収支内訳書の虚偽記載と重加算税
※2016年4月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。
日本中央税理士法人の見田村元宣です。
今回は「収支内訳書の虚偽記載と重加算税」ですが、
平成27年7月1日の裁決をご紹介します。
本裁決は「収支内訳書に虚偽記載をしただけでは、隠ぺい仮装があったとは
認められないと判断した事例」です。
かなり長文であり、事実関係も細かいので、主要な部分のみを抜粋しますが、
一度、全文をお読みになることをお奨めします。
本事案の概要は「請求人が所得税の修正申告、消費税の期限後申告をした
ところ、原処分庁が正当な売上金額を把握できたにもかかわらず、恣意的に
操作して算出した売上金額により所得税の収支内訳書を作成するなどした
ことは、隠ぺい又は仮装に当たる」とした状況です。
ロ 認定事実
(ロ)本件各年分の事業所得に係る総収入金額等について
C 請求人は、平成24年11月21日、J事務官の「なぜ、売上を抜いたのですか。」
との質問に対し、「最初は、借入れたお金をFXで取り返そうと思っていた
のですが、そのFXで大損してしまったので、借入れ金返済のために、売上を
意図的に抜いていました。」と申述した。
(ハ)本件各年分の事業所得に係る必要経費について
請求人は、本件領収書を保存していたところ、請求人は、平成25年2月1日、
J事務官の「開業から現在まで、経費仕入は、どのように申告していましたか。
」との質問に対し、「5年分保存はしていますが、申告のときに集計はして
いません。開業してから、現在まで、経費も適当な金額で多く申告して
います。」と申述した。
(ヘ) 本件売上金額メモ及び本件税額メモの記載内容等について
C 本件税額メモの記載内容等
(A)本件税額メモに記載された「○○○○」との数字は、平成18年分の
収支内訳書に記載された収入金額と一致している(別表3参照、不掲載)。
なお、この点について、請求人は、平成25年2月1日、J事務官に対し、
「○○○○は、平成18年分の申告のときの売上金額です。」と申述した。
(B)本件税額メモに記載された「○○○○」及び「○○○○」との数字
については、平成18年分の収支内訳書及び確定申告書には、当該数字と一致
する金額は記載されていない。
なお、この点について、請求人は、平成25年2月1日、J事務官の「レシート
(本件税額メモ)の「○○○○」は何の数字ですか。」との質問に対し、
「どのような計算をしたかは、よくわかりませんが、税額計算をする表を
見て、税率をかけて出していると思います。○○○○が、どこの数字か、
自分もよくわかりません。確定申告の計算さえよくわかっていません。」
と申述した。
(C)請求人は、平成24年12月26日、J事務官から提示された本件税額メモ
について、平成18年分の所得税の「納税額を少なく申告する際に、試しに
計算した時のメモ書きです。」と申述し、また、当該申述に続く「いつ頃から、
このような不正な計算をしていたのですか。」との質問に対し、「だいたい
5年程前からです。」と申述した。さらに、請求人は、平成25年2月1日、
J事務官の「平成24年12月26日の聴取書に添付したレシートの裏面の数字
について教えて下さい。」との質問に対し、「先日、お話したとおり、
5〜6年程前から、納税額を少なく申告するときに、納税額を試しに計算した
ものです。」と申述した。なお、平成24年12月26日の聴取書に添付した
レシートの裏面とは、本件税額メモのことである。
D その他
(A)J事務官は、異議審理庁所属の異議申立てに係る調査の担当職員に対し、
要旨次のとおり各申述をした。
a 請求人は、「確定申告は毎年税金から計算して、税金がだいたい○○○○円
にならないぐらいになるように額を考えて、その後所得金額を決めて、その
金額をもとに売上金額の合計から一部を除外し、仕入金額、必要経費を
水増した。」と言っていた(平成26年6月19日の申述)。
b 請求人が上記aのとおりの発言をしたのは、平成24年12月26日である
(平成26年6月30日の申述)。
c (平成24年12月26日付の聴取書に、請求人の上記aの発言が録取されて
いない理由について、)その日の聴取書には請求人が残したメモのことに
ついて質問したことを中心に記載しようと考えていて、毎年税金から計算
するという発言は聴取書に残すほど重要なことだとはその時点では
思わなかった(平成26年6月30日の申述)。
(B)上記(A)のaの発言の内容は、本件H調査担当職員が作成した調査経過
記録書には記載されていない。
ハ 当てはめ
(ロ)特段の行動について
原処分庁は、[1]請求人が本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していたこと、
[2]請求人が本件試算メモを廃棄していたこと、及び[3]請求人が本件収支内訳書
に、何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を記載していたことは、
当初から所得等を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも
うかがい得る特段の行動をしたものと認められる旨主張するので、以下、
検討する。
A 本件売上金額メモについて
(A)本件売上金額メモに記載された特定の日の金額とその直前の日の金額
との差額は、K社からの日々の売上金額と一致又は近似する箇所が複数ある
ことから、本件売上金額メモは、K社からの日々の売上金額の累計金額
(月ごと)を記載したものと認められる。そして、当日までの売上金額の
累計金額を記載するためには、前日までの累計金額に当日の売上金額を加算
しなければ算出できないことからすると、請求人は、本件各年分の全期間を
通して、K社からの日々の売上金額を計算し、累計の売上金額をメモ書して
いたと推認される。にもかかわらず、本件売上金額メモ以外に、同様の記載が
ある書類がなかったこと及び請求人の申述のうち、本件売上金額メモは日々の
売上げを集計したものの一部であり、ほとんどは捨てていた旨の申述は、
これらの事実に符合して信用できることからすると、確認できなかった日付に
係るものについては、請求人が廃棄したものと認められる。
(B) しかしながら、[1]売上金は、全て本件口座に振り込まれ、しかも本件
通帳は保存されていたこと、[2]請求人はK社から月度の売上金額が記載された
本件支払内容確認書等を受け取っていたこと、及び[3]本件売上金額メモが
発見された経緯は、上記ロの(ヘ)のAのとおりであり、本件売上金額メモ
以外に同様の記載がある書類がなかったことについて特に不自然な点はない
ことからすると、請求人が廃棄をしたのは、単に当該メモ書を保:存しておく
必要がなくなったからである可能性が十分に考えられ、正当な売上金額を
秘匿するために捨てたとは認め難い。
(C)したがって、請求人が本件売上金額メモと同様のメモ書を廃棄していた
ことをもって、当初から所得等を過少に申告する意図をうかがい得る特段の
行動をしたとは評価できない。
B 本件試算メモの破棄について
(A)本件税額メモは、請求人の平成18年分の所得税額の試算に関するもの
であることが認められる。そして、請求人は、平成18年分の所得税の申告に
当たって、過少に申告する意図で納税額を試算するために、本件税額メモを
作成した旨の申述をしているところ、当該申述がされた状況等を鑑みると、
当該申述は信用することができる。したがって、請求人は、平成18年分の
所得税の申告に当たって、過少に申告するために、本件税額メモを作成した
ことが認められる。
(B)しかしながら、本件税額メモにおける計算方法は明らかではない上に、
請求人の平成24年12月26日の「だいたい5年程前からです。」(同(C))
という申述は、その質問の「このような不正な計算」を受けたものであり、
当該「このような不正な計算」が、本件各年分においても平成18年分に係る
本件税額メモと同様のメモ書(本件試算メモ)の作成をしたことまでも意味
しているとは、文言上、解し難いことからすれば、当該申述をもって、
請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって、本件試算メモを作成して
いたとは認め難い。
また、上記ロの(ヘ)のCの(C)の請求人の平成25年2月1日の「5〜6年程前
から、納税額を少なく申告するときに、納税額を試しに計算したものです。」
との申述も、「平成24年12月26日の聴取書に添付したレシートの裏面の数字
について教えて下さい。」との質問に応答したものであり、当該質問の文言
からすると、同じく当該申述をもって、請求人が本件各年分の所得税の申告に
当たって、本件税額メモと同様の本件試算メモを作成していたとは認め難い。
加えて、その他に、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって本件試算
メモを作成していたことを認めるに足りる証拠はない。
(C)以上のことからすれば、請求人が本件各年分の所得税の申告に当たって
本件試算メモを作成していたことは認められず、もとより請求人がそれらを
破棄した事実もまた、認められる余地はない。
(D)なお、J事務官の各申述は、請求人が本件各年分の所得税の申告に
当たって、少なくとも税額の試算をしていたことをうかがわせ得る内容では
あるが、[1]請求人の発言内容は、平成24年12月26日付の聴取書に記載がない
だけでなく、調査経過記録書にも記載されていないこと、[2]請求人は「確定
申告は毎年税金から計算」していると言っていた旨のJ事務官の申述は、
「税額計算をする表を見て、税率をかけて出している」との請求人の申述内容
と整合しないことからすると、その信用性には疑問が残り、請求人が発言した
とするJ事務官の申述内容どおりの行為を請求人が行っていたとは認め難い。
C 本件収支内訳書の記載について
請求人が何ら根拠のない収入金額及び必要経費の額を本件収支内訳書に記載
していたことは、過少申告行為そのものであって、過少申告の意図を外部
からもうかがい得る特段の行動に当たるとは評価できない。
(ハ) まとめ
以上のとおり、原処分庁が主張する請求人の行為については、いずれも
「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からも
うかがい得る特段の行動をした」とは評価できないものか、行為そのものが
認められないものである。そして、他に通則法第68条第1項に規定する重加算税
の賦課要件に該当する事実を認めるに足りる証拠はない。
また、原処分庁は、請求人の本件各課税期間の消費税等の無申告についても、
上記請求人の行為をもって「特段の行動」があった旨主張しているところ、
これらは、同じ理由から、「特段の行動」とは評価できないものか、行為
そのものが認められないものであり、また、他に通則法第68条第2項に規定
する重加算税の賦課要件に該当する事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、請求人の本件各年分の所得税又は本件各課税期間の消費税等に
ついて、通則法第68条に規定する重加算税の賦課要件を満たすとはいえない。
以上です。
重加算税の要件を満たさないにも関わらず、重加算税との指摘を受けることは
多々ありますが、それは納税者にとっての不利益でしかありません。
当然、納税者の方は重加算税というものを法的に正しく理解していることは
少ない訳ですから、税理士が適正に理解し、納税者を守っていかなければ
ならないのです。
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