということです。
いかがでしょうか?
私は弁護士から「判決を取っておけば大丈夫です」と聞いたこともあります。
また、税務を保全するために裁判を起こしたケースも聞いたことがあります。
しかし、それは上記事例にもあるように100%の方法ではなく、
現実的にはそれが馴れ合い訴訟かどうかで判断されることになりますので、
慎重に考慮すべき論点です。
実際にはそうであったとしても、税務上は通ってしまうことも
あるのでしょうが、だからといって、何でもOKとはなりません。
判決があったとしても、そこに至る経緯、経済合理性を十分に検討し、
更正の請求の対象になるかどうかを判断すべきなのです。
(見田村 元宣)
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2013年3月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。