別荘の譲渡と時価
さて、今回は「別荘の譲渡と時価」です。
同族会社が所有している固定資産をその役員に売却する場合は
グループ法人税制の対象外になるため、含み損の実現が可能です。
また、「貸借対照表の固定資産はなるべく軽くしたい」というニーズもあり、
遊休資産などの売却をすることもあります。
今回の事例は法人所有の別荘の建物の売却に際し、その時価が問題と
なったものです。
では、前提条件です。
○ 請求人は建設業を営む同族法人
○ 請求人の代表者の妻が山林を取得(ゴルフ会員権付別荘地として開発)
○ 平成8年8月に請求人がその土地に別荘を建築(約5,450万円)
→ 社員研修所、取引先との友好や親睦を目的としたクラブハウス、当社の
設計や施工の技術アピールのためのモデルハウスと答述
○ 平成14年2月に請求人が代表者に建物を500万円(税込)で売却
→ 譲渡日時点の帳簿価額は約5,200万円
→ 取引先等が減少するなど、利用価値がなくなったため、代表者に売却
と答述
○ 原処分庁は事業年度末まで減価償却を定率法により行なった未償却残高
約4,626万円を時価とし、差額を役員賞与と認定した
これに対して、納税者はデフレ経済下における再取得価額の下落などを理由に
原処分庁の時価算定は不適法と主張しました。
争点は「建物の時価をいかに考えるのか?」ということです。
この状況の中、国税不服審判所は双方の主張を退け、独自に鑑定を行ない、
下記の判断としました。
○ この別荘地内の不動産売買に関しては土地付建物に市場価値があり、
建物だけの価額が売買の対象とはならない
○ 本件建物の用途が社員研修所、モデルハウス等であって、建物自体に
特殊性が認められるから、本件建物価額を求めるためには、建物及び
その敷地が一体として市場性を有する場合における市場価値から
建物評価額を算出し、さらに本件建物自体の用途等の特殊性を考慮する
必要がある
○ 原処分庁が主張する「建物取得価額を基礎として、取得の日から
本件事業年度終了の時まで定率法により償却を行ったものとした場合の
未償却残高から建物価額を算定する方法」、請求人が主張する「近年の
不況や諸般の事情を考慮して建物価額を算定する方法」、「固定資産税
評価証明書に記載された評価額を建物価額とする方法」のいずれに
よっても、建物及びその敷地が一体として市場性を有する場合における
市場価値から建物評価額を算出し、本件建物自体の特殊性をさらに
考慮して、合理的に算定することはできない
以下は鑑定の内容です。
○ 別荘地は全般的に低価格化が著しく、割安な中古物件を手軽に
購入するか、更地を購入するケースがほとんどであり、新築の建売別荘
や中古でも1,000万円を超えるような物件に対しては極端に需要が
減る
○ 平成14年度の全国の別荘地市場については縮小傾向が継続し、新規供給
及び売上げは、一層減少してきており、市場として絶滅寸前の低迷状態
である
○ 本件建物のある別荘地の総区画数は3,000区画を超えているが、
価額評価時点の前後では年数件の取引にとどまり、当該取引価額は
更地又は中古建物付の取引価格で、総額400万円前後が中心価格帯と
なっている
○ 本件建物が存する土地は、この別荘地内のやや奥まったところにあり、
特段優れた眺望はなく、傾斜方向が北西向きであるなど、同一需給圏に
おける競争力はやや劣ると思われる
○ 本件建物については、意匠を凝らした設計設備であり、施工の質、
量とも高く、初期投資された資本は高額であるが、個性的な建物は
一般的な需要者の好みに合わない場合も多く、特に別荘不動産市場では
自分の思い通りに建てたいという需要者志向から、マイナス要素として
捉えられる
○ 投下資本額と同一需給圏における中心価格帯との乖離が大きいため、
相当の期間での売却を想定した場合、どれほどの市場価値で評価
されるかは十分に検討する必要がある
○ この別荘地内で立地、眺望の優れた物件が低価格で売却されている状況
の中で、本件建物の競争力は極めて低い
○ 建物の評価額は1,226万円
○ 実際の売却価格(税抜価格で約476万円)との差額を
固定資産売却益の計上もれとして、更正処分を取り消した
いかがでしょうか?
顧問先から「簿価約5,200万円の建物を
500万円で売却したい」と言われたら、どう対応しますか?
当然ですが、「帳簿価額=時価」と法令等に書いてある訳ではありません。
しかし、多額の売却損は税務調査でも問題になる可能性があるので、
時価が下落している固定資産を売却するならば、不動産鑑定を依頼し、
「適正な時価」を算定することが大切なのです。
見田村 元宣
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2013年10月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。